「文章力を上げる」ための長期的/短期的な方法|Spring 2019|monokaki編集部
Editor’s Letterは久しぶりの更新となりました。
当欄は、最近の記事を編集長の有田が振り返って語る、monokakiの「編集後記」です。
今回は、「音読の効用」について書きたいと思います。
2月にインタビューした斎藤真理子さんの言葉の中で、以下の行がたいへん印象的でした。
文体については、音やリズムをつかむために、最初に2回音読します。文章のさまざまな癖、意図的にやっていることかどうかなども、音として読むとつかめる場合があるので。作品によってはまず手書きで訳すこともあるんですが、音読も手書きもある意味、身体を使っていますよね。目だけで訳すのではなく身体の他の部分を使うことが、私の場合はリズムをつかむために役立っているようです。校正が出て仕上げる際にも、音読でリズムを確かめながら直します。
「目だけ」で訳すのではなく、「身体の他の部分を使う」ことで、翻訳がより豊かになるというのです。
これは、実は創作にも当てはまります。
文章は目と指先だけ使えば書けますが、それを喉を使って読み上げ、耳で聞いて確認する。すると、黙読していたときには気付かなかった文章のリズム、繋がりがおかしい部分、重複表現などにも、ぐっと気づきやすくなるのです。
公募の審査員やワークショップをやっていると、「文章力に自信がありません。文章が上手くなるにはどうしたらいいですか?」という質問をよくいただきます。「長期的には、文章力は読んだ量に比例するので、とにかくたくさん本を読んでください。短期的には、自分の書いた小説を、一度立ってゆっくり音読してみてください」とお答えするようにしています。
音読をしながら、「何だか地の文が長くて飽きてきたな」と感じたら、読者もそこで飽きている可能性が高いです。「このキャラ名、すんなり読めずによくつっかえるな」と感じたら、そのキャラ名はなかなか覚えてもらえないでしょう。「この台詞は声に出して読むの恥ずかしいな……」と感じたら、ブラッシュアップしましょう。
人の文章だとすぐに気付く部分でも、自分が書いた文章だと見過ごしてしまうことがよくありますよね。「上手い文章」を書くために必要なのは、客観性です。前述した「たくさん本を読む」のも、「音読する」のも、それぞれ長期的/短期的に客観性を獲得するための手段です。
「狙った場所にボールを蹴れますか? 表現のコントロール力」と題した記事で、海猫沢めろん先生も言っています。
とはいえ無理せず、好きなものを好きなように書いていってください。
で、書き終わったら、必ず一度は音読してみてください。
さらに完成度が高くなると思います!
好きなものを好きなように書く。それから、音読を通じて客観的に原稿と向き合い、完成度を高める。
他には、「1日・2日置いてから、また音読する」「モニターだけで見ていたものを、紙に印刷して確認する」「PCで書いたものを、手書きで書き直してみる」などの方法もあります。地道な作業ですが、文章力に不安がある方は、ぜひ身体を使って取り組んでみてください。
音読に関連して、年明けから始まった新連載「創作居酒屋」では、『君の膵臓をたべたい』などを手掛けた編集者の荒田英之さんが、また別のアプローチも提示してくれました。
――先ほど「文章力は頑張れば上達する」とおっしゃいましたが、すぐに上手い文章を書きたい方へのアドバイスはあるでしょうか?
荒田:そうですねー。おすすめの方法としては、キーボードではなく、音声入力で文章を執筆されてはどうでしょうか? 文章がそれほどうまくない人は、手慣れだけで書いてしまって、読んでいないか流し読みをしていると思います。音読をすると文章がうまくつながっていない部分が自分でもよくわかるようになります。
あと、この方法だとキーボードを打たなくていいので、肩こりになりにくいという副次的なメリットもあります(笑)。
音声入力の精度が上がってきて、ブログなどを音声入力で書く人も増えてきました。GoogleやiPhoneなど、特別なアプリを落とさなくても標準機能として使用することができます。0から物語を立ち上げるにはハードルが高いかもしれませんが、連載中の作品の最新話を書くのに、冒頭からずーっと続けて音読していき、続きを口頭で話していく方法もあります。書きあぐねたときの一つのアプローチとして、覚えていてください。
*本記事は、2019年05月03日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。