こんな文章から始まる書籍が、2月28日に日本文芸社から発売される。以前にも現役の小説家である秀島迅氏の著作『中世ヨーロッパの世界観がよくわかる　クリエイターのための階級と暮らし事典』をmonokakiでも紹介したが、今回はキャラクター設定に使える『キャラクター設定で使える　クリエイターのための職業と組織事典』。

　この書籍は「PART.1 警察」「PART.2 医療・消防」「PART.3 司法・法務」「PART.4 立法・行政」「PART.5 自衛隊」「PART.6 マスコミ・芸能関係」「PART.7 アンダーグランド」と全部で7パートに分かれている。各PARTの終わりには著者が書いたコラムもそれぞれ収録。また、最後には「クリエイターのための職業検定」も掲載されている。

　終盤の「クリエイターのための職業検定」には「創作のコツ 1 あらゆる職業の知識を身につければ、解像度の高いストーリーがつくれる」「創作のコツ 2 厳しい上下関係を利用して主人公の苦悩を描くのも鉄板」「創作のコツ 3 どんなジャンルにも使える覚えておきたい７つの職業分野」というページがある。ここでは本書の活用について説明されており、職業設定やそれぞれの役割をどう物語に活かすことができるかということも紹介している。
　日々創作に悩む作家さんたちにこそ読んでほしい！ と思い、monokaki限定で、特別に一部掲載の許可をいただいた。

　今回掲載箇所として編集部が「PART.1」から「PART.7」から二つずつ選出(「PART.5」のみ一つ)し、最後に「クリエイターのための職業検」から「警察編」「アンダーグラウンド編」を選んでみた。まずは記事を一読してほしい。読んでみて気になった人は本書を手に取り、ご自身のキャラクター創作に活かしてもらいたい。

PART.1 警察組織 

PART.1では、
「日本の警察組織図」
「捜査一課」
「捜査二課」
「捜査三課」
「暴力対策課（旧：捜査四課）」
「科学捜査研究所（科捜研）」
「警護課」
「公安総務課」
「交番勤務員」
「COLUMN1  民や国を守る職業は物語に感動を生みやすい」
が取り上げられている。
ここでは、「捜査一課」「公安総務課」を紹介する。

各PARTの冒頭にはこのような組織図が掲載されている。

警察官①

捜査一課

【関連する部署】
所轄警察署の刑事課　機動捜査隊　捜査一課特殊犯罪捜査班（SIT）など

【役職】
捜査一課長　理事官　管理官　係長　主任　係員　など

【必須アイテム】
警察手帳　白い手袋　手錠

【資格】
一定年数の勤務経験のある警察官でないと配属されない。また、品行方正であること、警察学校で優秀な成績を修めた者、犯人検挙数が多い者が優遇される。

【技能】
柔道、剣道、逮捕術、取り調べの技能

☑創作で登場させるコツ
学歴不問の叩き上げ刑事でも警察の花形トップに上り詰められる
　事件の発生によって、多くの物語は幕が開きます。ストーリーの要となり、起承転結のトリガーともなる事件は、当然ながら謎に満ちた残忍な凶悪犯罪であるほど展開を大いに盛り上げます。
　ここで重要なのが「追われる側」と「追う側」の関係性。すなわち犯人と警察のせめぎ合いです。殺人、放火、強盗、誘拐など社会の敵である凶悪犯罪の捜査を担う捜査一課は、創作における花形ポジション。正義のヒーロー、あるいは法の執行者として悪人に鉄槌を下すべく、主役級の役割を演じて読者を魅了します。
　捜査一課がフォーカスされるのは、担当する事件の凶悪性だけではありません。エリート街道を進む一流大学卒のキャリア組以外の叩き上げ刑事でも捜査一課長になれるからでしょう。努力と実力次第で警察の花形トップに上り詰められるドラマ性が読者の共感と応援をいざないます。等身大のヒーローキャラにふさわしい条件が捜査一課には揃っているわけです。

