あなたの「想造」を整えてくれる本|松岡圭祐著『小説家になって億を稼ごう』|monokaki編集部
こんにちは、「monokaki」編集部の碇本です。
「小説の書き方本を読む」の第五回です。前回の週刊少年ジャンプ編集部『描きたい!! を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』の記事は、普段「monokaki」を知らない方にもたくさん読んでもらえてうれしかったです。
この連載は取り上げた書籍の一部を紹介する形になっています。そこでなにか引っかかる部分や、自分に響いたという箇所があれば、ぜひ記事を読むだけではなく、書籍を手に取ってもらえればと考えています。
第五回は松岡圭祐『小説家になって億を稼ごう』についてです。タイトルが非常に気になりますよね。本当に小説家になって「億クラス」稼げるのでしょうか? そしてそれほどのヒット作品を出すためにはどんなことを意識しているのか、これから作家を目指す人も興味があると思い、今回取り上げることにしました。冒頭の「はじめに――小説家が儲からないというのは嘘」にこんなことが書かれています。
一般文芸、ライトノベル、純文学たる私小説、どのようなジャンルで専業作家をめざすのも貴方の自由です。本書はいかなる小説であっても、その原稿を傑作にし、出版社にコネがなくともデビューができ、大きな収益につなげる――億を稼いだ作家たちが実践してきた、一般的に知られていない手段を解説するものです。知られざる業界の真実についても明らかにしていきます。
こちらの文章の上には松岡さんがはじめて年収一億年を越えた確定申告書の一部も掲載されています。
本書は「Ⅰ部 小説家になろう」が第七章まで、「Ⅱ部 億を稼ごう」が第五章まで、という構成になっています。私が読んで気になった部分をピックアップしていきます。皆さんの小説家として食べていくという夢が広がればと思います。
「創造」でもなく「想像」でもなく、「想造」する
視覚的イメージがあふれる現代において、読書時の連想の手がかりは、誰もが目にするテレビ番組、配信動画、イラストや漫画に存在します。平安京当時の宮廷を実際に見たことのある人はいませんが、現代小説は読者が視覚メディアを通じ、すでに獲得したイメージを利用しつつ、読者の脳内に物語を醸成していきます。日常的な恋愛模様を描くにせよ、読者が勤めたことのない職場を舞台にするにせよ、映像のフィクションあるいはノンフィクションにより、読者はすでに視聴覚における無数のイメージを記憶しており、文章表現による描写に対し、具体的かつ明瞭に想起できます。これは登場人物の内面の描写に重きを置いた純文学でも同様です。目に浮かんでくるような情景は、ほとんどが映像メディアの影響下にあります。
ジャーナリスティックなノンフィクション文学であっても、視覚メディアから得た情報が自然に喚起されることで、スムーズな読書が成り立っています。すべての現代小説は映像世代の脳を前提に書かれており、映画が登場する十九世紀以前の文学とは明確に異なります。もはや文学は、漫画や映像作品と対立するものではなく、それらがあってこそ成り立つ芸術です。視覚メディアを通じ、人々は物の名称を知るなど、可視化された知識を貯めこんでいます。この映像から得た知識が、読書の大きな助けとなるため、活字を楽しめる層は昔より広がっていると言えるのです。
皆さんは小説を書く際に映像をイメージして書いているでしょうか。書いている人もいれば、そうではないという人もいると思います。上記の引用部分は小説という芸術は現代においては文章だけでなく、映像という視覚メディアをある意味では利用し、それらによって文章で説明をしなくても通じるということを言っています。だとすれば、20世紀は映像の世紀と言われ、これほどまでに映画やドラマや動画配信や漫画などを好む人が多いのであれば、その多くの人も小説の読者となるのでしょうかという問いを松岡さんは続いて書いています。
そこでは、映像化するのは多くの人々にとって苦手な味の食材を加工して万人受けする食品に作り替える作業であるとも言っています。
