第二回氷室冴子青春文学賞スピーチ|monokaki編集部
第三回「氷室冴子青春文学賞」の募集が開始された。「monokaki」では以前にも第二回の最終審査の現場に潜入し、白熱した選考の様子をお届けした。
第三回への応募を考えている人、氷室冴子青春文学賞に興味のある人に、更に読んでほしい記事をお届けしたい。第二回受賞者たちの授賞式スピーチだ。今回の記事では、準大賞・大賞受賞者に加え、第一回の大賞受賞者の書籍化記念スピーチを掲載した。小説へかける想いがつまった授賞式の臨場感を味わってほしい。
受賞者スピーチ<準大賞受賞者:坂水さん>
坂水:『あるはげた日に』で準大賞をいただきました坂水と申します。まずは御礼から申し上げたいと思います。
この度、準大賞に選んでいただきました審査員の先生方、柚木先生、朝倉先生、久美先生、ありがとうございます。そしてエブリスタのスタッフの皆さま、このけったいなタイトルの作品をよくひろい、そして最終選考までもっていってくださったと、本当に信じられない思いでいました。感激しております。
そして運営をなさっている岩見沢の皆さま、本日お越しくださった皆さま、このような晴れがましい席に、しかも準大賞としてお呼びいただき誠にありがとうございます。
またクラウドファンディグに参加していただいた方々、御礼を申し上げます。
今日はスピーチということで何を話そうか考え、一応最低限おさえておくべき内容3点を決めてきました。
1点目はさきほどの皆さまへ対する御礼。
でもそれだけではちょっとあれだなと思いますので、2点目はさらっと聞き流していただければと思います。(会場笑)
作品について。作家は昔から目指しておりまして学生時代、社会人になってからも書いてはいましたが、忙しさにかまけて数年書かなかったり、また書いてみたり、また書かなかったり、書いてみたり……ここ3年はコンスタントに書いていますが、波があります。
また、書くジャンルもかなりばらばらでして、受賞作は青春小説ですが、私自身はライトノベルも読み、現在エブリスタさんでは伝奇といいますかホラーといいますか、そういった作品を連載しており、読むものも書くものも、かなり多彩というか、とっちらかっています。(会場笑)
その中でも一貫して書きたいことがあります。今回の作品の中にも盛り込んでいるつもりではありますが、人と人の間におけるやりきれないこと、を書きたいと思ってずっと筆を執ってきました。
『あるはげた日に』は、主人公のキヨミが彼女の身の上におきた小さな悲劇、それを隠そうと学校での1日を奔走するお話です。本当に小さな個人的な悩みで彼女は走り回ります。大人からすると、命に関わることではない、ほんのささいなことです。
14歳の女の子を主人公にしていますが、私が学生当時はアニメ『エヴァンゲリオン』が流行っておりました。今でも大好きなアニメですが、ああいった風に世界を救いは全くしない、個人的な小さな小さな悩みのお話なのです。
ただ、世界を救うに勝る小さな愛おしさ、小さいからといってそれを切り捨てないで、例えば柚木麻子先生が選評でおっしゃってくださったような、名前もつけられないような感情、そういったものを書き表したい。大きくとらえてしまえば、すっと流されてしまうものを書き表したい。その中でも特に人と人の間におけるやりきれないことを書きたいと思っておりました。
『あるはげた日に』の中でもそれは織り込んだつもりで、その作品が準大賞に選んでいただけて本当に嬉しいです。
選評の中でも主人公のキヨミが差し迫った、追い詰められたふうであると柚木先生からのお言葉をいただきまして、そこを汲み取っていただいてとても嬉しかったです。
3点目、今回のエブリスタの賞では、最終選考作がネット上にあがっています 。選評も選考の様子もアップされています。
普通の公募で、最終選考の様子と作品を同時に読めるということはまれでしょう。
作家志望者にとっては、リアルタイムで先生たちのご意見と並行して作品を読めるということが、なかなかなくてとてもありがたい賞だなと思っております。同時並行で読めて本当に参考になりますので、エブリスタさんには、ぜひとも続けていただきたい、もしくはパワーアップしていただければと思います。