警察官⑦

公安総務課

【関連する部署】
警察庁警備局　など

【役職】
公安総務課長　理事官　管理官　係長　主任　係員　など

【必須アイテム】
パソコン　警察手帳　スーツ

【資格】
業務の特殊性から、公安部門は警察組織のエリート集団といわれ、警察学校でのトップクラスの成績や、警察官としての優秀な実績をあげている必要がある。

【技能】
情報収集・分析技術、監視技術、記憶力

☑創作で登場させるコツ
必要なら盗聴・盗撮も行うスパイ的な性質も備える
　国家レベルの重要案件に取り組む公安警察は、秘密主義的な部門としてほかの部署から独立したスタンスで動きます。よって関連性のある事件を追う刑事部とも情報の共有・交換は行わないという徹底ぶりです。そればかりか公安警察官への指令は極秘の中央指揮センターから下され、警察署のトップや本部上官であっても知り得ない厳命で活動する場合もあります。
　さらに公安警察は外部協力者を使って公然と情報収集を行い、盗聴や盗撮といった特異な手法で捜査するなど、ほかの警察部門ではタブー視されるスパイ的な性質を備えます。それでいて公安は警察組織きってのエリート集団といわれます。
　こうした特殊な権限を有する精鋭セクションは、物語世界では有効な存在として機能します。ともすれば犯罪者側に精通しすぎるため、善悪の区別がつきにくくなり、結果として「闇の力」を持つラスボスキャラとしてキャスティングできるからです。

PART.2 医療・消防 

PART.2では、
「医療・消防の組織と相関図」
「外科医」
「精神科医」
「小児科医」
「研修医」
「看護師」
「診療放射線技師」
「入院患者」
「歯科医」
「獣医」
「救命救急士」
「消防士」
「COLUMN2 令和の医療系物語にはチームワークが不可欠」
が取り上げられている。
ここでは、「外科医」「消防士」を紹介する。

医療・消防①

外科医
【関連する部署】
内科医　手術室看護師　診療放射線技師　など

【役職】
研修医　専攻医　助手　助教授　講師　准教授　教授　など

【必須アイテム】
マスク　手袋　手術器具

【資格】
医師免許を取得する必要がある。そして研修医として2年の臨床研修を積んだあと、さらに3年以上の専門医研修を積み、外科専門医の資格を取得しなければならない。

【技能】
集中力、忍耐力、精神力、学習意欲

☑創作で登場させるコツ
神業を持つ天才外科医など主役級ポジションが似合う
　医療系の小説・漫画・ドラマは、創作世界におけるスタンダードです。そのなかでも“外科医”は主役級の医師ポジションとして多数のヒット作品に起用されます。日本で医療エンタメ作品の金字塔といえば、1973～1983年にかけて週刊少年チャンピオン（秋田書店）に連載された手塚治虫先生による『ブラック・ジャック』でしょう。執刀医として神業を誇る主人公の天才外科医の活躍とドラマを描いた同作は今なお国内外で人気を集めます。
　外科医がフォーカスされる最大の理由は、人の命を預かる責任の重さに加え、誰もが直面する死への畏怖と克服を鮮明に描写できる点に尽きます。さらに外科医は処置に際して迅速な判断力と決断力、長時間の手術に耐え得る強靭なメンタルが求められます。
　つまり、患者にとっても医師にとっても「人間の本質とは何か？」と問うテーマ性やメッセージを語らせやすいため、外科の現場は創作者側からも引く手あまたの題材となっています。

