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灯台守と海底人の春|Mar. 2018|monokaki編集部

 monokakiは「物書きのためのメディア」。当コラムの初回で、すべての――特にまだ世に出ていない、これから生まれようとしている「物書き」に向けて、このサイトを贈りますと書きました。これは半分は本当ですが、半分は嘘――をついているわけではないけれど、実は少し不十分です。物を書く人以外にも、書かれた物を届ける人、つまりは出版社や書店に勤めている方々もまた、わたしたちの大切な読者となりえるでしょう。

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 「monokaki」をオープンしてから、ありがたいことに各方面から、さまざまなご感想をいただました。 中でも特に多かったのが、「エブリスタのサイトなのに、WebBL定点観測Web小説定点観測で、カクヨムやなろうの作品も取り上げてるんですね」というもの。monokakiの役割の一つは、書き手に必要な情報を提供し、モチベーションを上げ、創作の後押しをすること。これが表のミッションだとすると、裏ミッションは「Web小説のおもしろさを、もっと世の中に広めていくこと」です。そのためにはエブリスタだけではなく、あらゆるWeb小説のプラットフォームを紹介していく必要がありますし、いくらエブリスタの知名度が上がろうとも、Web小説そのもののおもしろさが伝わらないことには、長期的に意味がありません。

 日本の小説文化をここまで豊かに育み、広げ、浸透させてきたのは、まちがいなく出版社や書店の方々です。前回、高橋源一郎氏の著作を引き、新人賞の場を、海からの上陸をめざす作品群がせめぎ合う、波打ち際の攻防に例えました。その安全を長く守ってきた灯台守のような存在が、出版社や書店なのではないかと思います。

 他方、Web小説は海そのもののように、今日も絶えず蠢き、風が吹いたり凪いだり、清濁併せて波紋のように流行が現れては消え、時々幸運な作品が、岸に打ちあがって多くの読者の目に触れます。言い換えれば、そうして「日の目」を見ない作品の中にも素晴らしいものはたくさんありますし、書き留められていないだけで、文化史的に重要な動きも多数あります。

 今月の「Web小説の森」では、00年代の初頭に盛り上がった「ケータイ小説」が、どういった変遷をたどって2018年現在の「Web恋愛小説」へと合流したのかを、サイトごとの特徴を挙げながら丁寧に追いました。こういった受容史を書き留めておくこともまた、長期的には重要な意味を持つと信じて記事化していますし、こういった記事をこそ、作家の皆さんはもちろん、出版社や書店の方々にも読んでいただきたいです。

 ここのところ、ネット上で出版社の役割の変化や、それが不十分であることが指摘される文章を目にする機会が増えたように感じます。刊行点数が増え、どうしてもすべての作品について十分に宣伝や広報をしていくことが叶わない状況の中で、過去の大ヒット作品と並べて新刊も売り続けるために奮闘する灯台守たちが、それでも灯台に明かりをともし続けてくれるからこそ、わたしたちも「あちらが岸だ」と正しく認識し、カオスを泳ぎ、選び抜いた作品たちを送り出すことができるのです。

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 monokakiを創刊するにあたり、いま素晴らしい原稿を寄せていただいている海猫沢めろんさんや木村綾子さんのほかにも、「エブリスタで新しいWebサイトをつくろうと思っているので、連載をお願いできないでしょうか」と企画を持ちかけた灯台守の方々がいらっしゃいます。その幾人かはただいま絶賛連載準備中!ですが、中にはサイトの趣旨を説明する前から、「私が得意とする本はエブリスタさんには合わないようなものですので、そのような状況で書いても双方のファンにとり違和感があるだけだと思います」と返された方もいらっしゃいました。率直に言って悔しく、会社のPCの前で「ふんぬぁーーーーーーーーっっ!!!」と奇声を上げました。

 あの方はリリースされた本サイトの存在に、気が付いているかしら? と時々考えます。ご本人にとってファンの皆さまにとって、monokakiは「違和感」だけがあるサイトでしょうか? 考え始めると、まるで人間界をまぶしく見上げる海底人の気分になれます。大事なことなので何度でも言いますが、わたしたちもまた小説が大好きで、小説の春を待っています。待望しています。小説を読む人が多ければ多いほど、小説を書く人が増えれば増えるほど、世界の様子は豊かになると確信しています。

 物を書く人以外にも、書かれた物を届ける人、つまりは出版社や書店に勤めている方々もまた、わたしたちの大切な読者となりえる……でしょう。きっとなりえる、はず。たまには海底も覗きに来てもらえると嬉しいです。引きずり込んだりしないので。


*本記事は、2018年02月22日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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