Q.執筆する際の健康法を教えてください|海猫沢 めろん
海猫沢です。
コロナがここまでヒドイことになるとは思ってもいなかった……。
文フリに出す予定だったバンド「エリーツ」の同人誌、ゲームマーケットに出す予定だった新作ゲーム3本、今月発売予定だったエッセイ本、そして雑誌の連載、ぜんぶ止まってます。
私くらいの下級国民になると一家離散で家がなくなっても動じないわけですが、ギリギリになったら使う予定の竹槍を磨いて永田町あたりをググってます。
さて、今回の相談です。
今月の相談者:たってぃさん(36歳・会社員)
執筆歴:15年
ご相談内容:執筆するたびに体調を崩します。普段どのような体調管理をしているのか、健康法を教えてほしいです。
職業病としての体調不良
たってぃさん……大丈夫ですか……? これはなかなか理解されない悩みかもしれません。執筆するたびに体調を崩す? そんなバカな! と思う人も多いでしょう。
「そもそも、なんでモノを書くだけなのに体調が崩れるんだよ! 関係ないじゃん!」
私も最初はそう思っていました。
「心の問題が体にあらわれるなんて、魂のステージが高いスピリチュアルな人だけだろ? 毎日アニメみてゲームしてコーラのんでポテチ食ってる俺には関係ないぜ!」
そう思ってるでしょう? 今、コロナでひきこもってるみなさんも! ちがうから!
あれは20代の頃です。とある作家さんにお会いしたんです。
ベストセラー作家ながら当時スランプに陥っていたその作家さんは、深刻な心の病に悩まされていました。
「小説、という言葉を聞くだけで手が震えて心臓がドキドキしてしまうんです……」
そんなバカな! と思う私の目の前で、担当との電話の合間にパニックの薬をかみ砕く彼。青ざめた顔。震え出す手。電話のあと、彼は完全に石仏のようになりました。
執筆って怖いな……。心からそう思った瞬間でした。
あれから十年数……私も締め切りギリギリになると、頭痛吐き気下痢、倦怠感、焦燥、不眠、過眠、躁鬱……あらゆる不調に襲われます。
私の家の手洗いには、文豪たちが原稿の〆切りについて書いた文を集めた『〆切り本』が置かれており、それを開くたびに、「ああ……これは職業病なんだな」とあきらめのため息をついております。
体調管理は「睡眠・食事・運動」セットで
そんなことを言っていても始まらないので、私は体調管理をすることにしました。
健康についてはまず、「心と体」両方の面の健康について考えなくてはいけません。まずは体の健康です。
ありきたりですが「睡眠・食事・運動」がセットになります。
まず睡眠はいつでも思う存分とります。いつなんどきであろうが、眠くなったら寝ます。そうなると不規則になりますよね? でも、部屋を完全な遮光カーテンで閉ざしていれば時間は関係ありません。加えてアイマスクとトゥルースリーパーも装備。体内時計を信じます。問題は運動です。
日が昇っているうちなら、ランニングや散歩をするようにしていますが、時間がずれた場合は、24時間あいているフィットネスにおもむき、夜中3時くらいからトレーニングです。いつものメニューは、ストレッチ15分、初動負荷を軽く、ランニングを15分、腕立て腹筋30回、ベンチプレスを50回、スクワットマシンで70キロを30回、シャドウボクシングとサンドバック打ちを軽く、そのあとノートパソコンで「ダンスラッシュスターダム」というゲームの画面を流して3曲くらいダンス。
このトレーニングは好きな音楽やポッドキャストを聞いているので、情報が摂取できて超楽しいです!