医療・消防⑪

消防士
【関連する部署】
指揮隊　消防隊　救急隊　はしご隊　救助隊　など

【役職】
消防士　消防士長　消防司令　消防司令長　消防監　消防正監　など

【必須アイテム】
長靴　救助ロープ　防火ヘルメット

【資格】
消防士の採用試験に合格後、消防学校に入学して訓練を受け、卒業すると消防士として認められる。消防官は地方公務員であり、採用を受けた各自治体の所属となる。

【技能】
判断力、体力、俊敏性、精神力、行動力

☑創作で登場させるコツ
消火活動や人命救助に携わる“消防士”は子どもたちのヒーロー
　消防職員として勤務する“消防士”の仕事内容は、消防車で急行して火災を鎮める「消火活動」、傷病者を病院へ搬送する「救急活動」、被害を受けた人を助け出す「救助活動」、火災を未然に防ぐための「予防・防災活動」という4つに分けられます。
　火災発生時には真っ先に現場へ駆けつけ、消火活動や人命救助に携わる消防士は、特に子どもたちの憧れです。
　危険と隣り合わせでありながらも、人のために働く勇敢な姿はさながらヒーローのように映ることでしょう。
　とはいえ、危険な任務であることに変わりなく、物語で登場する消防士には惨劇や悲劇がつきものです。助けられる側の諸事情に加え、助ける側である消防士の家族や恋人といった人間模様にフォーカスすれば、悲喜こもごもの味わい深いドラマが描けます。
　その一方、尊い殉職がフラグによる大前提で待ち受けるため、展開と構成にひと捻りのオリジナルアイデアを絡めるべきです。

PART.3 司法・法務

PART.3では、
「司法と法務の組織と相関図」
「検察官」
「弁護士」
「裁判官」
「刑務官」
「保護司」
「受刑者」
「COLUMN3 専門知識を書きすぎると逆に読者は読みづらい」
が取り上げられている。
ここでは、「検察官」「保護司」を紹介する。

司法・法務①

検察官

【関連する部署】
警察官　裁判官　弁護士　検察事務官　検察技官　など

【役職】
検事正　次席検事　部長　検事　副検事　など

【必須アイテム】
検察官バッジ　風呂敷　事件記録

【資格】
検察官は司法試験に合格したあと、司法修習を修了し、法務省に採用される。検察事務官などから選考試験に合格した叩き上げの副検事もいる。正義感の強さが求められる。

【技能】
捜査指揮、取調べ技術、証拠の精査

☑創作で登場させるコツ
検察官と警察にどちらが上かという優劣はない
　通常、警察に逮捕された被疑者は身柄を拘束後、留置所に入れられます。そして逮捕後48時間以内に、その身柄と捜査記録を“検察官”に引き継ぐことが刑事訴訟法で定められています。
　被疑者を引き継いだ検察官は、被疑者が罪を犯したか、起訴が相当な事件かなど、真相究明のため、さらに捜査を重ねます。
　この際、検察官自身が捜査する場合もあれば、警察を指揮して行う場合もあります。法律上、検察官は警察を指揮できるものの、どちらが偉いという優劣はありません。小説やドラマでは検察官と刑事がいがみ合ったり、反目したりしますが、犯罪事件を解決して真犯人に法の裁きを与えるという立場では同じです。
　物語のテンプレ的には、情熱的な正義漢の刑事に対して、冷静沈着な分析家の検察官というのが一般的でしょう。しかしこの構図は旧態依然で特別な根拠などなく、検察官の新たなキャラ像を確立すれば犯罪ミステリーに新風を巻き起こすかもしれません。

司法・法務⑤

保護司

【関連する部署】
保護司会　保護観察所　更生保護サポートセンター　保護司選考会委員　など

【役職】
保護司会会長　副会長　など

【必須アイテム】
保護司バッジ　メモ帳　携帯電話

【資格】
保護司選考会に推薦され、選ばれる。信頼できる人柄、保護司活動への熱意、時間的余裕、生活の安定や健康などの条件を満たしている必要がある。

【技能】
指導技術、帰住先や就職先の調整力

☑創作で登場させるコツ
前科者を支える「善意の献身」は見逃せない設定要素のひとつ
　犯罪者にフォーカスした物語といえば、スリリングな犯行シーンのバトルアクションや謎解きミステリーなど、派手目でエンタメ色の強いストーリーを考えがちです。
　その一方、過去に犯罪者だった人に焦点を当てたシリアスドラマを書くなら、“保護司”という職務の役柄は欠かせません。
　いわゆる「ムショ帰り」に厳しい世の中です。一度でも反社側に足を踏み入れてしまうと、本人は更生したつもりでもまわりは警戒してなかなか受け入れようとしません。
　そうしたシビアな社会環境下で葛藤やジレンマや罪悪感に苛まれる前科者を支えていく保護司の存在は、物語においてひと筋の光となり、わずかながらも希望を与える人となります。
　高い評価を得た邦画『前科者』があるように、[ 個 vs 社会 ] というテーマを描く社会派ドラマにおいて、保護司のような善意の献身は見逃せない設定要素です。覚えておきましょう。

