キャラクターの魅力を磨くためには、人に興味を持つこと|「ジャンプ小説新人賞2020」千葉佳余&福嶋唯大
2020年7月20日に8年半の連載にピリオドを打った『ハイキュー!!』。そのノベライズ、『ハイキュー!! ショーセツバン !!』も最新Ⅻ巻が発売された。ジャンプコミックスのノベライズの多くは「JUMP j BOOKS」から刊行されている。そのJUMP j BOOKS編集部が主催する「ジャンプ小説新人賞2020」が応募受付中だ。千葉佳余編集長と編集者の福嶋唯大氏にお話を伺った。
レーベルがないからこそ、いろんなルートでデビューできる新人賞
――「ジャンプ小説新人賞2020」で求める作品像、出会いたい作家像はありますか?
千葉:「JUMP j BOOKS」(Jブックス(以下同じ)」)はとくにレーベルとして確立されているわけではないので、レーベル全体の雰囲気というものは実はないんです。「ジャンプ小説新人賞」で賞を取った方はノベライズを執筆していただくことが多いです。
キャラクター世界を広げる力、原作のファンに寄り添える方を根本では求めています。ホラーや恋愛をテーマにした賞も主催していますし、オリジナルストーリーを書きたいという方ももちろんお待ちしています。
また「週刊少年ジャンプ編集部」や「少年ジャンプ+」との関わりも深いです。「ジャンプ小説新人賞」以外にも、ホラーや恋愛をテーマにした賞も主催しているのですが、「ジャンプホラー小説大賞」を受賞した尾北圭人さんの『自殺幇女』を、『カラダ探し』を描かれている村瀬克俊さんが「ジャンプ+」でコミカライズしてくださってます。そういう風にメディア展開しやすい編集部ではあると思います。
「ジャンプ」と冠する賞なので漫画にまったく興味ない人はあまり応募されないとは思いますが、漫画への愛があるかどうかは基本的に大事な要素かなと思います。
――オリジナル作品はどういった形で出版されますか?
千葉:定期刊行の「Jブックス」というレーベルがないので、出版の場があまりないと思われるかもしれませんが、実は色々なルートがあります。
作品の内容によって、「集英社文庫」や「ダッシュエックス文庫」であったり、「ジャンプ恋愛小説大賞」の受賞作が「オレンジ文庫」から刊行されるなど、さまざまなところから出版されています。
「Jブックス」は社内のいろんなレーベルに作品や企画を持ち込んで相談しているんですよ。それぞれのレーベルの読者層に合う企画であれば、出版に漕ぎつけることもあります。他にも、編集部のnoteなど発表の場をとにかく増やすことに心を砕いています。
福嶋:昨年の銀賞受賞作品であるおぎぬまXさんの『地下芸人』も現在出版に向けて動いているところです。
――作家さんにとってはとても嬉しいですね。担当さんに導かれることで、既存のジャンルに当てはまらない方でも輝ける可能性がありますね
千葉:賞の最終選考でもよくある話ですね。作品が良くてもカテゴリーが合わずに受賞できないことはあります。そういった場合も担当がついて直していけば出版できる可能性があります。
福嶋:また、最終選考に残れば担当がつくことが多いという特徴もあります。担当がつくスピードも早いです。
千葉:編集者がとても親身なんじゃないかなと思います。編集部も少人数で、スタッフ同士の年齢も近いので企画が通りやすい方ではないでしょうか。編集者のアイデアが実現しやすいと感じます。
他社のノベライズもそのひとつ。今年公開された『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』のノベライズを書かれたのは「ジャンプ小説新人賞2018」の「テーマ部門銀賞」受賞者の真紀涼介さんです。かなり繊細な筆致の方なので合うのではという担当からの提案で、実現しました。
福嶋:『とんかつDJアゲ太郎』の映画ノベライズを書かれたのも「ジャンプホラー小説大賞」の金賞受賞者・折輝真透さんでした。これは集英社文庫の夏のキャンペーン「ナツイチ」にも入りました。
↑「各担当が作家さんとしっかりやり取りをするので、打ち合わせの多い編集部です」と福嶋氏。
商業出版で戦う気がある人に意識してほしいこと
――今回はテーマが2部門【バディもの】【この帯に合う小説】になっております。こちらのテーマになった理由などありましたらお聞かせください
千葉:バディものを書く力は、ノベライズを執筆する時に必要な力です。
福嶋:素晴らしいキャラクターを作らないといけないし、掛け合いや関係性も書けないといけないんですよね。
千葉:関係性がノベライズでもとても大事なんです。最初のページでキャラクターの関係性を伝えきる能力があればどんなノベライズにも対応できると思います。
――「monokaki」でも以前に【バディもの】に関する記事を公開しました 。そこでも小説の基礎体力であったり、掛け合いやキャラクターがわかるということが意識して書けるかがわかるという話題になりました。
小説テーマ部門の【この帯に合う小説】では「涙が止まらない!」という帯になっています
千葉:この帯が書籍に巻けるような小説が書けたら、すごく力があると思います。帯の強さは単純に部数に直結します。そういう感覚があるかどうかが商業では大事です。どういうものが求められていて読者に喜ばれるのかっていうところまで意識が向けられると良いです。
――自分で書いたものにキャッチコピーをつけられるかどうかというのも近いですね
千葉:そうですね、帯とタイトルはほんとうに大切です。それが意識できている新人さんがいたら、そういう方を求めていると言っても過言ではない。コピーライト能力はすごく大事です。
福嶋:企画書を作るときに帯も込みで考える人もいるくらいです。
↑『NARUTO ― ナルト―』ノベライズを書かれている江坂純さんのコピーライト能力は非常に高いとのこと
――編集部として、どういった作品を期待しますか?