少し飛びますが、その後に松岡さんは専業作家をめざすとしてもいきなり仕事は辞めないでくださいと書かれています。これは「新人賞の懐」などで編集者さんにインタビューする時にも、別の用件で出版社の人に会う時にも、新人の作家さんに皆さん言われることでもあります。
松岡さんが言うには、作家一本に絞るのは、印税のみで年収が五百万円を越えてから、だそうです。最初の一章から数字に関してどんどん提示していくのでやはり「億」稼ぐというリアルな感じが伝わってきますね。
貴方の好きな俳優を七人選び、顔写真をネットからダウンロードしましょう。男女比は四対三としますが、男女のどちらをひとり多くするかは貴方の自由です。主人公の性別も同様です。これら俳優たちは、貴方の脳内で登場人物を演じるメインキャストになります。
七人の顔写真それぞれに、貴方が考えた名前をつけましょう。電話帳など名簿から苗字と名を拾い、自由に組み合わせます。ただし登場人物同士の漢字は重ならないようにしてください。小説は氏名で登場人物を区別しますから、一見して分かるようにしておくべきです。
全員を名付け終えたら、Wordの文書に画像を貼りつけ、その下に登場人物名を大書します。さらに身長や体重、年齢、出身地、職業など、プロフィールを設定していきます。
この段階ではまだ、それぞれの登場人物がどう絡むか、相関関係などは考えず、また何が起きるかも予想せず、ただ貴方好みの登場人物ばかりを作りだしてください。
実在の俳優さんを七人選び、彼らをメインキャストとして人物を設定していく。キャラクターの創作方法としてこのやり方は有効です。私も以前に同じやり方をしたことがありますが、細かく決めておくとその後に書き進めていく際に映像が浮かびやすく、描写がしやすくなります。
このあとにはさらに五人サブキャラを作ることや舞台の設定の話になっていきます。その際にも風景写真などを三か所同じようにダウンロードし、登場人物十二名の下に貼り付けてくださいと書かれています。
よくミステリーなどの映像作品で犯人や被害者や事件がどこで起きたか、新聞などの記事などが壁に貼られて相関図のようなものを作っていることがありますよね、それに近いものと考えるとイメージしやすいと思います。
松岡さんは脳内で物語を作りだす方法を、『想造(そうぞう)』と呼び、小説づくりの肝は、執筆ではなく『想造』にあり、作業の出発点にして最も重要な段階で、十分に時間もかける必要があると言っています。そのために必要なものが上記の「七人と五人」であり、「舞台設定による登場人物の立体化」のようです。そして、ほかにも工程はありますが、物語を結末まで『想造』してもあらすじは書きとめてはいけないというのです。
壁の登場人物を眺めながら、最初から最後まで順を追って物語を空想し直し、想像の中に浸り切って楽しむことが重要になるようです。おもしろいアイディアをその最中に思いついたり、無駄な部分は忘れ、自然に切り捨てられていく、という作業がより大事なことであり、その人だけしか『想造』できないものとなっていきます。
普段から想像してやっているという人も登場人物や舞台を見ながらより深く『想造』することができれば、よりコアな自分だけの物語が頭の中で構築されていくはずです。
執筆して袋小路に陥ったら、その段落は消して分岐点に戻る
上の段に引き続き「第三章」ではまだ執筆の話はしていません。ここも長くなるので端折りますが、ポイントしては「あらすじは誰にも見せるな」ということ、「四十字×三行で物語を表現する」ということが書かれています。
後者の方は「monokaki」記事でも「おもしろいって何ですか?」の「「オリジナリティ」って何ですか?」でも「辞書を引けば載っているような、誰もが知る言葉だけで、且つ140文字で、表現してみてください」とあるのでキャッチコピーをつける気持ちで参考にしてみてください。
ようやく執筆に関してになりますが、「第四章」の章タイトルは「おもてなしの精神に満ちた執筆方法」とあります。ここは読み手(編集者)に対して、どう読んでもらえるかについて書かれているようです。
