自分の書きたいものを書きたいという気持ちが強かった|梅澤夏子 インタビュー
7月7日から日本テレビ系列でドラマ『癒やしのお隣さんには秘密がある』の放送が始まる。この作品は梅澤夏子原作×嶋伏ろう漫画でめちゃコミックオリジナルで連載されているマンガの映像化であり、元々は梅澤氏がエブリスタに投稿した小説『癒やしのお隣さん』が原作となっている。
原作者である梅澤夏子氏にご自身の小説やエブリスタで書こうと思ったきっかけ、さらにはコミカライズやドラマ化と広がっていく作品について、メールインタビューにお答えいただいた。
エブリスタの小説に熱中したのがきっかけで自分でも書き始めた
——これまでの読書体験や創作体験から聞かせてください
梅澤:昔から文章を書くのは好きでした。小学生の低学年の時、作文用紙に短編小説を書くという授業があったのですが、隣の席の男子もやたらと書いていたので途中からはお互い意識し合って、どっちがより多くの原稿用紙を書いたかというバトルと化してしまい、二十枚以上書いていた記憶があります。書くのって楽しい!と思っていた気持ちは今でもよく覚えています。
小学四年生くらいの頃は絵を描くことも好きだったので、自由帳にオリジナル漫画を描いていました。漫画家になりたいなと中学生になるまでは思ってたのですが、いつまで経ってもやや左側を向いた人間しか描けなくて、そのうち諦めてしまいました。
ですが、文章で自分を表現することはずっと好きで、交換日記や、卒業文集などの些細なものでも楽しんでいた記憶があります。
——小説はいつごろから書き始められたのでしょうか
梅澤:2014年ぐらいにエブリスタさんで小説を読むようになってからです。いろんな作品を読んでいる中で創作意欲が刺激され、私も書いて投稿するようになりました。
その時書いていた小説は70万文字くらいある大長編になってしまったので、当時はその作品以外は書いていませんでした。今は個人的な理由でその作品は非公開になっています。それから環境の変化もあって作品はしばらく書いていなかったのですが、『癒やしのお隣さん』という作品を書いたことをきっかけに創作活動を続けるようになりました。
——エブリスタではどんな作品を読んでいたんですか?
梅澤:当時は幕末にタイムスリップして歴史人物と戦ったり恋愛してみたりするお話や、恋愛もののファンタジーが好きで、そういうカテゴリーのものを読んでは癒され、楽しんでいました。
そんな中で、作家のイアム(麻沢 奏)さんの作品で、『コーヒーに角砂糖』という小説と、作品名と作者名を覚えていなくて大変申し訳ないのですが、全身整形した女性の恋愛模様を描いた小説に出会いまして、「なんだこの面白さは!」とすごく熱中したんです。
私も何か書いて誰かを楽しませることはできるだろうか! できないかもしれないけど、まあ、よし、とりあえずやってみよう! と思ったのがきっかけです。
——読者コメントや反響などは物語に影響していますか?
梅澤:コメントや反響はとてもありがたくて執筆活動の励みにさせていただいておりますが、自分のパソコンで完結させてからちょいちょい直しつつ連載、または完結までの展開案を決めてから連載しているので、物語自体にはあまり影響はしていないと思います。
ですが、頂いたコメントからアイデアが出て、完結させたあとに書いた続編に反映させたことはあります。戦が始まる合図として、法螺貝を吹くという表現をコメントに書いてくださった方がいて、最高の表現だ!と思ったら、拝借せざるを得ませんでした。
——エブリスタを使っていてよかったなと感じたことや、小説の反響で記憶に残っていることはありますか?
