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創作の楽しさを今一度思い出そう|「Project ANIMA」 上町裕介

 応募者目線では極端な「狭き門」にうつる公募新人賞の裏側で、新人を待ち望む編集部側はいったい何を考え、どのような心持ちでいるのか? 本連載では、その懐とも言うべき内側に入り、応募者の「よくある疑問」を直接尋ね、選考側の真意を聞いていく。

 第二回に登場するのは、「選ばれたらアニメ化決定!」の惹句じゃっくでプロ・アマ、個人・法人問わず幅広くアニメ原作を募集する新人賞「Project ANIMA(プロジェクトアニマ)」の総合プロデューサー、上町裕介氏。「アニメ化をめざす公募情報はこれまでにもありましたが、応募前から制作スタジオまで決め、未完の作品でも応募可能な賞はおそらく初めて」と語る。

 全3回、約1年間にまたがる長期的なコンテストの第一弾、「SF・ロボットアニメ部門」の審査真っ最中という氏に、審査の進捗と、求める作品像を聞いた。

アニメはアートではない、エンタメ性をどう出すか

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――「Project ANIMA」は募集形式も多様で、グループでの応募も可能など、非常にユニークな賞です。改めて、他の賞と違う売りなどありましたらお聞かせください

上町:初めて創作に挑戦する!という人にも参加していただけるように、できる限り敷居を下げて募集をしています。「お話は浮かぶけど、小説はまだ勉強中」という方は企画書でご応募いただく手もありますし、アイディアのアウトプットの場として楽しく参加してもらえればと思います。

――「とはいえ、大賞を狙いたい」という層に対しては、どういった作品を期待しますか?

上町:これまでの「売れ線」にとらわれない、自由な発想に期待しています。まずはとにかく書きたいものを書く。その上で、読み手や視聴者にどう届ければ、より面白がってもらえるかを考える。この2点をぜひ意識して作品を創ってもらいたいです。
アニメ化が前提で動いているコンテストですが、アニメはアートではないので、エンタメ性に対してのアプローチは必要になってくると思います。自分が作りたい作品におけるエンタメ性をどこで出すのか。それがアニメに向いているかいないかの話に繋がると思います。

――自分で書いている時におもしろいと思えても、客観的に読んで「エンタメ性があるのだろうか?」と悩んだ場合どうすればいいでしょう

上町:簡単なテクニックだと、「ギャップを出す」ことだと思います。私がもし「好きな作品を好きなように作ってもいいよ」と言われたら、村田蓮爾さんの絵で、スチームパンクの、すごく暗い作品を作りたい。でもそれだとちょっとアート寄りじゃないですか?
エンタメにするには、スチームパンクなんだけど子供向けだとか、すごくボケているお爺さんが軸になって話が展開していくとか、そういうものを身に着ける必要がある。シリアスとコメディのメリハリがあるだけでも変わってくるので、何かそういった発明があるといいですね。

――ギャップを発明できれば、それはエンタメになる……?

上町:『ガールズ&パンツァー』を例に出すと、ガチンコで女子が戦車戦で命のやりとりをしていたら、ここまでのヒットにはなっていないと思います。あれは選択必修科目の「戦車道」という設定だから、負けるとポン!と白旗が上がる。あの白旗の発明によって、戦車戦なのにポップで元気な作品になっている。重厚な作品を作るとしても、エンタメ性をあとでしっかりつけてあげることが重要です。


起承転結の「転」から始めてもいい

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――応募作の話が出ましたが、「SF・ロボットアニメ部門」はどういった作品が多かったのでしょうか

上町:応募フォーマットによって傾向に違いがありました。脚本は群像劇主体のSF作品が多く、企画書は王道ロボットモノを自由にダイナミックに表現されていて、小説・マンガはその両方。「創作をもっと自由に」と謳っているだけあって、小説に関してはラノベから純文学まで、多種多様な作品が集まってきています。

――テーマやモチーフの面ではいかがでしょう

上町:AIをテーマにした作品が多かったですね。ディストピア的な世界観でAIの暴走があって、事件を解決していく、『ブレードランナー』を観たことのない人による『ブレードランナー』がいくつかありました。別にパクリではないんだけど、SFというとやっぱり『ブレードランナー』的なディストピアものに収束していくのかと、興味深かったです。
あとロボットなどのメカ物よりも、SF文法の群像劇が多かった印象です。それはけっこう意外でしたね。

