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2013年のウェブ小説書籍化③ 多様化する女性向けウェブ小説と出版社系サイト/電子小説誌の苦戦|飯田一史

スマホ発の大人の女性向けロマンス市場の台頭

 2013年にKADOKAWA以外では何が起こっていたか。
 このころ、エブリスタ上で作品を有料で売るサービスを利用して販売部数ランキング上位を争っていた作家といえば梨里緒(中島梨里緒)、もぁらす(もぁらす松本)、河森朋春、みかん(清水みかん)、望月麻衣らである(たとえば「PR TIMES」にて配信されたプレスリリースを参照。2014年3月13日配信の「~スマホ小説「E★エブリスタ」2月販売部数ランキング発表~ 個人作家10名の販売部数が5,000部突破!」や2014年5月8日配信の「【スマホ小説「E★エブリスタ」4月販売部数ランキング発表】 史上初!月間売上200万円越えのスマホ作家が誕生!」)。

 2013年7月には宝島社文庫からもぁらすがもぁらす松本名義で恋愛小説『liar ~ズルイ身体~』を刊行し、同作はのちにエブリスタと双葉社からコミカライズされ、そちらも人気を博している。
 また、2013年11月には三交社から〈大人の女性〉のための文庫小説レーベル「エブリスタWOMAN」が創刊され、梨里緒は中島梨里緒名義で11月に『CONTRACT』を、翌年2月には、エブリスタ上で1か月に5万部以上を売り上げ、販売金額200万円以上を記録した『Perfect Crime』といった人気作を刊行。『PerfectCrime』は2019年にはテレビ朝日系列にてコミック版を原案としてドラマ化されている。梨里緒の作品はピンキー文庫からも書籍化されているが、彼女はエブリスタで執筆する際にはアクセス解析機能を使って読者の反応をリサーチし、ランキングでトレンドを把握して執筆していると語っている(「梨里緒インタビュー」、「ダ・ヴィンチ」2014年10月号、KADOKAWA、110p)。
 さらに望月麻衣は、2014年2月に創刊された、エブリスタ発の女子中高生向け恋愛小説を刊行する小学館エンジェル文庫にて『お嬢様・綾小路美優さんのヒミツ!』を14年3月に出版してデビューし、2015年8月から双葉文庫で書籍化スタートした『京都寺町三条のホームズ』シリーズで出版の世界でもブレイクする。ただ、エブリスタ上でこのころ高い人気を誇ったが現在まで未書籍化のままの作品も複数ある。

 この時期には、従来からあるレーベルも含め、スターツ出版のベリーズカフェ発のベリーズ文庫、アルファポリスのエタニティブックス、エタニティ文庫などから、ウェブ上(スマホ上)で人気を博した大人の恋愛小説が以前にも増して書籍化されるようになったと言える。また、エンジェル文庫などティーン向けの(ケータイ小説の流れを汲む)恋愛ものも期待されていた。
 エブリスタの動きと並行するようにして、スターツ出版は2012年に創刊した単行本レーベルのBerrysBooksをリニューアルして2013年4月にベリーズ文庫を創刊している。市況的に単行本よりも文庫の方が可能性があると判断してのことだった。ベリーズ文庫は2017年には歴史ものなどを扱うベリーズ文庫ラブファンタジー、2018年に異世界転生・転移を扱うベリーズ文庫異世界ファンタジーを加えて拡張している。
 スターツ出版の松島滋は2016年4月に筆者のインタビューに対して

ハーレクイン・ロマンスの日本版とお考えいただければと思います。今は40代の女性がコア読者になっていまして、30代、50代の方もいらっしゃいます。お子さんがいて、旦那さんが働き盛りで、という方が多いですね。

アルファポリスさんの大人向け恋愛小説レーベル・エタニティ文庫がうちと併読で多かったので「いっしょに棚を作ってください」とやっていくうちに棚ができていき、今は併読はほとんどうちのレーベルのものになりました。(「「ケータイ小説は終わった」なんて大間違い! 今も16万部のヒットを生み出すスターツ出版に聞く」

 と答えている。「一般文芸」の枠内で書かれる恋愛小説とも、いわゆる「少女小説」の枠内で書かれるラブコメとも異なる、よりエンタメ色の強い国産ロマンスの市場(の多様性)は、21世紀以降はウェブ発の作家・作品が開拓、拡張に大きな貢献をしてきたと言って過言ではないだろう。