PART.4 立法・行政

PART.4では、
「立法・行政の組織と相関図」
「大臣」
「国会議員」
「議員秘書」
「政治団体職員」
「政界フィクサー」
「COLUMN4 フィクションかノンフィクションか政治設定は明確に」
が取り上げられている。
ここでは、「国会議員」「政界フィクサー」を紹介する。

立法・行政②

国会議員

【関連する部署】
衆議院議員　参議院議員　国会議員政策担当秘書　など

【役職】
特別委委員長　常任委員長　副議長　議長　など

【必須アイテム】
議員記章　選挙カー　選挙ポスター

【資格】
衆議院または参議院の選挙に立候補し、当選すると国会議員になれる。立候補できる年齢は、衆議院が満25歳以上、参議院が満30歳以上と決まっている。

【技能】
分析力、幅広い知見、実行力、人脈

☑創作で登場させるコツ
近年の実情も物語に反映すると読者の共感を得やすい
　歳費とは“国会議員”の報酬のこと。法律で定められる月額は129万4,000円。年額で 1,552 万8,000 円となります。さらに年二回支給される期末手当として計635万円が加算され、年収総額は軽く2,000万円を超えます。そこに「調査研究広報滞在費」や「立法事務費」といった経費が別途支払われます。
　年々切迫する国の財政状況を鑑みて、議員の定員人数と歳費の削減を求める世論の声が強くなっているのが現状です。
　その背景には、国民の暮らしや国政よりも、国会議員でありつづけるための選挙の根回しや支援者とのつながりを優先する者が少なくないからだといわれます。また、国会議員のポストが権力者や有力者にとっての再就職先となるケースも散見され、議員の高齢化が疑問視されているのは周知の通り。とかく批判が集まりがちな国会議員をめぐる問題は、実情を踏まえたうえで物語にうまく取り込めば、格好の題材となる場合があります。

立法・行政⑤

政界フィクサー

【関連する部署】
大臣　国会議員　など

【役職】
社長　大物政治家　など

【必須アイテム】
資金　人脈　高級スーツ

【資格】
莫大な資金や人脈を手にした権力者でなけ
れば、そうそう政治家を裏から操ることはできない。明確な資格や基準はなく、実体は謎に包まれている。

【技能】
資金力、発言力、社会的地位、人脈

☑創作で登場させるコツ
ラスボス感満載で創作と相性抜群な黒幕的存在
　ビジネスや企業活動においても、重大な意思決定の際、正規手続きを踏むことなく事案の決定に著しい力を行使する人をフィクサーと呼びます。ときに困難な状況を打開し、独自の交渉力やコネクションを駆使して事態収拾を図る人物を指す場合もあります。
　一方で“政界フィクサー”とは左頁の通り、「裏」から手を回す黒幕的存在です。具体的には、表沙汰になれば致命傷となる事件を揉み消したり、妨害工作を画策してライバルを蹴落としたり、あらぬ手段を用いて暗躍し、力業で事を進めます。
　ここまで書けばおわかりの通り、“政界フィクサー”という人物設定は、政治を扱う物語では旨味の凝縮されたエキスのごとく痛快に機能します。何しろ、すべてを意のままに画策して操れるラスボス的キャラなわけですから。
　ただし不用意な起用は避けるべきでしょう。「何でもあり」の展開になってしまえば、せっかくのキャラの旨味が半減してしまいます。

PART.5 自衛隊

PART.5では、
「自衛隊の組織図」
「陸上自衛隊」
「海上自衛隊」
「航空自衛隊」
「COLUMN5  創作で自衛隊を扱うには専門用語を覚える根気が必要」
が取り上げられている。
ここでは、「陸上自衛隊」を紹介する。