終了後のプロテインは必須です。特にEAAという、アミノ酸系のものを飲むと爪や髪の毛が丈夫になるらしいので飲んでます(いまいち実感がない)。
……と、まあ普段ならこうなんですが、これを書いたあとコロナ影響でジムに行けなくなってしまいました。
運動ができなくて身体がおかしい私は、一日に15分くらいストレッチポールに乗っています(アマゾンで3千円くらい)。これは次に述べる「呼吸」にもつながります。
心と体はつながっている
パニック障害でひどい目にあった経験から断言できますが、心と体は相互に影響しあっています。特に年齢を重ねるほどこの傾向は顕著になります。
ハードな飛行機移動や昼夜逆転の仕事が続いた40代のある日、私は飛行機のなかで貧血を起こしてぶったおれました。
それ以来、狭いところに長時間いたり、前日から予定がはいるだけで、不安の発作や貧血や不眠が緊張による全身の痛みに襲われるようになってしまったのです。抗うつ剤でなんとかごまかしたものの、この体調不良から復帰するのにはまる一年くらいかかりました。このとき、私がやったことは身体トレーニングに加えて、「呼吸法・瞑想・友人と話す」です。
まず呼吸ですが、呼吸は生命維持に関わる運動のなかで、唯一自分でコントロールできるものです。パニックになったら呼吸に集中して整えることで、メンタルが落ち着きます。この延長に「瞑想」があります。これは流派がいろいろあるので調べてください。ぼくはシンプルに呼吸に集中するマインドフルネスヨガをやってます。
友人と話すことも大切ですが、あるときぼくは気づいたんです。吐きそうに緊張しているときでもなぜか話し始めるとマシになる……。
さらに観察してみると、会話=呼吸、だと気づきました。人が話すときって息をすいたり吐いたりするんです。つまり、呼吸の一種なんですよ。
呼吸はふだんの姿勢にも関係しています。背中が曲がっていて、骨盤が立っていない、肩甲骨が動いていない、いろいろ理由はあると思うんですが、とにかく動いて姿勢をよくすればかなり呼吸が深くなります。
パニックになりそうなときに、前述したストレッチポールに乗るとなぜかマシになったんですが、どうも肩甲骨が開いて自然に呼吸が深くなっていたためだと思います。
ともかく、古くはヨガや『ジョジョの奇妙な冒険』から、最近では『鬼滅の刃』やロシア最強格闘技「システマ」でも呼吸は大切なものとして書かれているのでガチです。水の呼吸で執筆してます。
実践メニューを考えました
ところで、たってぃさんは36歳の会社員。さすがに同じようにとはいきません。おまけに今はコロナで動けません。そこでぼくがメニューを考えました。
・体=トレーニングと食事
散歩。ラジオを聞きながら公園を30分ほど歩こう。そしてスクワット30回を3セット、風呂に入って15分ストレッチポールに乗る(スマホでも見てれば一瞬です)。トレーニングをひとつやるなら腕立て腹筋よりもスクワットです。
食事は一日一回、必ず納豆とサラダを食べてみてください。
・心=ストレスゼロの執筆をしてみる
執筆すると体調が悪くなるそうですが、どういったものを書かれているのでしょうか? もしかしたら自分に大きなプレッシャーや心理的負担を伴う内容なのではありませんか?
あるいは、過去に誰かに辛辣な批評をされたりして、書くこと自体にネガティブなイメージが不随しているのかも知れません。
いずれにせよ、相談者の方は非常に真摯に執筆に取り組んでいるのでしょう。しかしながらそれもいきすぎると危険です。
ならば、絶対に体調が悪くならない執筆をしてみましょう。とにかく15分ほど、ノンストップで、手を止めず、意味のないことでもいいので、頭に浮かんだものをまったく検閲せずにかきまくりましょう。
誰も見ていないし、批評もしないので、とにかく自分の頭のスイッチを切ってゼロ状態で書きまくりましょう。読み返したりなおしたりしなくていいです! 善し悪しとかも無視してください! なんなら「あーあああああーかくことがないー」とかでもいいです(実際ぼくがやっていたとき、そんな感じでした)。
終わったら忘れてゲームでもやって寝ましょう。
こういうストレスゼロの執筆を何度かやってみると、「書くことのハードル」がどんどん下がり、執筆にまつわる過度なプレッシャーを無効化することができます。
ともかく、執筆の不調が身体まで出ている場合は、かなり無理をしている可能性があるので、まずは限界までハードルを下げたところから始めるのが大切だと思います。
みなさんも、執筆は自分の体と相談しつつやりましょう!
作家はみんな、一度は限界を超えた世界を見ていますが、ぶっ壊れるとリカバリーが大変なので……。
最後に、最初に述べた作家さんの名言をここで紹介します。
「限界は……超えちゃいけないから限界なんですよ……」
圧倒的真理がここにある。
コロナが限界な今、私達も気をつけましょう。
(今回の相談に関わる、ライターズブロックの回も参照してみてください)
*本記事は、2020年04月14日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。