千葉:感動して泣いちゃう作品を読みたいなって思います。審査中の人間をうるっとさせたらすごい力だと思うんですよ、本来は陶酔したり没入して読むわけにはいかないので。そういった作品はキャラクターに魅力もあります。また、ひとつの文章が長すぎたり、無駄なエピソードなどのノイジーなものがないからのめり込んで感動までいける。『鬼滅の刃 風の道しるべ』は校了しながら泣いてしまったんです。原稿で読んで初稿で読んで再校で読んで、校了でも泣いたんです。すごいですよね。
福嶋:ノベライズは、守らないといけない原作の部分と自分で自由にできる部分がある。ある程度制約がある中で自由に考えるのは、普段自分が使っていない筋肉を使うことになります。その分、作家さんは成長に繋がってると思います。
千葉:テーマ部門をやっているのはそこが理由です。制約の中でオリジナリティを出してほしい。今回テーマ部門だけに絞ったのは、私たちからの明確なメッセージなんです。「Jブックス」の仕事ではノベライズが多いので、それをまず意識してほしいということです。
――今までノベライズが視野に入ってなかった書き手さんが目を向けてほしいですね。好きな作家さんのノベライズがもしかしたら書けるかもっていう可能性もありますね
千葉:自分が好きな作品をノベライズで書き下ろすっていうのはすごいことですよ。
↑ファンアイテムでもあるノベライズ本。装丁も凝っている
共感力とリスペクトがノベライズでは大切
――「Jブックス」のノベライズは、原作のキャラクターのみならず世界観も血肉にして書かれていると強く感じます。これが書ける能力はすごいですね
千葉:共感力が強いことが大切だと感じます。原作のファンに寄り添っていないものは出しても意味がないんですね。一方で私たちは原作者の先生ときちんとコミットして、ファンが望むものとのバランスをずっと探っています。
――編集部がノベライズを作る時に気をつけていることはありますか?
千葉:漫画家さんが描いてなかったところ、物語の隙間を私たちは書くべきかなと思います。
本当は漫画家さんが描きたかったけど、触れきれなかった。漫画の本筋のために切り落とした枝葉の部分を広げていくのが「Jブックス」の役目じゃないかなと。そのために担当者同士の話し合いを大事にしています。こういう話があったんだけどボツにしちゃったみたいな話を広げていくのが理想ですね。
――書き手の方もバランス感覚が求められそうですね
千葉:基本的にはその作品のファンの方に依頼しています。まったく興味がないという方をアサインすることはまずありません。だから、書き手の方も自分が執筆できるという喜びがあるし、作品へのリスペクトがある人たちだからこそファンに寄り添えます。
――漫画のファンでノベライズをやってみたいと思う方多いと思います
千葉:皆さんかなり楽しんで書いてくださっていると思います。上がってきた原稿からもそれが感じ取れます。
↑どの作家が担当するかも含め、作品のよさ、ファンの勘所を外さないようなノベライズ作りを心がけている
「ジャンプ」の王道としての成長するキャラクターが見たい
――応募原稿を見るときに、特に留意する点はどういったところでしょうか
千葉:私は読みやすい文章が最良だと思ってます。ジャンプのノベライズは小学生もたくさん読むので、簡単な文で伝えないと。小学生にわかるっていうのは子どもっぽいとかいうことではなくて、シンプルな表現で複雑な状況を説明する能力なのでとても難しいことなんですよ。短いセンテンスでリズムよく書けているかというのを私はすごく気にしています。
福嶋:ノベライズを執筆するかしないかは別としても、キャラクターが魅力的に描けているかは見ます。「ジャンプ小説新人賞」ではキャラクター小説を意識している応募作は多いんですが、そのキャラクターの魅力がもっとあるといいなと思う作品も多い。
――そのキャラクターの魅力の部分はどうやったら磨けますか?