自衛隊①

陸上自衛隊

【関連する部署】
航空・海上自衛隊　防衛省　警察　消防　地方自治体　米軍　国連　など

【役職】
陸上幕僚長　師団長　旅団長　隊長　連隊長　郡長　班長　士長　など

【必須アイテム】
防弾チョッキ　ヘルメット　ゴーグル

【資格】
自衛官の採用試験に合格する必要がある。受験には、国籍や身体条件もある。適性検査により敵性外となった職種には、本人が希望しても配置されない。

【技能】
運転、操縦、危険物取扱、通信、IT技術

☑創作で登場させるコツ
日々厳しい訓練を重ねるハイスペックな組織部隊
　約14万もの隊員が所属し、全国に160の駐屯地と分屯地を構える“陸上自衛隊”は、自衛3組織のなかで最大規模を誇ります。
　その最たる特徴は、土木・通信などのインフラから、輸送、医療、食料、警務、さらには銃火器や戦車に至るまで、独立自営できる自己完結能力を有する点。つまり陸上自衛隊は一般社会から隔離された環境でも自活できる能力を持っているわけです。しかも隊員は日々厳しい訓練を重ねる優秀な人材です。
　ここまでハイスペックな組織部隊なら、物語上では多様な設定が考えられます。まず思いつくのはクーデターによる軍事政権樹立。隣国と共謀して日本領土内に別国を建立する設定もありでしょう。昭和では自衛隊員が戦国時代にタイムスリップするSF小説『戦国自衛隊』が大ヒットし、映画、劇画、ドラマになりました。
　強大な組織規模と軍事力に着目すれば、奇想天外で壮大な物語になり得る格好の題材といえます。

PART.6  マスコミ・芸能関係

PART.6では、
「マスコミ・芸能の組織と相関図」
「テレビ局・プロデューサー」
「テレビ局・ディレクター」
「芸能プロダクション」
「映画監督」
「アナウンサー」
「俳優」
「アーティスト」
「アイドル」
「You Tuber」
「記者」
「編集者」
「COLUMN6 芸能界への先入観は捨てて実情を見極めることが大切」
が取り上げられている。
ここでは、「テレビ局・プロデューサー」「You Tuber」を紹介する。

マスコミ・芸能①

テレビ局・プロデューサー

【関連する部署】
情報制作局　スポーツ局　報道局　技術局　編成局　営業局　など

【役職】
プロデューサー(P)　制作P　キャスティングP　など

【必須アイテム】
スマホ　ジャケット　社員証

【資格】
テレビ局か番組制作会社に就職し、AD(アシスタントディレクター)として下積みをした後、AP(アシスタントプロデューサー)などを経てなることが一般的。

【技能】
制作現場の統括、企画力、予算交渉力

☑創作で登場させるコツ
ストーリー展開に混乱をもたらすいい顔しいなおいしい役柄
　番組規模によっては、ゆうに100名以上のスタッフや出演者を統括する“プロデューサー”に求められる資質は、チームを牽引するリーダーシップと卓越したコミュニケーション能力です。
　テレビ局の制作現場は、人気芸能人や著名人もひしめく、いわば強者たちの巣窟。しかも広告スポンサーの横槍をやんわりかわしながら、一般視聴者の支持を得ることが任務となります。多方面への配慮を欠かすことなく、番組チームのモチベーションを維持し、「数字」という形で成功に導かなければなりません。
　それら全責任を背負う職務だけに、与えられる権限は大きく、敏腕プロデューサーとして名を馳せれば、局内での将来は嘱望されます。テレビ局を舞台とした物語では、こうした立ち位置をデフォルメしたボスキャラ設定がお約束。しかも全方位で「いい顔」をしたがる八方美人的な性格が災いし、本来はまとめ役のはずなのに展開を大いに混乱させます。いずれにせよ、おいしい役柄です。

