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書くこと、楽しむこと、公開した作品は完結させること|西原衣都 インタビュー

 8月3日からMBSをはじめとする各放送局で放送開始されるドラマ『結婚予定日』。この作品は西原衣都原作×ムノ漫画でマンガアプリ「マンガBANG!」で連載中の作品の映像化であり、元々は西原氏がエブリスタに投稿していた小説が原作となっている。
 原作者である西原氏にご自身の作品や創作に対する向き合い方、さらにはコミカライズやドラマ化された作品について、メールインタビューでお答えいただいた。

一人で書き始めた不安を相談できる場所がエブリスタだった

——これまでの読書体験や創作体験について聞かせてください

西原:
自身の育った環境として家に一部屋丸々本棚という部屋がありました。母は「いつかまた読みたくなるから」と本を捨てない人で、また私や姉に漫画を含む本だけは望むだけ与えてくれました。家にはベストセラーや話題の本は必ずあったので母はややミーハーな傾向にあったのかもしれません。
私はというと姉が買ってもらった本を一緒に読んだり、誰かが読みかけで置いていた本を勝手に読む傾向があったので、作者や題名を知らないまま読むことが多かったです。家に恋愛ものは無いに等しかったと思います。恋愛ものを初めて読んだのは、一回りちかく離れた従姉の家にあったコミックスで、キラキラしたイメージでした。
古い記憶を辿ると最初に書いたのは小学校の授業だったと思います。でも、当時から読むときもどこかで「私ならこう書くな」という書き手目線が混ざっていたように思います。

——小説はいつごろから書き始められたのでしょうか?

西原:『
結婚予定日』を書き始めた2019年からです。
現在の執筆活動は日の長いうちは、朝活兼ねて早朝。冬は夜に書いています。日中はお仕事にいそしみつつネタを探しています。

——最初にエブリスタに書こうと思ったのはどんなきっかけだったのでしょうか?

西原:
エブリスタさんはランキングのトップは恋愛になっていますが、表紙からわかる情報で、異世界ファンタジーではなく、かつヒーローがハイスペックすぎない相手(同僚など)だったので現代ものの恋愛が書きやすそうだなと思ったからです。

——読者コメントや反響などは物語に影響していますか?

西原:
一時期よく言えば反響があり、悪く言えば荒れたことがあって心身ともにかなり疲弊しました。今は開き直って、私の作品である限り好きに書こうと思っています。ですので、ほとんど影響しません。

——エブリスタを使っていてよかったなと感じたことや小説の反響で記憶に残っていることはありますか?

西原:読者さんや作家さんと交流を持ちやすい
ことです。お話はたった一人で書き始めるわけですから、これで合っているのかどうなのか不安でいっぱいでしたので、相談できる場所があるのは助かりました。特にコミュニティグループのみなさんにはお世話になって読者さんには励ましてもらって感謝しています。
コメント欄では読者さん同士が交流を始め、みんなで登場人物を応援しはじめたり見ていてとても楽しかったです。いただくコメントで、私が意図しない解釈をされていることに気づかされ、なるほど、これは伝わりにくかったなと表現や言い回しを考えるきっかけになりました。 小説の反響としては、「『結婚予定日』の人」と言われるようになったことです。


最初に決めたラストシーンは変えない

——連載中に気を付けていることはありますか?

西原:作品は必ず完結させることです
。昔から読者の視点で、これは作者さん途中でラストシーンを変えたんじゃないか、という違和感があるとどうしてもすっきりしない気持ちになるので、私は何があっても一度決めたラストシーンは変えないことにしています。

——執筆する際に展開などはどのくらい先まで構想されているのでしょうか? プロットなどは作られていますか?

西原:最初と最後を決めて、あとは要所エピソードを決めることが多い
です。しっかりプロットをつくる場合もありますが、出来栄えに大差はないです。
『結婚予定日』に関してはプロットという言葉さえ知らなかったので、思いついたままサイトに直接書いてそのまま直ぐに公開していました。今考えると恐ろしい。

——恋愛小説を書く際には最初に主人公が思い浮かぶのでしょうか? あるいはシチュエーションから思い浮かぶのでしょうか?

西原:
シチュエーションです。ただ最近は先に書いた作品とキャラ被りしないように先にキャラクターを考える時もあります。当時、移動手段が自転車で自転車をこぐ時に浮かんでいました。後はお風呂。やはり一人でいる時に浮かびますね。

——恋愛小説を書く際に一番気を付けていることはなんでしょうか?

西原:ヒロインは自己投影しやすいように感情をわかりやすく、共感できるエピソードを盛り込んでいます
。逆にヒーロー側はあまり感情的にならないように書いています。どちらも一途であることは基本で、他の異性になびかないように書くときには気をつけています。

——『結婚予定日』以外にも『ちょうどいいので結婚します』『白羽さんは結婚したい』など「結婚」に関する作品を投稿されています。「結婚」をテーマにした作品を書こうと思ったきっかけなどはありますか?