ここでは段落ごとに「どの出版社の編集者もWordを用いる」「小説の書き方の基本原則」「執筆がうまくいかない時の対処法」「自分ひとりに終わらない「推敲」」「「よい書き手はよい読み手」の嘘」と実践的なアドバイスがたくさん出てきます。その中から気になったものをいくつか取り上げてみます。
原稿を書くにあたり、小説の例文となる本を数冊用意しましょう。これは貴方が尊敬する作家の、特に文章表現に長けていると感心した本に限ります。世間の基準ではなく、貴方自身が決めてください。貴方が書きたい作品が時代小説なら、手本も時代小説にします。ライトノベルなら、手本もライトノベルにしましょう。
手元の小説は文章表現の参考にするだけに留めます。どうしても似てきてしまうことはありますが、最初から意識的にセンテンスを引用するのはやめましょう。
これは「生き延びるためのめろんそーだん」の海猫沢めろんさんと古矢永塔子さんの「Q.熱量を保って作品を完結させるにはどうすればいいですか?」でも「お守り」という形で出てきましたね。
海猫沢:モチベーションを高めるためにはあらゆることをやってます。一番高めるのは音楽です、やっぱり。なにを書くかというTODO表を書いたところで、それを書くための気持ちをマインドセットするのが音楽ですね。この音楽を聞いたらこれを書こうという気持ちになるみたいなテーマソングを作る。あと、読んだら泣いちゃう、観たら思春期の気分になるものを流し続けたり、好きな本をかたわらに置いてよく読み返したり……高めようとして逃避レベルに入ってしまうんですが……。
(中略)
ともかく執筆にはお守りのようなものが必要な気がします。創作術のような本も結局はお守りみたいなものだと思います。お守りが古矢永さんには読者が読んでくれるっていうことなんでしょうね、きっと。なにかは必要なんですよ。自分に合ったもの。
松岡さんも書かれているように意識的にセンテンスを引用などはせずに、気持ち的なお守りとして目に入るところに置いておきましょう。
初心者は書き出しに苦労すると言いますが、貴方が『想造』により、しっかり物語の冒頭から結末まで思い描けているのなら、ほとんど苦労はないでしょう。取材を終えてきたノンフィクション作家と同様、何を書くべきかはすでに明白になっているからです。これが『想造』先行型の執筆と、従来の「先を考えながらの執筆」との大きな差です。文章の勢いが違ってくるうえ、無駄な描写も省かれ、読者にとって読みやすい小説となります。
どこまで作品について『想造』できているかが大事になってくるということですが、普段から小説を書きたいと思っている皆さんは「想像」や「妄想」をしまくっていると思います。
「日本ファンタジーノベル大賞 2021」のインタビューでも編集者の高橋さんがこんなことを言われていました。
高橋:恋愛だってそうじゃないですか。想っても想っても相手が何を考えてるのかはわからない。結局ほとんどの人たちは付き合っても別れるわけですよね。私妄想はしませんからと思っていても思いの外、生きていると妄想しているはずです。
作家になりたいという方は自分の考えてることすべてが全部小説になると思ってもいいのではないでしょうか。
もっと「想像」や「妄想」や「空想」をして、『想造』もですが、より物語の細部までイメージできるようにしてみましょう。
『想造』段階を経てあらすじを書き、小説本編の執筆に臨んでいれば、執筆中に行き詰まることはまずないと思います。けれども文章表現に悩んでふと手がとまり、煮詰まったと感じることはあるでしょう。書き進められなくなった時には、思い切ってそこまでの数行、あるいは段落ごと消しましょう。なぜなら貴方は袋小路に迷いこんでしまったのと同じ状況だからです。いくら壁を叩いても進路が開けないということは、そこは行き止まりです。その前の分岐まで戻ることです。
自分がせっかく積み上げてきた文章を消すのは正直イヤだったり、もったいないと思うかもしれませんが、そこで悩んでいるよりはまずは消してしまって一から書く方がきっと新しい方向性や可能性が見つかるはずです。ずっと同じところをぐるぐるまわっていても物語は進まずに終わらないものです。書いたものを消すのもひとつの勇気であり判断ですね。