マスコミ・芸能⑨

You Tuber

【関連する部署】
広告代理店　SNSプラットフォーム　PR会社　音楽プロダクション　など

【役職】
トップインフルエンサー　ミドルインフルエンサー　など

【必須アイテム】
ピンマイク　自撮り棒　パソコン

【資格】
最新のトレンドにアンテナを張りながら企画を立て、撮影、編集、配信まですべて一人で行う実行力が求められる。質の高いコンテンツ配信を継続して行う力も必要。

【技能】
企画・マーケティング能力、編集技術

☑創作で登場させるコツ
世界中で同時閲覧可能なYouTube　仕事にするには卓越した才能が必要
　動画を撮影してアップするだけで職業として成立するほど、現在の“YouTuber”の世界は甘くありません。プロの動画クリエイターや芸能人が多数流入し、エンタメ性や構成力はテレビに引けをとらないクオリティになっているからです。仕事として食べていくには、卓越した企画力とマーケティング能力、高度な撮影・編集技術、さらには演者のキャラ立ちと飽くなき継続力が求められます。
　日本で個人のYouTuberが広告収入が得られるようになったのは2012年のこと。濡れ手に粟のブルーオーシャン時代はとうの昔に終わっています。
　とはいえ、アップした動画が世界中で同時閲覧されるYouTubeの世界自体には未知の可能性が残ります。その仕組みを知り抜き、誰も気づいていない裏技・秘技を見出せば、目からウロコの伏線やトリックになるかもしれません。そういう観点では、書き手目線でYouTuberを題材とした物語を今一度検証してみるのはありでしょう。

PART.7  アンダーグランド

PART.7では、
「アンダーグラウンドの組織と相関図」
「指定暴力団」
「半グレ」
「闇バイト」
「詐欺師」
「ニンベン師」
「情報屋」
「ヒットマン」
「マフィア」
「COLUMN7 戦うべき敵キャラなくして名作は成立しない」
が取り上げられている。
ここでは、「指定暴力団」「情報屋」を紹介する。

アンダーグラウンド①

指定暴力団

【関連する部署】
半グレ　闇金融業者　風俗産業企業　政治家　外国人マフィア　 など

【役職】
会長・組長　若頭・理事長　本部長　舎弟頭　舎弟　若中　など

【必須アイテム】
高級時計　葉巻　拳銃

【資格】
暴力団に入るには、その組員などから紹介を受けることが一般的。若くても18歳以上がほとんど。「盃」と呼ばれる儀式を経ることにより、強い絆で結ばれる。

【技能】
威圧的な交渉術、人脈形成、資金洗浄

☑創作で登場させるコツ
階級や役職をリアルに描くには入念な下調べと取材が必要
　弱体化したとはいえ、物語創作において“指定暴力団”はいまだ根強いニーズがあります。文芸界全体のトレンドとして、ハードボイルドやノアール、バイオレンスアクションの人気は下火であるものの、「社会悪の代表格」といえばやはり暴力団です。物語に登場するヤクザたちは拳銃を所持し、危険ドラッグを売買し、高級車に乗って暴れ回ることがなかば公認となっています。
　しかし、暴力団をリアルに描こうとすればなかなかに難易度が高く、入念な下調べと取材が必要となります。たとえばヤクザの血縁関係を指す盃には「親」「子」「兄弟」の3つの意味合いがあり、これら関係性の知見なくして階級や役職は語れません。
　また会長職の直下にあたる執行三役の若頭や理事長をはじめ、組の実務を取り仕切る本部長以下の組員構成の身分にもさまざまな呼称や役割が存在し、完全に理解するにはかなり骨が折れることを覚悟すべきでしょう。これは私自身の苦い経験からです。

