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アーサーが聖剣を抜いたのは「お使い中」だった話|ブルフィンチ『中世騎士物語 アーサー王とその騎士たち』|monokaki編集部

3月1日(金)

年度末ですね! monokaki編集長の有田である。この書き出しはmonokakiの大人気連載「おもしろいって何ですか?」(通称「おも何」)の王谷晶さんの真似です。皆さん、インプットしてますか?
Twitterを開くと「確定申告が……」とつぶやいているフリーランスの方が散見され、3月を実感しています。

そんな今月読む本は、岩波文庫の『中世騎士物語』に収められている「アーサー王とその騎士たち」。ご存知、「アーサー王と円卓の騎士」の元ネタ作品ですね。
FGOだけでも1,000万ダウンロード突破している、ということは国民の10人に1人くらいは聖杯戦争に参加しているといっても過言ではない現代日本において、Fateシリーズ以外にもそこかしこのフィクション作品でモチーフになっている「アーサー王伝説」。

……ですが、ちゃんと原典読んだか? というと案外読んでないんですよね。「聖剣エクスカリバーを岩から抜いたんでしょ?」とか、ちょこちょこしたディティールは知っているけれど、通して読むとどんな物語なんだろう? という興味から選書しました。

これ以降、作品ネタバレを含みます。ネタバレされたくない方はお気をつけください。


3月11日(月) :第一章 序説

今日は4月の「物書きの隣人」のインタビューで、エブリスタのUXデザイナー・谷口さんに取材しました。社内の人への取材ということで砕けた雰囲気。4月15日にリニューアルされるエブリスタ、さてどのように生まれ変わるのか!? 気になる内容は……記事をお待ちください。

選書してから進められてなかった『中世騎士物語』も、この日やっと購入して頁を繰り始めました。
冒頭、物語の本筋に入る前に、五世紀の騎士にまつわる豆知識が紹介されます。曰く、当時の騎士の生活はこんな感じ。

戦争となると、騎士たちは家来を引き連れて主君の陣営に詰めた。そうした戦争を指揮したり主君のために城を守ったりした。平和の日には宮廷に出仕して、君侯たちが気晴らしに催す宴会や試合に列なった。また正義を顕し邪悪を破ることを建前として諸国に冒険を求め、あるいは宗教上の誓や恋の誓を果たすために国じゅうを遍歴したりした。

前回の『赤と黒』を読んでたときは「貴族の家庭教師いいな」って思ったけど、騎士の暮らしもこう読むとちょっとたのしそう。

しかしそこに至るまでの道程はなかなか過酷そうで、続く「修業」「試合」などの項で引き続き騎士ライフのディティールが語られ、遂には「鎧」「兜」と装備の説明へと移ります。ここの項もかなり詳しくておもしろいので、ファンタジー小説を書いている人は資料的な意味だけでも読む価値ありです。鎖帷子の構造とかに詳しくなれます。


3月13日(水):第三章 マーリン

有田はmonokaki のほかに、オリジナルアニメを作るProject ANIMAというお仕事を並行してやっているのですが、今日はスタジオさんとの打ち合わせのため中央線を一路西へ。移動中に読み進めていたら、早速耳慣れた名前が出てきましたよマーリン!!!!! 原典で読むマーリン、とりあえずめっちゃ魔法が使えるチートなキャラです(そもそも他の人はそんなに魔法とか使えない)。

続く第四章「アーサー」で遂にアーサー王も登場です。かの有名な石に刺さった聖剣エクスカリバーを引き抜く描写、映画などのイメージから、てっきり「群衆が固唾を飲んで見守る中、前に進み出るアーサー……その柄に手をかけると……遂に誰にも抜けなかった伝説の剣がその手に!」というイメージでいたんですよ。皆さんもそんな感じないです……? 違うんですよ。
実際は「兄貴分のケイの試合についていったら試合中にケイの剣が折れて、やっべ!ってなって代わりに家に取りに戻ったんだけどお母さんがいなくて、どうしようってときに教会の横の石に剣が刺さってたからこれでいいやって抜いた」という描写でした。じ、地味! こんなに地味な場面だったんですね。原典おもしろいです。


3月17日(日) :第五章 アーサー(続)

この日は会社のオタク女子たちとともに、「MBSアニメヒストリア平成」に参加するため、幕張メッセへ。平成の有名作品を、アーティストライブ&声優さんの生アテレコで振り返るという豪華イベントで、主に大学時代の思い出がぶり返してところどころ泣きました。最後は石田彰さんが「アニメはいいねぇ。リリンの生み出した文化の極みだよ」と〆て終わった。もう何が何だか。