 いや、恋愛小説だけではない。
 内藤みかは、ケータイ小説が広がると女性向け官能小説が急増したと語り(「ダ・ヴィンチ」2013年9月号、97p)、このころエロと恐怖の電子書籍レーベル「エロ怖」をプロデュースしている。
 2013年2月にはKADOKAWAメディアファクトリー(当時)運営の官能ウェブ小説マガジン――投稿サイトではない――「fleur」が創刊され、9月には同サイトを母体とするフルール文庫も創刊された。
フルールには男女の恋愛を描いたルージュラインとBLのブルーラインがあり、ブルーラインの創刊ラインナップにはのちに直木賞候補になるなど一般文芸でも高く評価される作家・一穂ミチによる『ふったらどしゃぶり』もあった。

 同年3月に創刊された文芸社ピーチ文庫でもウェブ発のBLである砂月花斗『機上の恋は無情!』が創刊ラインナップに入り、9月には阿賀直己が個人サイトに連載したBL『神さまはこの恋をわらう』が、同作刊行のために立ち上げられた出版社ルナマリアから刊行されている。
 筆者はBLにも女性向けのウェブ小説にも疎いため、これらがどれだけ新しかったのかわからないが、投稿サイトや個人サイト、あるいは商業媒体のウェブサイトなどのウェブ発BLの書籍化も遅くともこのころには登場していたことが確認できる。


ピンキー作品のナツイチ入り、エブリスタと野いちごで支持された『カラダ探し』

 大人向けではなくティーン向けの、ケータイ小説に目を向けるとどうか。
 2013年にはくらゆいあゆ『駅彼』が集英社ピンキー文庫から刊行されたが、この作品は翌2014年には集英社文庫の夏の販売キャンペーン「ナツイチ」作品のひとつに選ばれている
 集英社文庫はそもそもコバルト文庫および雑誌「コバルト」の前身である「小説ジュニア」掲載の「ジュニア小説」作品を文庫化するために創刊されたものと言われている。その系譜から見れば、コバルトからスプリットしたピンキー文庫作品が入ることにもある意味では納得感はあるものの、読書感想文の定番である夏目漱石『坊っちゃん』や太宰治『人間失格』などと並んでケータイ小説が選出されたことは、2010年代における「ケータイ小説の社会的公認」を象徴する出来事のひとつと言えるだろう。

 スターツ出版のケータイ小説文庫(2009年創刊)は恋愛系のピンクレーベルと青春系のブルーレーベルに加えて、2014年にはファンタジー系のパープルレーベルとホラー系のブラックレーベルが登場(ただしパープルレーベルは14年12月以降発売されていない)。いつの世にもティーンには「恋愛」「泣ける」「恐怖」といった感情にわかりやすく訴える物語が求められるが、ひとつの文庫レーベルで一通り揃えられるようになった
 そのブラックレーベルでもっとも重要な作品は、創刊タイトルのひとつでもあるウェルザード作『カラダ探し』だ。この作品はまずエブリスタにて連載され、次いでスターツ出版の「野いちご」に掲載されたのちに、2013年8月から書籍版の刊行がスタート。のちには集英社のマンガアプリ「ジャンプ+」でコミカライズされ、実写映画化も決まっている。
「エブリスタ」と「野いちご」というユーザー層が異なる2つのプラットフォームが共同プロモーションを展開し、いずれでも人気を博したタイトルは珍しい
 もちろん、何度か書いてきたように、複数のプラットフォームで執筆する作家は少なくない。しかし、ひとつの作品が複数サイトで話題になることはまれだ。その難しさの理由についてはウェルザード自身が語っている。

「E★エブリスタは、作品が『連載中』でなければ読まれない。なので、読者が離れないように書きつづけていくと必然的にページ数が多くなる。でも、野いちごは『完結』しなければほとんど読まれない。完結後に閲覧数が爆発的に伸びるので、長く書くよりも、本1冊分の分量で完結させた方が良い。真逆なんです」(筆者による「新文化」連載の「衝撃ネット小説のいま」「第26回ウェルザード氏「カラダ探し」2社が共同プロモーション」より)。