もちろんなるべく読書はしたほうがいいのですが、小説家になるための勉強としては、なんでも手当たりしだいに読むのではなく、貴方が文章表現の手本に選んだ二、三冊を、繰り返し何度も読むのが適しています。何十回、何百回、それこそ先に何が書いてあるのかを、暗記してしまうぐらい読みましょう。
他の作家とは比較せず、ライバルは常に自分だと思ってください。小説は一定のボーダーライン以上なら合格というものではありません。「あんな作品が出版されているのに、なぜ私のが出版されないんだ」と嘆いても無意味です。求められているのは、これまでにない、斬新で面白い小説です。それが人気を獲得し、よく売れて、初めて世間も認めてくれます。
今まで「monokaki」ではどんどん小説を読んでいきましょう、と言ってきました。百冊を一回ずつ読むのと一冊を百回読むのでは、たしかに百回読む方がその一冊を暗記できるかもしれません。問題はその一冊に出会うためにはいろんな作家の本を読むことは必要になるはずです。
また、小説は読めば読むほど、前は読めなかった難しいものも読めるようになっていくので、その経験や年月で自分の好きな小説や手本になるようなものも変わってくることもあります。
数年おきに自分が手本にしたい作品を選ぶということも必要になってくるかもしれません。
契約書はしっかり読もう
第五章では「小説をどうやって世に出すのか」「文学新人賞応募とK-POPの共通点」「コネがなくても編集者には読んでもらえる」「メールまたは電話で分かる編集者の心理」「原稿送付「二日後」の重要性」「小説の感想はふたつしかない」「ベストセラー作家への道に自費出版は不要」と気になるものばかりです。
小説の著者が期待するのは、編集者からの興奮ぎみの電話か、喜びを隠しきれないメールです。そのような返事が来るとすれば、必ず原稿が届いてから「二日以内(より厳密には二営業日以内)」です。この法則をおぼえておいてください。
一日ではさすがに何の反応もありません。社員が休みや出張の場合もあります。しかし二日目には状況が異なってきます。まだ最後まで読んでいなくとも、編集者がこの原稿を是が非でも押さえておきたいと思った時、二日目には必ず著者に連絡します。もちろんまだ編集会議には通していないのですが、通す自信があるのです。貴方がプロであろうと、今回初めて編集者に原稿を送った新人であろうと、この「二日」の法則は変わりません。編集者が他の仕事を差し置き、優先的に読むほどの原稿だったのです。
こちらはデビューしていたり、既に出版している人も当てはまりますが、確かにほんとうにおもしろい作品であったら、少しだけ読んでしまったことで最後まで読み切ってしまうかもしれません。あるいは、気になってしまうこともあるかと思います。ダメなら次の版元へぐらいの軽やかさがあるほうが自分へのダメージも少なさそうですね。自分に合う編集者がどこにいるのかはわからないので、運とタイミングも重要な要素となってきそうです。
批判的なコメントを怖がらないでください。誰でも定食が美味しくなかったら「あの店は美味しくない」と知人に言いたくなるでしょう。「行きやすい立地にあるのだから、店主が味を改善してさえくれれば」という願いもこめられていたりします。いまやどんなジャンルであれ、小さな店を出せば、グーグルのクチコミに五つ星の採点が載る時代です。みな軽い気持ちで採点してきます。それを攻撃と受け取らないでください。
SNSやネットでは自分の名前を明かさずにフラットに評価をつけることができます。自分の本名でやるのとハンドルネームなどの匿名で評価するのではまったく意味合いが違うものです。
自分の名前を出して批判すれば、批判した自分も批判される可能性が高いわけですからその覚悟も違っているように感じます。
「monokaki」でも「エブリスタ便り」でこんなことを言っています。
1批判されたら100にも拡大して受け止めてしまい、5もらっていた褒め言葉がかき消えてしまう、そんな経験はありませんか。
