ラクして死ぬほどおもしろい小説が書きたい|Oct. 2018|monokaki編集部
当欄は、編集長の有田が一か月の記事を振り返って綴る、monokakiの編集後記です。
小説を書くのって、もしかして、ものすごくめんどくさいことなんじゃ……。短くまとめると、そんな世界の真実を暴き立ててしまったのが、monokaki10月号でした。
今月から新しくはじまった、三村美衣さんによる「新しいファンタジーの教科書」は言います。
基本設定を作る際に、実際によく使われているのは、歴史上からモデルとなる国や時代を借りてくる方法だ。(…)図書館に足を運び、歴史書や研究書を読み、設定資料にしてしまおう。言語や、農産物や、政治形態、習俗、地勢。
人気連載「おもしろいって何ですか?」で、王谷晶さんが「取材って何ですか?」と題して、その秘訣を明かしてくれました。
取材に決まったやり方はないが、私は以下の三点を基本方針に据えている。
1・行ける所にはなるべく行く
2・読めるものは読んでおく
3・インターネットと公共施設を使い倒せ
プロの作家兼校正者でもある逢坂千紘さんにWeb小説を校正してもらった「校正者が重たい口をひらくとき」は、こんなススメからはじまります。
原稿作成には、原則がいくつか存在します。(…)作品は読んでもらってなんぼだと思いますので、「型を破りたい」よほどの理由がなければ、現行のガイドラインを調べて守ってみるとよいかもしれませんね。
これらの言葉を聞いて、「うわー、おもしろそう! よし、どんどん図書館で資料を調べて、バンバン現地で取材して、しっかり表記のルールを覚えて、最高の小説を書こう!」なんて思える人は……まぁそんなに多くないですよね。(知ってる!)
もしこんな風に思われた方がいたら、断言します。あなたは上位1%の天然の物書きです。「モチベーション」という稀有な才能をお持ちの、天才の一種です。どうか自信をお持ちになって、そのまま創作活動に邁進していってください。その稀有なモチベーションが、かならずやあなたを何者かにするでしょう。
でも大半の人は、「できるなら一歩も家から出たくないしどこにも行きたくないし誰とも会いたくない、何ならそのすべてをしなくても全部自分一人で家の中だけで済むから小説を書くのが好きなのに、『外に出ろ』なんて……ぜったいやだ……家から一歩も出ないで誰とも喋らないでラクして死ぬほどおもしろい小説が書きたい……」と思うのではないでしょうか?(わたしは思います!)
monokaki のテーマは、「書きたい気持ちに火をつける」メディアです。そのために毎月毎週、手を変え品を変え、いろんな著者さんのとっておきの方法、知っているようで知らない小説の歴史、最前線のプロ作家や編集者の言葉、などをお届けしています。が、ふと不安になったのです。
「プロの小説はこんなに手が込んでいて、こんなにたくさんの努力のもとに成り立っていて、こんなテクニックが駆使されている」と強調しすぎても、逆に「小説って何か書くの難しいな……」「自分にはここまでできないな……」と、書きたい気持ちに水をかけてしまうのでは? と。
好きこそものの上手なれ、と昔の人は言いました。夢中になれるモノがいつか君をすげぇ奴にするんだ、と昔の人は歌いました。もちろん、勉強やテクニックは大事です。けれど、勉強やテクニックはどちらかというと、「学べば誰にも平等に与えられる」公共財みたいなものです。他人と自分との違いを決定づけるのは、あなたの中に眠る「こういうものが好きだ」という気持ちのはずです。
monokakiをはじめとして、世の中に「こうすれば書ける」と提示されているテクニックを、万遍なくすべて身に着ける必要はありません。自分の中でぴんとくるもの、試してみたいなと思うもの、おもしろそうだなと心が動くものを、ぜひ独断と偏見で選んでください。「図書館で調べ物はつまらなそうだけど、舞台になる街やお店を歩いてみるのは楽しそう」とか、「語源を知ると正しい日本語を使えるようになるのか! もっと知りたい」とか、人によってさまざまだと思います。
「monokakiの記事の中だとこれがおもしろいなぁ」という感性も、あなたの個性のひとつです。自分の「好き」を自覚し、楽しみながら学べることを伸ばしていくと、「ラクして死ぬほどおもしろい小説を書く」ルートも開けるはずです。
*本記事は、2018年10月30日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。