『進撃の巨人』の名場面アテレコもあったのですが、アーサー王物語にもちょいちょい登場します……巨人が。敵の軍隊と対峙したら将が巨人でピンチ! とか、聖なる山の上の洞窟に巨人が住んでて人を食らっているから退治しにいくとか、戦争に行ったら上陸した瞬間に巨人が現れてギャー!とか、とにかくすごく強くて生命の危機を感じさせる恐怖の対象といえば巨人
日本の神話だとこれが「鬼」とか「妖怪」になると思うのですが、ヨーロッパにおけるこの「悪い巨人」のイメージソースって何なのだろう、とちょっと気になりました。先住民族や外国人なのかな。


3月21日(木): 第八章 湖の騎士ラーンスロット

ここまで主に冒険譚を中心に語られてきた騎士物語ですが、とあるキャラの登場により、恋愛模様も活発に展開していきます。そう……湖の騎士ラーンスロットですね!!! 妖精に育てられたという出自からしていかにもな優男ラーンスロット、強い上にめちゃくちゃ女性にもてます。
どのくらいもてるかというと、いきなり4人の王妃に軟禁されてこの中の誰かと付き合えもしくは死ねと言われたり、ちょっと立ち寄った先でラーンスロットを好きになった姫をふっただけで自殺されたり、笑えないエピソード多数です。

こういう困った人こそ、家柄の丁度いいご婦人だとか、気心の知れた幼馴染みだとかとさっさと結婚してほしいものですが、彼が好きなのはよりによって主君・アーサー王の妃ギニヴィア、ただ一人なんですよね~。
あ~~~~~~出た~~~!
『赤と黒』も不倫の話でしたが、何で人類はこう不倫が好きなんだろう。五世紀の時点で不倫が好き。もう一つの有名な不倫悲恋、トリストラムとイゾーテのエピソードを交えつつ、物語はいよいよ佳境へ。


3月23日(土) :第十九章 サングリアル(聖盃)

今日はAnimeJapan 2019(特別協賛:Fate/Grand Order)に参加するため、朝から東京ビッグサイトに来ています。monokaki 読者でもあるエブリスタ作家さんとお話しもでき、有意義な休日出勤でした。

移動時間はもちろん「アーサー王とその騎士たち」の続きを読みます。ついに聖盃が出てきました。が、原典の聖盃の登場の仕方がすごいです。原文引用します。

円卓の騎士がすべてカメロットに集合して、食卓についていると、急に雷鳴が轟き、稲妻が走り、その瞬間、互いの顔を顔を見合わせた騎士たちの目には、いずれの仲間も平常よりずっと美しくなっているように思えた。広間は心持よい香気に満たされて、すべての騎士の前には、彼らの一番好きな肉や飲物があった。その時広間へ、誰にも見えないように白い錦繍につつまれた聖グレールの盃が入って来て、突然広間を横切って消えた。

??????????
な、何かよくわからないけどとにかく夢のようなものであることはわかった!

斯くして、聖盃をもとめて騎士たちは各地に散らばり、それぞれの戦いの中で亡くなり、そうこうしている内にラーンスロットと王妃の恋がばれ、アーサー王は怒り狂い、円卓の騎士たちはラーンスロット派とアーサー派に分かれて対立し、モウドレッドによるクーデターが起きて、アーサー王の死をもって、物語は幕を閉じます。

このようにして、『アーサーの死』La Morte d’ Arthurという題をもつ上品なおもしろい本は終っている。アーサー王の誕生、生活、武勲について物語り、つづいて、円卓の騎士たちと彼らの驚歎すべき冒険、サングリアルの捜索などを述べた最後の部分に、悲しいアーサーの死を書いているにもかかわらず、その書全体に『アーサーの死』という題がつけられてあるのである。その書をトマス・マロリは英語に書き換え、二十一巻に分け、一四八五年六月三十日にウェストミンスター僧院で、それを完成した。

全編で200ページほどのボリュームですが、キャラが濃くてどんどん読めるので、古典の入口としてもかなりおすすめです。FGO好きの人、七つの大罪好きの人、それ以外の方も、一度読んでおくことをオススメします。

来月は、編集部員の碇本さんが「転生したらアーサー王の時代だった」ことマーク・トゥエインの『アーサー王 宮廷のヤンキー』を読みます。こちらもお楽しみに!


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『中世騎士物語』
著者:ブルフィンチ 訳:野上弥生子 岩波書店(岩波文庫)
アーサー王、トリスタンとイゾルデ、パーシヴァル等々、オペラの主人公にもなって有名な王や騎士、貴婦人たち。彼らは騎士道の典型――力、勇気、謙譲、忠誠、憐憫、貞淑等の諸徳を具備した人間として登場する。
『ギリシア・ローマ神話』で神々の世界をいきいきと伝えた作者は、本書で中世の人々をも鮮やかに現出させている。


*本記事は、2019年03月28日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。

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