褒める言葉は二倍ぐらいに拡大して受け取ってちょうどいい、厳しい言葉は少し軽めに受け止めてちょうどいい、攻撃や誹謗中傷は絶対に受け止めなくていい。
また、表現する自由があれば批判する自由もあります。王谷晶さんの連載「おもしろいって何ですか?」の「「自由」って何ですか?」ではこんなことも言われていました。
なんだよ小説は自由じゃねえのかよ、と怒るむきもあると思うが、自由というのは誰からも批判や非難されないことではない。自由に物語を生み出せば、自由に批判を受けることがある。作品を褒めるのも批判するのもまた、読み手の持つ自由だからだ。小説は自由で、どんなにインモラルでヤバい話も書ける。その代り、発表したら反応が来る。それが甘いものか辛いものかは、作者にはコントロールできないのだ。そして自分の小説が引き起こした結果には、自分で責任を取る必要がある。
これは自作の小説だけでなく、自分が好きな作品にも当てはまる。大好きな作品が批判に晒されていたらそれは当然嫌な気持ちになるが、それは決して「表現の自由を制限する」行為ではない。小説という自由と批判という自由ががっぷり組み合っている状態なのだ。私はそれを、美しいと感じる。その恐ろしくも美しいバトルフィールドに立つのが、表現で銭を稼ぐということなのだ。
読み手からのコメントを怖がらない。すべてを受け取る必要もありません。自分が参考になるものを参考にして、参考にしたくないものは気にしない。そんなやり方の方が心にも負担がなく、創作を続けていけれると思います。もちろん、この「monokaki」の記事もそうです。
「第六章 失敗しないゲラ校閲作業のコツ」は出版が決まってからのことなのでここでは省略します。出版が決まっていたり、近づくようなことがあれば読んでみてください。
さらに「第七章 プロが儲からない理由は出版契約書」となっており、こちらも完全にデビューして出版した際には必読なものですね。
貴方が新人賞を受賞しデビューする場合は、授賞式で歓待され、気分よく持ち上げられるでしょう。けれどもビジネスには冷静であるべきです。早めに「出版契約書の雛形をもらえませんか」と要求してください。その新人賞が第一回でなければ、過去の受賞作の出版契約書があるはずです。契約書の文面をよく読み、今回の契約も同じ内容かどうか尋ねておきます。
これは本当に大事なことだと思います。日本はアメリカなどに比べるとやはり契約書などに関してはしっかりしておらず、口約束であったりのちに問題になるような慣習が残っていたりします。契約が大事ということは「およげたいやきくん 印税」で検索してみるとよくわかると思います。
SNSをやるかは作家次第
ここからやっと「Ⅱ部 億を稼ごう」に入ります。「第一章 デビューの直後にすべきこと」では「専業作家になるための各種手続き」として「印鑑」「開業届」「銀行口座開設」「名刺作成」「事務所」「執筆環境」「確定申告」「作家協会への入会」「タイトルの商標登録」など個人事業主として必要なものが書かれています。
その後には「二作目にはいつ着手すべきか」という事も書かれています。デビュー前に何作か書いておくとストックにもなります。それがプロとして通用しないかもしれませんが、ブラッシュアップすることで編集者も編集会議に書けてくれたり、これで行こうとOKをくれるかもしれません。同様に一作目の発売の前から『想造』をしておくと時間的余裕が持てて、二作目に入りやすいとも松岡さんは書かれています。
仕事の依頼も作家のSNSがなければ、デビュー作の出版社に問い合わせがなされるだけです。業界の慣わしとして、他社の文芸編集者が小説家を紹介してくれるよう頼んできた時、担当編集者は断らないことになっています。よってSNSがないせいで、小説家が大きな仕事を取り逃すことはまずありえません。
すでにSNSを運用中なら、むしろ炎上などマイナス面にこそ注意する必要があります。飲酒した時や寝不足の時はSNSを控えましょう。思わぬ失言が小説以上に広まってしまったら元も子もありません。評論や批判精神があるのなら小説の中にこそ反映させるべきです。