この賞に泥を塗らないように、私もがんばりますので、ぜひ3回、4回……もっと続いてくれたらなと、いち作家志望者として願っております。
この度は誠にありがとうございました。
受賞者スピーチ<大賞受賞者:佐原ひかりさん>
佐原:この度第二回氷室冴子青春文学賞で大賞をいただきました佐原ひかりと申します。
自分の人生においてこのような主役というかメイン側で、式典に携わるのはもうお葬式くらいしかないと正直思っていたので(会場笑)、意識というか自我があるうちにこういう場でしゃべる主役になるということは、ある意味人生油断ならないなと思っております。
このたび、こちらの賞に応募するにあたって3点決め事を自分に課しました。
1点目は氷室冴子先生の名前を冠した賞である限り、少女というものをきちんと丁寧に描くということ。
2点目は今の時代に対して何か新しい価値観やアンサーを自分なりに提示するということ。
3点目は繊細さとユーモアを忘れないこと。
氷室冴子さんの名前を冠した賞なので、それは絶対に守ろうと思っていましたし、自分が大賞じゃなかったとしても、大賞となるような作品というのはできればそういったものがいいなと話していたので、今回は二重の意味で嬉しく思っています。
と同時に、自分の作品がそういうものに耐え得るものなのかというのはすごい自信がないところではあるんですけれども、私は氷室冴子青春文学賞の出であるということをずっと忘れずにものを書いていきたいと思っています。
昔からすごく少女というものが好きで……少女の優しさ、したたかさ、残酷さ、あたたかさでありすこやかさであり、いろんな少女がすごく好きなんですが、氷室冴子先生が描かれる少女は繊細なんだけど、どこか図太くてちょっとしたたかなところもあり、すこやかで伸びやかでたくましくて、そういうところにすごく惹かれ、憧れるところがありました。
ものを書く時に基本的に少女を主人公に据えて書くことが多いのですが、氷室冴子先生しかり、いろんな方々が描いてきた少女の姿が私には行進のようにも見えています。表情や歩き方も全員違うんですけど、少女のみなさんが自由に歩いている姿が頭の中にありました。今回はこういう賞をいただいたことで少女の行進の最後尾にもう一人送り出せてあげたことをすごく嬉しく思っています。
最後になりますが、このたびこの賞で選考いただいた先生方、エブリスタの皆様、実行委員会の皆様、そしてご来場いただいた皆様、作品を読んでいただいた皆様にお礼を申し上げて締めの言葉とさせていただきます。この度は誠にありがとうございました。
第一回受賞者<櫻井とりおさんのお話>
受賞者のスピーチ後、書籍化を果たした第一回受賞作品『虹いろ図書館のへびおとこ』著者の櫻井とりおさんからのスピーチも行われた。
櫻井:おめでとうございます。それぞれにすばらしいアプローチで、とても私にはできないとかなり焦っております。(会場笑)。図書館に勤めていますと、作家の先生はお札に描かれたえらい人と同じでございます。その方達と普通の人間としてつきあっていただいてきゃっきゃとお話させていただき、もうこれで、帰りの飛行機が落ちても、思い残すことはないと思っております。(会場笑)
『へびおとこ』 が『虹いろ図書館のへびおとこ』 というふうに形になって、今まで私の頭の中だけにいた、ほのかとスタビンズとイヌガミらが形になって皆さんのお手に届いたこと、お手に届くまで、本を作るのが大変な作業だということが身にしみてわかりました。
河出書房新社の編集・岩崎さんはじめ活字に組む人、校正する人、素晴らしいイラストを描いていただいたイラストレーター様やデザインをしていただいた方……。この場を借りてお礼申し上げます。
皆さまも一回この本を触っていただきたい。手触りで1200円の価値があります。本当に幸せでございます。
岩見沢の皆さん、ありがとうございます。去年こちらにこさせていただいてちょうど7月の、ポプラの綿毛が飛び散るような季節でしたが、今回本当の雪が舞い散る季節に来られて嬉しいです。去年は千歳に送っていただいた時に、これで魔法がとけて普通の主婦に戻るなあなんて言ってたんですけど、また魔法が途切れないで今この場所にいることが信じられません。
本当にありがとうございました。
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