 こうした読者の属性や嗜好性、行動特性の違いが、複数の投稿サイトが共存でき、本連載で紹介しているような多様な作品が書籍化される前提条件となっている。


新潮社「yomyom pocket」と各出版社の電子小説誌の苦戦

 既成出版社のウェブ小説関連事業はどうだったか。
 ウェブ小説ではなく電子書籍の紙書籍化だが、ソフトウェア開発会社イーフロンティアに勤務しながらiPhoneで小説を執筆していた藤井太洋の『Gene Mapper -core-』が2012年7月にKindleDirectPublishingからリリースされた。その後、2013年4月には改稿されて『Gene Mapper -full build-』として早川書房から出版され、『SFが読みたい! 2014年版』で発表された「ベストSF2013[国内篇]」の第4位に選ばれた。
 なおKDPからの書籍化は藤井以外にも、KDP発で2013年のAmazon Best if 2013年間ランキングKindle本のライトノベル部門7位となり未書籍化作品では実質1位であった吉野茉莉『藤元杏はご機嫌ななめ ―彼女のための幽霊―』が2014年にMF文庫Jアペンドラインから書籍化されるなどしている。
 早川書房刊の「SFマガジン」2013年3月号62ページ掲載の橋本輝幸「2011年度・英米SF受賞作特集 解説」では、アメリカのSF小説誌「アシモフ」前年から購読数を7%以上伸ばして約2.25万部となり、約3割が電子版購入となっていることなど、海外のSF業界では電子書籍やウェブマガジンの存在感がさらに増していることが書かれている。「SFマガジン」は2010年頃からこうした情報を紹介しており(ただし電子やウェブが「当たり前」になる2010年代半ばになると言及は減る)、こうしたアンテナの張り方が『Gene Mapper』などにつながったと言える。

 また、2013年には新潮社が小説掲載サイト「yomyom pocket」を始めている。これはいくつかのヒット作を生み出したガラケー向けサイト「新潮ケータイ文庫」の流れを汲むものだ。
 2002年にリリースされた「新潮ケータイ文庫」は最盛期には有料会員約3万人に及び、作者にファンレターを送れるシステムや、作品について書き込みができるという各種投稿サイトと似た機能を有していた
 好調な伸びを背景に、有料会員制にプラスして電子書籍のダウンロード型販売サイトにリニューアルしようとしたところ、会員型(連載)と都度課金型(電子書籍販売)を併せたサービスがdocomoやSoftBankなどのキャリア に「リニューアル」とは認められず、新たなサイトとして立ち上げねばならなくなった。こうして2008年には「新潮ケータイ文庫DX」にリニューアルするが、前サイトから会員を引き継げず最盛期で1万人前後に下がってしまう。
 これをさらにスマホ向けの連載サイトとして2013年にリニューアルしたのが「yomyom pocket」だった。名前は当時季刊の小説誌として刊行されていた「yom yom」から取り、「小説新潮」「yom yom」の姉妹版デジタル雑誌という位置づけがなされた。
 新潮ケータイ文庫DXで行っていたDL型電子書籍販売サービスにはKindleをはじめとする電子書店が一般化していたため手を付けず、また、当時出始めていた“電子小説誌”(電子書籍で配信する小説誌)に寄せたものになっている。当時の状況を伝える報道を見てみよう。

 デジタル化の波は小説誌にまで--。創刊から2年半となる角川書店の電子小説誌「デジタル野性時代」に続き、今春、文芸春秋が電子小説誌「つんどく!」を刊行した。どちらも既存小説誌の電子書籍化ではなく、オリジナルの書き下ろし作品で作る新雑誌。新潮社も、会員制ウェブサイトで書き下ろし小説などを読める「yomyom pocket(ヨムヨム・ポケット)」を始めるなど、新たな試みが広がっている。
(「読売新聞」2013.05.28朝刊「電子小説誌 新人を育成 ページ気にせず存分に」)

 だが、これらはいずれも2014、5年に配信を終了した(「つんどく!」は15年8月から電子雑誌に移行した「別冊文藝春秋」に吸収される)。理由は簡単だ。投稿サイトで連載小説を読むのに比べて、電子雑誌で連載小説を読むのは手間がかかる
 投稿サイトの場合、好きな作品をブックマークしておけばクリックが1つか2つで最新話まで行け、しかもほぼ無料で読めるし、連載の過去回を辿り直すことも容易だ。
 対して電子雑誌の場合、まず電子書店で号単位で購入し、電子書籍閲覧アプリを開いてダウンロードしないと読めない。前の回を読み返すには、今読んでいる号を閉じて別の号を買ってダウンロードして開くという手間がかかる。好きな作家の新作をどうしても追いかけたい人間以外は買う/読むはずがなく、読者が新作に出会う機会を狭めているようなものだった
 作品のプロモーションと作家の育成機能を有する投稿サイト発の書籍化作品が拡大していくのを尻目に、出版社発の電子小説誌は期待された役目を果たすことができなかった。