「「SNS」って何ですか?」の記事もぜひ読んでみてください。
燃やさないように、でも埋没し過ぎないように、読者への宣伝と仕事相手へのアピールに使えるアカウントを育てるのも、web時代の作家の必須スキルと言えよう。
もしSNSをやりたくないのであれば、やらない方向で行きましょう。「ジャンプ編集部」もこんなことを言っていました。
編集者に会うのは負荷が大きいからSNSにアップする方がいいという人もいる。その気持ちもわかる。ただ注意すべきはリツイートやいいねの全ては『繰り返し味わいたい』=『コミックスを買いたい』の表明ではないこと。それと、漫画家もSNSで告知したり作品を発表する時代になったという声は大きいけど、人気の作家さんでもやってない人はたくさんいるから、合わなければもちろんやらなくていい。
周りや世間で流行っているからといって、新しいものをやらないといけないわけではありません。編集者がもしやったほうがいいですよと言ってもやりたくなければやらないほうがいいです。決めるのは自分です。
「第二章 編集者との付き合い方」はその名の通り、作家と編集者との関係性についてです。一緒に作品を作っていく頼りになる編集者ももちろん仕事相手なので、敬意をもって社会人として接していきましょう。当然と言えば当然なのですが、社会人経験がなかったりすると、最初は思わぬ勘違いや失敗をしてしまうかもしれませんね。
編集者は会社員なので月給を得ており、安定した暮らしを送っています。なのに新人作家のほうは一作を書き上げてようやく、雀の涙ほどの初版印税をもらえるのみです。実情を知っているくせに、編集者は肝心の出版をずるずると引き延ばし、いっこうに発売日を決めてくれません。作家の懐事情から目を逸らす編集者が腹立たしく思えてきます。
けれども編集者が収入に恵まれているのは、そのために苦労して大手出版社への入社を果たしたからです。小説家に例えれば、ベストセラーを出し一定の地位を築いた状況に相当します。その意味では新人作家より先に、ひとつの大きな戦いを勝ち上がっているわけです。デビューしたての新人作家は、まだ編集者と対等な立場ではありません。
新人作家にとって担当編集者は、唯一頼りにできる業界人です。しかし編集者も人間です。自分と同じような作家を数十人も抱えているのだと思い直し、過度な期待感を持たないようにしましょう。
大手出版社の編集者さんとお会いするとほんとうに腰の低い方ばかりです。確かに勘違いしてしまう人もいるかもしれません。ヒット作を出したり、作品が話題になったりすると尊大な振る舞いをしてしまう人もいると思いますが、編集者さんたちはそういう人たちを山ほど目にしています。そういう時にもこそ客観的な目で自分の状況を見れるようにするか、そんな自分に対して辛辣な意見をくれる自分に近い人がいるかいないかはその先の作家人生にも大きく影響しそうです。
編集者との人間関係が悪くなった時や、状況を改善しようと思ったらまず小説家にできることは素晴らしい小説を書くことしかありません。売れる小説を書けば人間関係も好転する可能性も高くなりますし、その場所がダメでも次のチャンスが訪れます。人間関係に悩む前にまずは小説を書き続けること、そして編集者が手放したくない作家になるのが実はいちばんストレスがない作家の生きる道なのかもしれませんね。
このあとには「「編集者の態度別」小説家ランク測定法」というものもあり、松岡さんの体験もあるのだと思いますが、やけに細かくリアルです。あとは「異性の編集者に恋心を抱いたら」という「小説の書き方本」で見たことのないものも書かれています。
あなたの小説があなたの人生を変えてくれる希望かもしれない
「第三章 デビュー作がヒットした時、しなかった時」ではデビュー作の評価がはっきりするまでの期間やヒットし始めても著者には実感がなかなかできないという話が書かれています。