梅澤:エブリスタさんは小説の本文のページにコメントだけではなく、感情表現のできるスタンプが押せるのがすごく好きで、良いなと思っています。
私はコメディタッチな作品が多くて、自分でも笑いながら書いている時があるのですが、読者様の笑いのツボを刺激できたのだろうかと、やっぱり気になります。なので泣き笑いの顔をしたスタンプを押して頂けたり、その他のスタンプで読者様の反応を伺えるのはすごく嬉しいです。
——現在の執筆活動はどういったルーティンで書かれていますか
梅澤:生活してる中で急にアイデアがポッと浮かんできて、しばらくは自分の頭の中でそのアイデアを泳がせて、育てて、大きくしてます。そういう時はひたすら黙り込んで放心したような状態になってしまうので、周りの人達に具合が悪いのかと心配されたり、旦那さんには「うわ...絶対なんか怒ってる。僕なんかまずいことしたっけ…」と勘違いされることが多いのですが、頭の中では想像が膨らんでいて楽しいです。
ある程度アイデアが固まってきたら、時間がある時にパソコンを開いて、頭の中でまとめたことを覚えている限り書いていきます。それを読み直しつつ、おおまかなあらすじをつくったり、プロットを作ったりしています。
完結までの展開がある程度決まったら、冒頭から書き始める、というスタイルが多い気がします。
物語の最後まで構想してから書き始める
——連載中に気を付けていることはありますか?
梅澤:意識しているのは、なるべく日にちを空けないで投稿するということです。と言っても、何週間も止まっていたり、もう続けられない…と急に消してしまったこともあるので、意識しているだけで実践できていないことも多いです。
——作品を書く際には展開などはどのくらい先まで構想されているのでしょうか?
梅澤:構想は一応完結まで考えてから作品を書き始めます。本文を全部完成させてから投稿を連載することもあれば、三分の一まで書き進めてから連載する時もあったりします。投稿に対して特に決めたルールはないのですが、プロットを作って、完結まで展開が決まってから書き始めています。でも、途中でこの話はもう書けないと思うと、割とすぐにお蔵入りになります。私のパソコンにはお蔵入りがたくさん眠っています。
——恋愛ものやラブコメを書く際には最初に主人公が思い浮かぶのでしょうか? あるいはシチュエーションから思い浮かぶのでしょうか?
梅澤:作品によって違います。先に書きたいキャラクターが浮かぶ時もあれば、書きたいシチュエーションが浮かぶときもあったり、描きたい舞台を先に思いついたりとまちまちです。
『癒やしのお隣さん』ではキャラクターとシチュエーションをほぼ同時に思いつきました。『お見合い相手はもじゃもじゃニート』という作品では、愛のない新婚夫婦が真実の愛を手に入れる、というシチュエーションを先に思いついて、その後でキャラクターを考えました。
——恋愛小説を書く際に一番気を付けていることはなんでしょうか
梅澤:恋愛における感情の動きがちゃんと伝わるような表現や、話の展開などを意識しています。
書き手としての技量がまだまだ足りないので、うまくできているかは自分ではなんとも言えないのですが、何度か読み直して自分なりに調整したりしています。
——作中での登場人物同士のやりとりやセリフなどは過去のご自身のことや知り合いのことなどを参考にされていますか?
梅澤:すごく参考にした作品もあれば、全く参考にしていない作品もあります。
参考にした作品の場合ですと、セリフだけではなく、登場人物の感情や設定、展開にも反映されています。実際に経験したことや聞いたことは書きやすくて、ある意味自分の気持ちや体験をシェアしているような感覚もあって書いていて楽しいです。
ですが、まったく参考にしていない作品も、全てが私の想像の通りに自由自在に動かせるので、普通こんなことを言う人はいないだろうと思いつつ、でもいたら面白いから書いちゃえ!といった感じで、逆に筆が乗ることが多いです。
情熱が消えたときは、自分の中で何度も書き続けるのかのやりとりをする
——ご自身の作風に影響を与えたと思われる作家や、他ジャンルの作品がありましたら教えてください
梅澤:作風がどこから影響されているのか考えると、自分でも正直よくわからないです。
荻原紀子さんの勾玉三部作やその他の作品が大好きで何度も読み返していますが、作風に影響しているか考えると、コメディ感が強いので違うかなぁと思います。
昔から少女漫画は好きで、『君に届け』や『フルーツバスケット』『BASARA』等、よく読んでいました。漫画は他にもいろいろ読んでいて、コメディジャンルですと『ピューと吹く!ジャガー』が特に好きでした。
他にも『封神演義』や『進撃の巨人』など、好きな漫画はたくさんありますが、そういう今まで読んできて感動してきた作品が、私の中でいろいろ入り混じって私の作風になっているのかもしれません。