「yomyom pocket」は「電子書籍」ではなく「ウェブサイト」であり、月額525円払ってログインすれば連載を頭から最新回まで読むことは容易に設計されていた点でほかの電子小説誌より多少利便性は高かったものの(とはいえログインしなければ読めないわずらわしさはあった)、会員数2千人以下のまま2014年にサービス終了。連載は当時新潮社が力を入れていた女性カルチャー誌「ROLA」の無料アプリに移管(吸収合併)されるが、2017年には「ROLA」アプリのサービスもクローズしている。
 電子出版事業を手がけるボイジャーの萩野正昭との対談の中で、020 Book Biz代表の落合早苗は「yomyom pocket」の失敗の理由をこう語っている。

「新潮ケータイ文庫」ブランドを引き継げず、さらに当時の潮流だった「アプリ」ではなく「有料ウェブサイト」だった等々の理由で会員がほとんど集まらずに翌14年にはサービスが終了しています。
2000年代に好評を博した『いじわるペニス』のように最初から「デジタルで読む読者に向けての連載作品」ではなく、「小説新潮」「yom yom」の姉妹版として一般文芸的な作品を分割して連載するほうが多く、スマホユーザーが食いつかなかったこともあると思います。(「「電子書籍の台頭による出版社没落論」はどこが間違っていたのか? 電子書籍の歴史を振り返る・後編」

 デジタルデバイスで読む読者に向けて書かれたデジタルボーンの小説のほうが、紙の本での閲覧を前提とした小説をウェブや電子書籍、アプリで配信するよりも支持されやすい、という指摘である(なお本稿の「yomyom pocket」の数字に関する情報は同記事を参照して書いている)。
 やはり2013年に始まり、まもなく終わった第1期LINEノベルもこの過ちを犯していたことはすでに見たが、デジタルボーンなウェブ小説と紙の小説の電子/ウェブでの配信との差異を無視した失敗は、このあともいくつかのサービスで繰り返されていくことになる。

 2013年は、4月に「LINEマンガ」がオープンし、5月に講談社が「モーニング」の電子版「Dモーニング」配信を開始、10月にはNHN PlayArt(現NHN comico)が「comico」を、12月にはDeNAが「マンガボックス」をリリースと、マンガアプリが次々立ち上がった年でもある。
 その後ウェブマンガやマンガアプリはIT企業発のものだけでなく出版社が運営するサービスも存在感がある状況が形成されていったが、それに比べると2010年代初頭から前半にかけて文芸に強い出版社発で生まれた講談社「アマテラス」も新潮社「yomyom pocket」も文藝春秋の電子小説誌「つんどく!」もうまくいかず、以降は講談社を除けば大手版元の文芸部門はガラケー時代よりもデジタル領域への挑戦を控えるようになり、存在感も後退してしまう一方で投稿サイトとそこからの書籍化作品は爆発的な伸長を見せていった

 少し見方を変えれば、こうも言える。ラノベやロマンスなどのジャンルの出版事業者はウェブ小説を取り込み、スマホ上でコンテンツが当たり前に流通する時代に合わせたビジネスモデルや作品内容、見せ方を採り入れることに成功した。だがいわゆる一般文芸、すなわち文芸誌で書かれるような純文学と小説誌に書かれるような中間小説、エンタメ小説の事業者は、スマホ時代に適したコンテンツ制作~流通へと自らを作り替えることができなかった、と。
「2000年代前半のウェブ小説書籍化(前編)」の回で「ガラケー用の有料課金サービスとして第一次ケータイ小説ブームでは成功を収めていたにもかかわらず、新潮社は2005年以降の第二次ケータイ小説ブームや2010年代以降のウェブ小説書籍化ラッシュに乗ることはなく、また、新潮ケータイ文庫のように自社が主導してウェブ小説やスマホ小説用のサービスを作ることはなかった」と書いたが、これは不正確な記述だった。正確に言えば、講談社アマテラスや新潮社yomyom pocketのように2010年代前半にもチャレンジはあったしかし、ガラケー時代とは異なりいずれも失敗に終わり、結果、なろうやエブリスタのような投稿サイトの存在が強く印象づけられるようになったのである