西原:
ハッピーエンドの恋愛ものは最終的に結婚に結び付くことが多い。最終形態が「結婚」だと結末がわかっているならいっそ結婚を目標にキャラクターたちを向かわせたらどうだろうかと思いました。

——作中での登場人物同士のやりとりやセリフなどは過去のご自身のことや知り合いのことなどを参考にされていますか?

西原:
ストーリーと直接関係ないふざける会話文などは、ありがたいことに周りにネタの宝庫のように、口数が多い人がたくさんいるので参考にしています。

——ご自身の作風に影響を与えたと思われる作家や、他ジャンルの作品がありましたら教えてください

西原:
幼少期には家にあった母のミステリー小説や父の少年誌コミック、日本文学全集と世界文学全集などに触れていました。自分で選んだ学級文庫や学校の図書室で人気があったちょっと不思議な話や今の異世界ではないファンタジーや推理ものなどでしょうか。話の本筋ではないけれど、ほんの少し恋愛要素のあるものも好きでした。
それから、平安時代に魅せられ、田辺聖子さんの古典ものを読んだ後に、『源氏物語』を原文で読もうとして挫折したり、夢枕獏さんの「陰陽師シリーズ」にもハマって清明神社にすぐ行ったり。一つ読んだらそこから色々派生して、色んなものに影響されて今があると思います


創作上の結婚はおとぎ話のクライマックス

——「結婚」をテーマにした作品で好きな作品や影響を受けた作品はありますか?

西原:
直接影響を受けたわけではないのかもしれませんが、高村幸太郎さんの『智恵子抄』や、『きみに読む物語』など、純愛だなと思うのですが、ふとこれが女性視点で見ると『ブリジット・ジョーンズの日記』みたいになったりしてと思ったことがあります。男性の方が案外ロマンチストなのかもしれません。読了後に、智恵子さんやアリーさん側から話を聞いてみたいと思いました。
結婚式ではないですが、「結婚」と考えるとなぜか必ず『美女と野獣』のダンスシーンが浮ぶので、私の中で創作上の結婚はおとぎ話のクライマックスのようなイメージを持って書いているのかもしれません

——小説を書く上で苦労すると感じるポイントはどんなものがありますか?

西原:
何もわからず自由に書き始めたので書く上での知識が無く、書けば書くほど難しくなってきました。以前は思いついたまま書いていましたが最近は一度使ったネタは使えないし、小説の書き方を学べば学ぶほど文字数や展開の構成など、制限にこだわってしまい、考えすぎてしまっていてモットーである「楽しむ」が後回しになっている気がします。
最初の作品の人気が出てしまったのでなかなか越えられないという悩みもあります。今、とっても苦労しています!この悩みは乗り越えるというより模索しながら付き合っていくしかないと思っています。

——小説を書いていて、一番嬉しい、楽しいと感じる時はどんなときですか?

西原:
完結した時です。達成感が気持ちいい。

——作品の公開日を拝見すると『結婚予定日』が最初に投稿された作品かと思いますが、最初からたくさんの読者の方に読まれていたのでしょうか?

西原:
これは「いいえ」です。一日に読者さんなし、一人、二人が続きましたね。ただ当初は書くことに重きを置いていたので、気にしていませんでした書いたら書いただけ公開していたので更新頻度は相当高く、読者さんの目に止まりやすかったと思います。そのうち固定読者さんがついてきて反応が嬉しくなり、読者さんを意識するようになりました。一日にいただけるスターが140。そこから毎日スターが140を超えると今日も同じくらいの人が読んでくださったなと安堵していました。
スターピックアップ、表紙を今のものに変えた時、ランキングに入った時には結構読者さんが増えました。一気に本棚が増えたのは完結した時でした。当時の本棚は3000台だったかな。そこからランキングに居座ることでどんどん増え、コミカライズの告知がされる頃には10000台になりました。コミカライズの連載が始まってからも増え続け、今に至ります。読者さんを意識し始めた頃のスクリーンショットがものすごくたくさん残っているので、読者さんの動向に一喜一憂していたんだなと思います。


実体験と恋愛ものの当て馬救済から思いついた『結婚予定日』

——『結婚予定日』を最初に書こうと思われたきっかけを教えてください

西原:恋愛ものを読むと、私が好きになるキャラクターはいつも当て馬として早々に振られてしまう
。ヒロインのかわりに私が引き受けるのに。と何度思ったことか。これはもう私が救済するしかないなと思って書き始めた次第です。
実は『結婚予定日』はシリーズになっていて、最初に思いついたのは大友が主役の話でした。全体を通して彼が主役です。書く前にひとまず王道を網羅しようと思い、幼馴染、潔癖、クールすぎるコミュ障、長期片想いの一途。この四作を書くと決めました。たまたまコミュ障、つまり結城君の話を最初に書きました。相手はクールなヒーローなら、ヒロインは真逆にしようとバカなくらい明るいタイプにしました。ちなみに佳子はモデルが実在します。
26歳で結婚、27歳で一人目を出産というのは、高校の時に私が何かの課題で書いた人生設計です。3年ほど付き合った恋人に26歳で振られたのも実話で、当時は本当に人生おわったと沈み込んだものですが、これ30歳手前ならもっとつらかったんじゃないの、と思いました。この経験(ただでは起きない)と、当て馬救済とを合わせて顔は良いがパッとしない男性を相手役にと考えたはずが、思いのほか結城君に人気が出てしまって、いまだに驚いています。

——コミカライズされた『結婚予定日』ではどのような関わり方をされているのでしょうか?