作家、作品とは違うのですが、父の影響も少しある気がします。私の父は基本的には真面目で厳格なのですが、たまに面白可笑しく話す時があって、その話し方が私の作風に何かしらの影響を与えたかもしれないです。
——小説を書く上で苦労すると感じるポイントはありますでしょうか
梅澤:私は少しばかり、飽き性で気分屋な性分ですので、面白いと思って書き始めたはずなのに、急にその情熱がパッと消えてしまう瞬間があります。
「折角ここまで書いたんだから書こうよ〜」と催促する私と、「だってこれ面白いんですか〜?」と答える私のやりとりを何度も何度も続け、ようやく意欲が戻れば書き続け、意欲が戻らなければお蔵入りになります。特に長編のお話は継続力が大事だと思うのですが、その集中を維持させるのはなかなか大変だなと思います。
あとは表現の仕方ですね。言い回しなどが重複しないように注意してはいるのですが、なんせ日本語力といいますか、語彙力がなくて、漢字も実は苦手で、慣用句や熟語なんかも得意ではないので、もっと上手く伝えたいと思うのにできていないのを実感するともどかしいですね。
他の書き手さんの小説を読んだりすると、毎回書き方や表現が洗練されていて、かっこよくて、わかりやすくて、脱帽します。同時に「私も頑張らなくちゃ」と励みになります。
——小説を書いていて、一番嬉しい、楽しいと感じる時はどんなときでしょうか
梅澤:一番を決めるのは難しいですね。自分で面白いと思って書き始めた作品を無事に完結まで書ききった時、達成感があって嬉しいです。そして、それを読んでくださる読者様がいて、感想やスタンプ、しおりなどの応援をしてくださることがすごく嬉しいです。
あとは、コミカルなシーンを書いている時、すごく楽しい気分になります。セリフややりとりの閃きが降りてくると、「よっしゃ、キター!」とキーボードを打つ指の動きまで溌溂となって、表情までおかしくなるので、家の中以外では執筆できないです。お洒落なカフェでコーヒーを飲みながら執筆するのに憧れます。やったことはあるのですが、緊張したせいかすぐにお腹が痛くなって帰ってきました。
ドラマ化の話をもらったときは正直、「いいのか?」と思った
——『癒やしのお隣さん』を最初に書こうと思われたきっかけを教えてください
梅澤:寝ている時に天井を眺めていたら、いつの間にか空想を始めてたんです。ヒロインがピンチの時に駆けつけ助けてくれるかっこいいヒーローを想像していたら、ときめきはしたのですが、でも普通こんな偶然あるだろうかと考えるようになったんです。
ずっとヒロインを監視してスタンバイしていなかったら、こんな奇跡的な登場なんてできないんじゃないか。でも、それができるのって、なんらかの極秘任務で警護をしてる人か、ストーカーくらいだよな、と考えて。
ストーカーは怖いし嫌だなぁ、とは思うのですが、「自分の理想の的を得た相手だったら?」「好きな人だったら?」とどんどん深く考えるようになり、物語として書いてみたくなりました。
きっと、気持ち悪いと思う方や、不快に感じる方もいるだろうなとは思ったのですが、自分の書きたいものを書きたいという気持ちの方が強く、なにより、書いてる時間が楽しすぎて、かなり集中していたのを覚えています。
——コミカライズされた『癒やしのお隣さんには秘密がある』では、どのような関わり方をされているのでしょうか
梅澤:基本的には漫画家の嶋伏ろうさんやめちゃコミック編集部の皆様にお任せ、という感じではありましたが、脚本製作や作画が始まる前、また始まってからも随時、内容確認や相談などのご連絡を頂きました。気になるところがないか意見を聞いてくださったので、もし何かあればご相談させて頂きました。
全く別物というわけではないのですが、小説は小説、漫画は漫画、という風に、私の中では分けて考えていたところもあるので、漫画の『癒やしのお隣さんには秘密がある』は、一読者として新しい話が出るのをワクワクしながら待っている感覚がありました。
——ドラマ化の話を最初に聞いた時はどう思いましたか
梅澤:正直言いますと、「いいのか!?」と思いました。内容が病んでるといいますか、センシティブだと思うので、テレビで放送するドラマになっても大丈夫なのか、と若干不安にはなりました。ですが、テレビ局に興味を持っていただき、ドラマ化打診の相談をされたことはやはり創作する者としては嬉しい事でした。
私の書いた作品を元にドラマが作られる日が来るなんて、夢に描いたことはありますが、まさか現実に起こりうるなんて思ってもいなかったので本当に驚きました。「人生って何が起こるかわからないなぁ」と身をもって体感しました。
——原作者としてドラマ化にはどのような関わり方をされていますか? また、ドラマ化されることで気になることはありますか?