福嶋:すごく難しいことですが、そのキャラクターを好きになれるかどうかが大きいと思います。ホラー賞など、賞によっては異なる話かもしれませんが、好かれる、身近に感じられる、応援したくなるという要素がほしいなと思っています。最初は憎まれる主人公でいても、だんだん応援したくなってくる変化が欲しいです。
千葉:「ジャンプ」は主人公が成長するのが王道ですよね。それは一番応援できるキャラクター造形だからだと思います。キャラクターの魅力を磨くためには、人に興味を持つことが一番の近道です。
例えばSNSや世間で話題になっている人がいたら、なんでなんだろう? どういう人物なんだろう? と考えてみたらいいと思う。好かれていても嫌われていても話題になりますよね。みんながなにかを言いたくなる人を常に分析するようにしてみたらいいんじゃないでしょうか。
――なにかが引っかかってしまう人にはなにかしらの魅力がある、それが個性になっている
千葉:人間を観察したり、なんであの人はあんなことを言うんだろうって考える人はキャラクター小説が書ける人。典型的な表現しかしないと、見たことがあるキャラになってしまいますよね。それは掘り下げが足りないから。なぜか魅力的だぞというキャラクターは、プラスアルファというか奥行きが全然違うんです。
↑「ビジュアルがない小説は、人物の表現がより必要になります。もしかしたら文章力よりキャラクター表現のほうが、より磨きやすいかもしれません」と千葉氏。
「ジャンプ」好きはもちろん、エンタメ作品であれば受け入れて世に出します
――金賞作品では「少年ジャンプ+」で漫画化される賞典があります。応募する際には漫画を意識したほうがいいのでしょうか?
千葉:そこまで意識できるならしてほしい。でも実際は難しいと思います。
福嶋:自分の書いたものが漫画化できるかな、どうかなと思う必要はないです。
千葉:基本的にキャラクターがちゃんとあれば漫画になります。イメージやビジュアルが浮かぶ表現を心がけたほうがいいですね。パッとこういう人かなって伝われば充分だと思います。
――ビジュアルが浮かぶのは描写を細かくするというのとはちょっと違いますか?
千葉:喋り方や雰囲気などが表現できているかというのもあると思うんです。キャラがブレていなければおのずと浮かんでくるものなので、書いている方の中にそのキャラが実際にいるという状態で書いてほしいと思います。
――最後に作家志望の書き手に向けて、メッセージがあればお願いします
千葉:「ジャンプ」とついている賞ですから、もちろん漫画に関係ありますし、漫画が好きな人にぜひ挑戦してほしい賞である一方で、間口を狭くしたいと思っているわけではありません。エンタメ作品であれば受け入れて、とにかく世に出したいと思っています。世の中に出るにはいろいろな方法があるので、そのための協力を惜しまない編集部です。
noteやTwitterなんかもやっているので、ご覧いただければ編集部のスタッフの雰囲気がわかるかもしれません。
福嶋:受賞者はもちろんですが、最終候補になれば担当がつく率がとても高い。それが他の賞と比べた利点でもあるかなと思います。受賞前の作家でも担当がついてものすごく打ち合わせをしていきます。ここまでやる編集部はほかにはないんじゃないかなってぐらい打ち合わせをします。ぜひ投稿して担当と打ち合わせして作品を出しましょう。
(インタビュー・構成:monokaki編集部、写真:鈴木智哉)
ジャンプ小説新人賞2020
部門:【バディもの】【この帯に合う小説】
応募枚数:40字×32行の原稿用紙換算で10枚以上30枚以下
選考:JUMP j BOOKS編集長及び編集部
締切:2020年10月31日(土)(WEBからの応募のみ)
発表:2021年2月下旬予定
賞:金賞 50万円+楯+賞状+少年ジャンプ+にて漫画化 銀賞 30万円+楯+賞状 銅賞 10万円+楯+賞状
詳細:https://j-books.shueisha.co.jp/prize/award20/