西原:
漫画の事はよくわからないので基本的におまかせですが、かなり原作を尊重してくださっています。そして、見ていただければわかりますが、完璧にキメて仕上げて下さいますので、わくわくして待っています。何となくですがムノ先生の趣向と私の趣向がぴったりと合ったのでは、と勝手に思わせていただいています。

——ドラマ化の話を最初に聞いた時はどう思いましたか?

西原:
「へえ、ドラマになるかもしれないんだ」とどこか他人事のように受け取りました。あとからじわじわとこのすごさがわかってきた、といった感じです。

——原作者としてドラマ化にはどのような関わり方をされていますか? また、ドラマ化されることで気になることはありますか?

西原:
ドラマにはドラマの見せ方があるでしょうからこちらも基本的にはお任せです。私が考えた登場人物の名前やセリフを使って俳優さんが演じてくださるというのはなかなかに不思議な気分です。
読者のみなさん、結城の事は「結城さん」、佳子のことは「佳子ちゃん」と呼ぶのがおもしろいのですが、なぜそうしてしまうのかわかる二人の雰囲気がどう演じられるのか楽しみです。


ペンネーム「西原衣都」としての自覚

——『結婚予定日』がコミカライズや書籍化・ドラマ化されたことで一番大きく変化したことはなんでしょうか?

西原:
いろいろありますが、ちょっと良いパソコンを買った時に、経費で落とせたことでしょうか。あと、お祝い時にだけ買うと決めているとっても美味しいケーキ屋さんがあるのですが、ここ最近は頻度高く食べられています。
これまではWEB上でしか呼ばれることがなかったのに、実際にペンネームの「西原衣都」として人と会う機会があったこともそうです。普段この名で呼ばれることはないので「西原さん」と呼ばれて、「あ、わたしのことか」となりました。最近は「西原衣都」である自覚も出てきました(商業化を念頭に置かれる場合は、呼ばれて恥ずかしくないペンネームにされることを強くおすすめ致します)。
一番大きく変化したのは、自分の生み出したキャラクターがいろんな方に認知され、愛されるということです。これがとても嬉しいです。

——『結婚予定日』のコミカライズが大ヒットし、ドラマ化もしますが、周囲(友人や家族)からの反応などはいかがでしょうか?

西原:
私は、創作をしていることを姉と友人二人にしか言っていませんが、二人とも喜んでくれましたね。でも恋愛ものだし、姉は見ないと思うな。友人は絶対に観ると言ってくれています。

——今後書いていきたいと思われる小説はありますか?

西原:
平和な話が好きなので、これからもピュアな恋愛ものを書いていきたいです。
現在『おともだち』という話を連載中です。兄が3人いて構われ過ぎて育ったヒロインが構われるのは嫌だけど、恋愛の美味しいところだけ欲しいと恋人ではなく、セフレを求めてぴったりの相手を見つけます。しかし、相手はヒロインに恋人としての関係を求めて、彼女を拘束するために三ヵ月のセフレ契約を提案します。三ヵ月以内で絶対に恋人になりたい男性と恋愛にとことん疎い女性のお話です。セフレとは名ばかりの「おともだち」プラトニックラブです。

——恋愛小説以外で挑戦してみたいジャンルはありますか?

西原:
ヒューマンドラマや陰陽師が出るようなファンタジーに挑戦してみたいです。陰陽師って結局何する人かわからないじゃないですか。実際は現在で言う公務員みたいなものだったのだろうけど、得体のしれない所に期待と魅力を感じます。ヒューマンドラマは視点が変わると悪が入れ替わり、読者が悪者とされる側にも何か思うところが残る話にしたいです。

——物書き志望の書き手に、「これだけはやっておいた方がいい」と思うことがあれば教えてください

西原:
私が書くものは全然難しくなく、とても自由です。これでいいなら自分でも書けると思って頂ければいいなと思います。まずは書くこと。楽しむこと、それから、公開したからには完結させて欲しいなと思います。
書きあげるということは書き手としての自信にもつながると思います。技術や知性は私もまったくありません。日々勉強です。読書はもちろん、色んな人と話す機会をつくる、色々な場所に出かけるのも話に広がりが出ていいと思います。
大切なのはどのようなかたちでも、続けること。結局、続けられる人が一番強いと思います。

(インタビュー・構成:monokaki編集部)

「monokaki」は、エブリスタが運営する「物書きのためのメディア」です。

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