梅澤:原作を元にしつつドラマとして展開が大きく変わったりするかも、というお話は制作者側から最初に伺いました。それを踏まえたうえで、原作者としてドラマ化への要望がないかとご相談いただきました。
私からは、仁科さんの描き方をご相談させていただきました。仁科さんが気持ち悪いのは全然いいのですが、藤子さんが本気で嫌がることはしない。あくまで「藤子さん一番!」という仁科さん像はそのまま残して頂けたらな、というような内容をご相談しました(ストーカー行為をしている時点で嫌がることをしない、という論点からは外れているのはわかっているんです)。
また、ドラマの脚本なども事前に確認させてくださったので、一足早くドラマを視聴できたような気分になり、とてもありがたかったです。
――『癒やしのお隣さん』がコミカライズや書籍化・ドラマ化されたことで一番大きく変化したことはなんでしょうか?
梅澤:『癒やしのお隣さん』の原作を読んでくださる方が増えたことが一番大きな変化だと思います。それだけではなく、他の作品を読んでくださる方も増えて、作風が好きだと言ってアカウントをフォローしてくださる方もいて、すごくすごく嬉しくてありがたいです。モチベーションを保つことができるのは、応援してくださる方がいるからだと実感しております。
――『癒やしのお隣さん』のコミカライズが大ヒットし、書籍化やドラマ化もしますが、友人や家族からの反応などはいかがでしょうか?
梅澤:『癒やしのお隣さん』を自分が書いたと伝えたのは姉と夫だけなので、私自身の周辺の変化はあまりないのですが、コミカライズ化、書籍化、ドラマ化を伝えると、その度に自分のことのように喜んでくれて、ちょっとお高めのケーキを買って来てお祝いしてくれたのは、とても照れました。
原作を読んだ姉からは「気持ち悪かった」という素直な感想をもらって、やっぱり気持ち悪かったかと肩を落としましたが、「でも面白かったし、いっぱい笑った」と続けて言ってもらえたので救われました。
書き始めたら、確実に前進していける
——今後書いていきたいと思われる小説はありますか?
梅澤:やっぱりラブコメを書くのが好きなので、恋愛とコメディを混ぜつつ、青春を追いかける学園ものや、お仕事を頑張るオフィスラブ、家族愛を描いたようなお話などを書いていきたいです。
エモい雰囲気のある切ない大人の恋愛小説も書きたいのですが、その切なさを表現するには、物書きとしてのレベル上げをもっともっとしないと厳しいかな、と自分では思ったりしています。
——恋愛やラブコメ以外で挑戦してみたいジャンルはありますか?
梅澤:難解事件を解決するようなミステリーや、魔法や魔物が出てくるような長編ファンタジーに挑戦してみたいです。
ですが、どのジャンルで書いてもきっとラブコメ感が滲み出てくるんじゃないかなと思います。
——物書き志望の書き手に、「これだけはやっておいた方がいい」と思うことがあれば教えてください
梅澤:ベタかもしれないのですが、やりたいという気持ちがあるなら、とにかくやってみることが大事だと思います。
今は、自分の作品を簡単にネットに投稿でき、そのジャンルが好きな人に探してもらい、読んでもらいやすい、便利な世の中です。書くことが好きで、表現したい気持ちがあるなら、コツコツとゆっくりでもいいと思いますし、ジェット機のような速さでもいいと思うのですが、とにかく書き始めれば、確実に前進していけると思います。
私もまだまだ未熟ですから、物書き云々を語れる者ではないのですが、書くことが楽しいと思えるなら、その楽しい事を精一杯楽しんで人生を過ごせたら、幸せなことだなと思います。
(インタビュー・構成:monokaki編集部)
「monokaki」は、エブリスタが運営する「物書きのためのメディア」です。