「東京からわざわざ話を聞きに来た人は初めてですよ」

 最後に、2013年におけるウェブ小説についての「語り」に触れておこう。
「ダ・ヴィンチ」2013年4月号には、河村道子「読者参加型のWEB連載が勝利の方程式? ヒットの鍵をにぎるファン心理とは!?」という記事が掲載され、ウェブ発作品の書籍化を「読者参加型」とくくって『武装中学生』『まおゆう』『ニンジャスレイヤー』をヒット作品として取り上げられたほか、12月号では「フルール」の紹介記事が書かれ、一穂ミチと三浦しをんの対談が掲載された(断っておけば一穂はウェブ小説書籍化でデビューした作家ではない)。
 また、2013年の3月から筆者は出版業界紙「新文化」にて「衝撃ネット小説のいま」の連載を始めている。5月掲載分の取材で「小説家になろう」を運営するヒナプロジェクトの本社――現在は大阪にオフィスがあるが、当時は京都市伏見区にあった――に赴いたが、創業者の梅崎祐輔から「東京からわざわざ話を聞きに来た人は初めてですよ」と言われた(2020年に新型コロナウイルスが流行するとZoomなどを使ったリモート取材は一般化したが、それ以前は取材と言えば「会いに行く」のが当たり前だった)。そもそも当時は「なろう」の運営者が取材を受けること自体がまれだった。
 2013年10月から「なろう」発で初めてTVアニメ化された『ログ・ホライズン』が放映され、ウェブ発の小説がネットと本の世界を超えた広がりを見せていくことになるわけだが、それでも当時「なろう」をはじめとするウェブ小説をめぐるメディア状況や「語り」はまだ局地的なものにとどまっていた

 たとえば入江敦彦「自費出版ベストセラーの“甘い夢”」(「本の雑誌」2013年4月号94~97p)では文芸社から自費出版された山田悠介『リアル鬼ごっこ』と、それを「通常の出版システムのなかからでは発掘し得なかった才能」と高く評価した幻冬舎・見城徹のことをくさしているが、当時すでにウェブから「通常の出版システムのなかからでは発掘し得なかった才能」が続々ヒットを飛ばしていたことには一切触れていない
 また、2013年12月発売の「野性時代」2014年1月号特集「物語の10年」では過去10年の文芸の動きを総括しているが、ウェブ発作品に関しては巻頭の冲方丁と桜庭一樹の対談で「ベストセラーを見ると、10年前は恋愛小説が多いですね。ケータイ小説が全盛で」(17p)と“過去のもの”として触れられたことだけだった。
 2000年代初頭に「ライトノベルから一般文芸への“越境”」の代表格として語られた冲方と桜庭は、意図的にかどうかは定かではないが、10年代初頭のウェブ小説書籍化の盛り上がり(2013年1年だけとっても、このように前回と今回で約2万字費やさなければ語れないほどさまざまな動きがあった)に触れなかった。
 そしてすでに『ビブリア古書堂の事件手帖』や『ホーンテッド・キャンパス』などの先行作品があり、翌2014年から次々レーベルが創刊されて本格化していくラノベと文芸の中間形態としてのライト文芸、キャラクター文芸の動向にも――「野性時代」はKADOKAWAから刊行されている雑誌であるにもかかわらず――どういうわけかまったく言及しなかったのである。


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『Perfect Crime 1』 
著者:梨里緒(リリオ) イラスト:月島綾(ツキシマアヤ) 
双葉社(ジュールコミックス) 
前島香織は住宅メーカーに勤めるインテリアプランナー。7年に渡って上司の冬木との秘密の関係を続けてきた。ところが香港支社から異動してきた東雲遥斗に社内不倫の現場を目撃されてしまう。香織に嫌悪感を示しながら、冬木との決別を強要してくる東雲。東雲との出会いから、香織の運命は動き始めオフィスに張り巡らされた危険な罠に落ちていく―――。エモーショナルでスリリングなオトナのラブストーリー!

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『カラダ探し 1』 
著者:村瀬克俊 原作:ウェルザード 
集英社(ジャンプコミックス) 
全員振り返って全員死亡!!!!!! 
迫り来る絶望── 極限サバイバルホラー!!

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