書籍に関してはヒットが可視化されるのが遅いというのが理由のようです。ただ、ゆっくりであってもベストセラーになる作品の手ごたえは初期の読者の反応の良さや編集者の反応でわかることがあるようです。広く話題になる前にそれらの要素で自信を持っている状態になり、月日が経つと周りからブレイクしたように見えると書かれています。しかし、失敗は誰の眼にも明らかになってしまいます。取次の返本率などのリアルな数字が出てしまうからです。
売れなくてもプロになったのだからその経験を活かして『想造』の段階からやり直すことを松岡さんは提案しています。また、その際にはアルコールの力を借りないようにという具体的なアドバイスもあります。そして、デビュー作が売れなかった場合の二作目の書き方も書かれています。
登場人物たちの葛藤が思い浮かんだ時、物の見方を変えてみてください。恋愛、友情、敵対など、どんな関係があるにせよ、貴方自身はそれをどうとらえていますか。楽観的に受けとっているのなら、悲観的な物の見方を試してみましょう。今までとは異なる感情のフィルターを通して、登場人物たちの関係を眺めるのです。人格に別の側面が浮き彫りになってきて、特定の登場人物がより魅力的に感じられてくることがあります。その場合はそちらのアプローチのほうが、効果的な物語になります。
デビューしていなくてもWebで小説を投稿する際にも発表した作品があまり評価されなかったり、反応がよくなかったりした場合は上記のように反対側のアプローチを取ったものを書いてみるのはいいかもしれません。
このあとには「・「起伏がありすぎる」「起伏がなさすぎる」場合」「・「展開が速すぎる」「展開が遅すぎる」場合」「・「終盤の山場が唐突すぎる」「終盤の山場がなかなか盛りあがらない」場合」などについて書かれており、そういう指摘をされたことがある人は読んでみると解決策が見つかるかもしれませんよ。
ここからリアルなお金の話として「売れたら法人化するべきなのか」という印税や確定申告、税理士への相談などが書かれていて、すでにデビューしている人も参考になるのではないでしょうか。そして、「小説家が身を滅ぼすあれこれ」という怖ろしいものもあります。そこには「前借り」する作家は徐々に干されていく。編集者へのアルコールハラスメントやお酒を飲んだ後に仕事ができなくなる問題などが書かれています。この章の最後には売れっ子になっても時々初心に戻りましょうというシンプルなことで締められています。
「第四章 映画化やドラマ化への反応」「第五章 ベストセラー作家になってからきをつけること」はデビューしてからぜひ読んでみてください。
ちなみにこの文章を書いている時に『小説家になって億を稼ごう』に近いものを早川書房のnoteで見つけました。それが冲方丁著『生き残る作家、生き残れない作家』です。noteで紹介されているその書籍の帯には「作家生活25年、文筆収入12億円を可能にした16の原則」とあります。いやあ、ほんとうに小説家で稼いだことのある人のリアルな金額は夢があります。
執筆するのがただ楽しいという人も、執筆で一攫千金を狙いたいという人も様々な目標や目的がある人がいると思いますが、小説はやはり誰かに読んでもらうことで作品になるはずです。あなたの作品が少しでも多くの人に読まれるきっかけはいろんなところにあります。そして、読まれていけば専業作家になるほどの収入を得るかもしれません。
あなたの考えた小説があなたの人生を変えてくれる可能性を秘めています。現在の世界はあまりにも過酷で未来もほとんど明るい話題もありませんが、創作はその先を照らす希望になるかもしれません。皆さん小説を書いて読んでいきましょう。
『小説家になって億を稼ごう』
著:松岡圭祐 新潮新書(新潮社)
いま稼げる仕事はユーチューバー? 投資家? いや「小説家」をお忘れでは? ミリオンセラー・シリーズを多数持つ「年収億超え」作家が、デビュー作の売り込み方法から高額印税収入を得る秘訣まで奥の手を本気で公開。私小説でもライトノベルでも、全ジャンルに適用可能な、「富豪専業作家になれる方程式」とは? ここまで書いていいのか心配になるほどノウハウ満載、前代未聞、業界震撼、同業者驚愕の指南書!
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