アンダーグラウンド⑥

情報屋

【関連する部署】
窃盗団　半グレ　詐欺師　警察　公安調査庁　など

【役職】
企業・組織内情報提供者　探偵　興信所　 調査会社　など

【必須アイテム】
ハンチング帽　新聞　封筒

【資格】
裏社会や警察、出版・報道の関係者など、各業界に太いパイプがなければ務まらない。組織のデータベースにアクセスできる者が大量の情報を外部に売り渡すことも。

【技能】
情報収集、聞き込み、人間関係の構築

☑創作で登場させるコツ
敵か味方かわからないミステリアスでグレーな存在
　警察小説やクライムノベルでお約束のように登場する“情報屋”は、スパイの頭文字をとって「S」と刑事から呼ばれ、事件に絡む情報を渡していくばくかの謝礼を受け取ります。
　フィクション世界だけの話と思われがちなSですが、現実にも存在するといわれます。とはいえ情報屋は裏稼業であり、警察が裏取引することもまた違法であるため、表沙汰になることはありません。
　情報屋の多くは反社の側で生きていた人たち。何らかの事情があって現役を引退しながら、それでもかつてのルートを駆使して「危ないネタ」を掴んで金に交換するのが生業です。
　物語では訳ありの情報屋を巧妙に設定し、中盤以降までグレーな存在として動かせばスリリングな展開が描けます。敵か味方か一見判別がつかない存在は、さまざまなフラグとして活用できるからです。こうしたバイプレーヤーに妙味を持たせてキャラ立ちさせれば、ストーリーが波乱含みで盛り上がります。

巻末企画 クリエイターのための職業検定

PART.8では、
「創作のコツ 1 あらゆる職業の知識を身につければ、解像度の高いストーリーがつくれる」
「創作のコツ 2 厳しい上下関係を利用して主人公の苦悩を描くのも鉄板」
「創作のコツ 3 どんなジャンルにも使える覚えておきたい７つの職業分野」
「警察編」
「医療・消防編」
「司法・法務編」
「立法・行政編」
「自衛隊編」
「マスコミ・芸能編」
「アンダーグラウンド編」
「問題回答編」
「創作実践編」
「創作回答編」
が取り上げられている。
ここでは、「創作のコツ 1 あらゆる職業の知識を身につければ、解像度の高いストーリーがつくれる」「警察編」を紹介する。

創作のコツ①
あらゆる職業の知識を身につければ、解像度の高いストーリーがつくれる

あり得ない描写は物語への没入感を奪う
　たとえば、あなたがベストセラーのミステリー小説を読むとき。ストーリーが虚構のフィクションだとわかっていても、あらゆるシチュエーションや設定に、限りなくリアリティを求めます。もし、そこにあり得ない描写が出てくれば、瞬く間に物語への没入感は損なわれ、ベストセラーであろうがなかろうが、作品への評価は厳しいものになってしまうでしょう。
　それほどにリアリティとは、創作において重きをなします。

同じ職業でも立場や役割に応じて仕事への取り組み方は異なる
　現実世界を舞台とする物語の場合、登場人物の造形に大きく関わってくる職業の設定は、書き手にとって醍醐味であると同時に、非常に頭を悩ます領域といえます。なぜならキャラクターの人格と行動原理と魅力を大いに左右するからです。
　そのためリアリティを踏まえたうえで付随する情報を適切に整理し、個々の人物的傾向に合わせて割り振る必要があります。
　仮に警視庁内の刑事たちの人間ドラマを描くとしましょう。
　同じ警察官であっても、所属する部署によって担当する事件の質はさまざまです。また、高学歴で幹部候補のキャリアと、交番勤務出身のノンキャリアでは、犯罪に対する捉え方や取り組み方は違うはず。さらには凶悪事件を扱う捜査一課に配属されたばかりの新人刑事と、この道 20年の万年巡査部長とでは、正義感レベルや捜査への熱意も大きく異なります。あるいは裏で不正を働く中間管理職の警部補がいてもおかしくありません。
　登場人物が職業に関わる限り、このような多角的視点で背景や個性の差別化を図ってキャラクターを色分けしてこそ、ストーリーで果たすべき魅惑的な役割が明確になっていきます。

組織構造から裏事情まで理解してこそ面白い作品に仕上がる
　つまるところ職業を設定して描くには、特有の組織構造から裏事情まで理解してアレンジを施さなければオリジナル作品に仕上がりません。しかも前述の通り、限りなくリアリティを求める読者の要求に応えることは必須。そのうえで奇想天外な大どんでん返しによって魅了する筆力と創造力が求められるのです。

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