「必然性」って何ですか?|monokaki編集部
時は西暦20XX年、人類は高度に発達した文明の中で暮らしていた――
こんな風に始まる物語、たくさんありますよね。ロボットものから近未来日常系作品まで。
しかし、わたしは先々週くらい、突如として気付いてしまったのです。
今ってもう、西暦2018年。とっくに「20XX年」じゃね?ということに。
一言に「近未来」といってもいろいろある問題
物語の設定を考えるのって楽しいですよね。
頭の中にふつふつとわいてくる情景を、さてどんな世界観で展開しましょうか。
時代背景は? 場所は? 主人公の年齢は?
さまざまな可能性を妄想する時間は、「小説を考える→書く→読み返す→直す」の一連の流れの中でも、特に楽しいフェーズだと思います。楽しすぎて、つい何となくのノリで決めてしまうこともありますよね。「時は近未来、舞台は東京、主人公は高校生のハーフ金髪美少女で!」みたいな感じで。
創作のスタート地点なんてそんなもんです。
しかし、そこで一回立ち止まってみてほしいのです。
近未来って、西暦でいうと何年くらい?
舞台が東京でなきゃダメな理由は? 首都だからでしょうか。じゃあ、「近未来」でもまだ東京は首都なのでしょうか?
主人公は高1でしょうか、高2でしょうか、高3でしょうか。その年齢でなければならない理由は?
ハーフ……というだけでは無限の可能性がありますが、一体どこの国とのハーフなのでしょう?
父親が外国人なのか、それとも母親の方なのかによっても、キャラの生い立ちが変わってきそうですね。
作品のちょっとした要素にも、「何で?」「どうして?」と言い始めると、決めなければいけないことがたくさん出てきます。正直めんどくさい。その辺ノリでいきたい。
しかし、細かい部分を深堀りして決めていくと、後々の自分が楽になることがあります。
必要な設定/盛りすぎな設定
この連載の初回、「キャラが立つ」って何ですか?において、「キャラがどういう人生を過ごしてきたのかまで考えることができれば、立派なオリジナリティが宿る」というお話をしました。
これは実はキャラに限らず、時代背景や舞台設定についても同じです。
「オリジナリティ」というのはつまるところ、「他作品との差分」から生じます。これまでに読んだことのない要素を作中に発見したとき、わたしたちは「この作品はオリジナリティがあるな」と感じます。
他作品との差分が生じれば生じるほどオリジナリティが増すなら、設定を盛れば盛るほどオリジナリティは増すのでしょうか? そんなことないですよね。ストーリーに必要のない設定がいくら盛られていても、読みにくいだけで読者は別に楽しくありません。
そこで、「必然性」が重要になってくるのです。
小説や脚本というのは、なかなか高度な構成物です。日本語なら左から右に、あるいは上から下にしか読めない線形的なアウトプットで、世界をまるごと記述しようとするわけですから大変です。
できるだけ簡潔な文章でたくさんの情報を読者に渡すには、無駄な要素を排し、各要素同士に関係性を持たせることが重要になります。
「設定に必然性がある」作品というのは、蜘蛛の巣のように張り巡らされた設定同士が互いに関係し合い、総体として物語を支えている作品のことです。
ロリ美少女主人公に「必然性」は可能か?
ここで、わたしの大好きな作品をひとつ紹介させてください。水島精二監督・虚淵玄脚本による映画『楽園追放-Expelled from Paradise-』です。
時は西暦2400年、廃墟と化した地球。ちょっとツンとした、金髪ロリ美少女捜査官・アンジェラが主人公なのですが、この世界、実は多くの人類が肉体を捨てて、電脳世界で暮らしてる設定なんですね。
しかし、電脳世界が地上から何らかのハッキングを受けたため、アンジェラは一次的に使う生身の身体をカプセルの中で生成して、その体に載って地上に降りる必要性が出てきます。
このとき、システムは実年齢に近い20代のボディを作ろうとするのですが、彼女はそれを拒否して、勝手に肉体設定を16歳に書き換えます。理由は、ボディを生成する時間を短縮することで、地上への到着時間を短縮し、他の捜査官を出し抜きたいから。
この一連の描写だけで、視聴者は「この世界が電脳空間で」、「地上に降りるためには物理的なボディを作成せねばならず」、「それを急ぎ作成できる程度には医科学が進歩しており」、また「捜査官という職業には熾烈なポジション争いがあり」、「この主人公のアンジェラはなかなか機転がきいて」、かつ「負けず嫌いな性格」だと理解します。
時代・舞台・キャラ設定を個別にではなく、ワンシーンでまとめて説明しているのです。
ついでにこの映画の主人公のルックを16歳の女の子に設定することにも成功しているわけで、これはもう一石で七鳥くらいとっていますね。アンジェラがロリ美少女であることには、必然性があるのです。
一番難しいのは「自由に」書くこと
設定同士が有機的につながっていると、物語が行き詰ったときにも対処しやすくなります。
「筆が止まってしまうとき」というのは、「書くことに困ったとき」ではなく、実は「どういう風にでも書けるとき」だったりするからです。
他方、交換不可能な設定は、ある程度の「縛り」を作品に与えてくれます。
主人公のハーフ金髪美少女が、アメリカ人とのハーフなのかフランス人とのハーフなのかによって、好きな食べ物は変わるかもしれません。
主人公を高校3年生に設定した瞬間に、「毎日バトル三昧だけど受験は大丈夫なのか!?」というツッコミが出てくるかもしれません。
舞台は東京、と決めても、東京の西側と東側では、街の雰囲気も文化も違いますよね。
やや突っ込んで設定を詰めようとすると、必ず資料調べや取材が必要になってきます。
そして、資料調べや取材などの「勉強」が必要な段階まで来たら、その作品はほかの作品から一歩リードするチャンス!です。
もしストーリーに行き詰ることがあったら、一回根本の設定に立ち返って、「何で?」「どうして?」と自分に尋ねてみてください。
そこに、物語を先に進める突破口があるかもしれません。
(タイトルカット:16号)
今月のおもしろい作品:『楽園追放 -Expelled From Paradise-』
ニトロプラスと水島精二監督がタッグを組んだSFアクションアニメ。ナノハザードにより廃墟と化した地球。人類の多くは地上を捨て、データとなり電脳世界ディーヴァで暮らしていた。西暦2400年。ディーヴァは地上からの謎のハッキングで異変に晒される。電脳世界に住む捜査官・アンジェラと地上調査員・ディンゴは、世界の謎に迫る旅に出る。
(C)東映アニメーション・ニトロプラス/楽園追放ソサイエティ
*本記事は、2018年06月14日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。