――やはり群像劇よりも、ロボットなどアクション要素のある作品の方がいいのでしょうか

上町:大賞を受賞してアニメ化を狙うなら、やっぱり映像的に映えるものだったり、そこそこスケール感の大きいものじゃないとしんどいかなとは思います。ただ、Project ANIMA自体は書籍化を見据えた企画でもあるので、多様性の範囲かな。
アニメにできるのは各部門1作品だけですが、書籍化やコミカライズについては、おもしろかった作品の数だけ実現したいと考えていて、上限はありません。プロジェクト開始時から、メッセージとして「創作をもっと自由に」「媚びないでやってほしい」と言っていたので、必ずしもアニメ化に適した作品ばかりじゃなかったけど、大前提の部分ではよかったんじゃないでしょうか。

――では逆に、アニメ映えするものを書きたい!という作家に向けてアドバイスをいただけますか

上町:物語における前提のルール説明を序盤でやっていただけると、アニメにするイメージがわきやすい作品になると思います。アニメを見ていて流れてくる、自分語りのナレーションって気持ちよくないですか? 『コードギアス』の「皇歴2010年8月10日、神聖ブリタニア帝国は……」とか、『ユーリ!!! on ICE』の第1話で「僕の名前は勝生勇利!」といきなり始まるのとか。

――一人称でナレーションを映像に乗せていくのは、アニメ的な文法ですよね

上町:実写映画でも最近、冒頭からいきなり「俺たちの町は……」と説明が入る作品は増えているんですが、文章の領域ではまだあまりされていなくて、いきなり会話劇が始まってしまう。ゆっくり立ち上がってくる作品、冒頭がおとなしい作品がかなり多かった印象ですね。プロローグでどれだけその作品を伝えることに特化できるかは気にしてもらいたいです。「起承転結」の「起」に囚われすぎないで、別に「転」から始まってもいいわけですよ。審査してても、冒頭がワクワクするほうが合格を出しやすいですし、アニメ映えすると思います。


異世界ファンタジーでまだやられていないこと

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――エンタメ性を出すには「発明」が必要というお話が先にありましたが、「異世界・ファンタジー」で新しい発明はなかなか難しいと思うのですが……

上町:意外と、まだメジャーではやられていないことはたくさんあると思います。「小説家になろう」に載っていないアイディアはほとんどないかもしれないけど、そこからヒット作が育っているかと言われたらそうではない。例を挙げると、異世界と行き来しながら進んでいく作品や、向こうから現実世界に侵食してくる恐怖を描く作品には、まだ「これだ」という超ヒットが出ていない。

異世界ものの亜流で、『漂流教室』みたいな漂流ものもありだと思います。もう戻れない悲しみにフォーカスを当てると、いわゆる「異世界もの」とも少し文法が変わってくる。都市伝説の「きさらぎ駅」も近いですね。ホラーではないけど、得体の知れない恐ろしさ。Twitterができない世界とか行きたくないでしょ(笑)。ほかのジャンルで成り立っているものをファンタジーに置き換えてアプローチするのは効果的かもしれないです。

――異世界の設定はできたんだけど、そこからストーリーが浮かばない場合はどうしたらいいでしょう?

上町:世界観設定の中に、何らかの制約を設けるといいと思います。何かを使うには何かを失わなければならないとか、その世界特有のルール。『メイドインアビス』だと、下層には潜れるけど、逆に高度が上がると体に負荷がかかるというのが発明ですよね。階段を上った先のドアにどうやら秘密があるんだけど、階段を十段上がるのがとんでもなくつらくて、それだけで眩暈がして死にそうになる。シンプルなルールの中に重い制約を与えると、それだけでいろんなドラマができる

――以前「バディ小説座談会」という記事でも、「主人公が困らないとエンタメにならない」というお話がありました

上町:人間が戦うってよっぽどのことだからね。異世界に転生しても、戦わないで居酒屋とかで働いて良しなに暮らしていくよね、普通だったら。
あと持ち込み会で言ったのは、異世界や転生した先で不便してないねと(笑)。昔あった「異世界シャワー問題」や、そもそも言語をどうするんだという問題へのアプローチはきちんと考えた方がいい。言語や、異世界に迷い込んだ先人に誰がいたか、みたいな問題はファンタジーの王道でありながら、最近はそういう作品が少ない。まだイジれる要素があると思います。

――最後に、書き手に向けてのメッセージがあればお願いします

上町:アニメの原案募集という事でスタートしたProject ANIMAではありますが、根底には「創作の楽しさを今一度思い出そう」という想いがあります
「小説書いてみようかな、書いてみたいな」と思いながらもこれまで書かずに来た方や、アニメ作家に絶対なるんだ!と必死に作品を創り続けている方、創作というものを愛する皆さまのためのプロジェクトです。是非、皆さんの創作にかける愛を作品としてご応募ください!

(インタビュー・構成:monokaki編集部、写真:鈴木智哉)


*本記事は、2018年06月07日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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