見出し画像

2016-2018年のウェブ小説書籍化① なろうダイジェスト版禁止、成人向けに広がっていったweb小説|飯田一史

 2016年から2018年までも、まとめたほうが流れが理解しやすい。
 前回(「2014年&2015年のウェブ小説書籍化」前編後編)で見たように、2015年までに小説家になろう(以下「なろう」)系とライト文芸が出版市場において確立された。
 2016年から2018年にかけては、年齢層的にもジャンル的にも、さらにウェブ小説書籍化の動きが広まっていく。成年向け、児童書、Twitter/Instagram発ポエム・エッセイ、SF、純文学などだ。この章では広い意味での一般文芸「以外」を扱い、次の章で広い意味での一般文芸であるSFと純文学における展開を見ていくことにしたい。

なろうダイジェスト版禁止――ヒナプロジェクトとアルファポリスが袂を分かつ

 2016年には「E★エブリスタ」が6月に設立6周年合わせでPC版ウェブサイトをリニューアルし、名前を「エブリスタ」に改めた。
 タイミングをほぼ同じくする6月1日、ヒナプロジェクトが「小説家になろう」の規約改定を発表して「ダイジェスト版の掲載」を禁止し、9月から規約違反作品は削除されることになった。
 ダイジェスト版とは、なろうへの投稿作品が書籍化されたあとに一部の出版社の意向によって作家がウェブ版(なろう版)の本編を削除し、代わりに要約したあらすじを掲載したものである。

現在、書籍化等により本文の全掲載が難しい場合には、
下記のようなご対応をお願いしております。

1.掲載分のストーリーを一度まとめ切り、完結済み作品として投稿する
2.掲載分でストーリーが完結している小話や外伝のみを残し、本文は全て削除を行なう
3.出版に伴い削除した部分をダイジェスト版と差し替える

上記のうち、「3」のダイジェスト版と差し替えるというご対応に関しまして、
誠に勝手ながら9月1日(木)より、全面的に禁止とさせて頂きます。
かねてより、ダイジェスト版への差し替えが行なわれない作品がある、
またダイジェストとして認められる基準を明確化することが難しい、
などといった問題があり、今回の対応実施に至った次第です。
「小説家になろうグループ公式ブログ」2016年6月1日「【重要】ダイジェストのお取扱い、その他規約に関するお知らせ【追記あり】」

 ダイジェスト版は、なろう読者からすると本編がまともに読めずに「続きは本で」と言われているようなもので、フラストレーションが溜まる存在だった
 また、一部のなろうの書き手からしても「なぜ本編を削除してダイジェスト版しか掲載していない作品が、本編をすべて載せている作品とランキング上やポイントで同じ扱いを受けるのか」と不満を募らせる材料となっていた(ダイジェスト版は新規に設けられるのではなく、人気が出た作品のページの中身を「小説本編」から「あらすじ」に入れ替えて作られることがあり、その場合、本編連載中に獲得したポイントがダイジェスト版になっても引き継がれるがゆえに、こうした批判が起こった)。
 なろうを運営するヒナプロジェクトによる「ダイジェスト版禁止」は、こうしたユーザーの意向を踏まえたものだと考えられている

 私は2013年春に出版業界紙「新文化」の取材において、ヒナプロジェクトの創業者・梅崎祐輔から「『小説家になろう』からの小説の書籍化は、メディアミックスの一環だと考えている」という言葉を聞いている。
 これはつまり、「ウェブ版は未完成のベータ版にすぎず、加筆修正された書籍版こそが決定版であり完全版だ」というウェブ小説書籍化を手がける一部の編集者のような考え方を、梅崎は採用していない、ということだ。

「書籍化はメディアミックスである」とは、言いかえれば「ウェブ小説はそれ自体で完成された形態である(べき)“原作”」であり、「書籍版はオリジンであるウェブ版の派生形態のひとつにすぎない」という思想だと言える。つまりダイジェスト版禁止は、ユーザーの意見に合わせて取った対応ということに留まらず、なろうの運営側の「ウェブ小説とはいかなるもの(であるべき)か」という考えが反映されていると見るべきだろう。「小説家になろう」運営にとって、ウェブ小説はウェブでまず完結しているべき「ウェブファースト」の存在なのだ。しがって派生形態のひとつにすぎない本のためにウェブ版をないがしろにするのは、おそらく、たとえて言うなら「アニメ化されたので原作小説を削除する」のと同じくらいおかしな事態なのだろう。

 そしてこの施策は、ほとんどアルファポリスを狙い撃ちしたものだった。
 なろうから書籍化が決まると、作家に対してダイジェスト版への差し替えを依頼していた筆頭がアルファポリスである。これを受けてアルファポリスのサイト上にアップされたpdf「(小説家になろうで連載中の)作家の皆さまへ」にはこう書かれていた(現在はウェブ上から削除されている)。

こうした対処にネットユーザの皆さんより批判の声が強いことは承知しておりましたが、お金を払って買っていただく著作物を無料で誰もがいつでも読めるのは、ストレートな言葉で言えば「まずいだろう」と考えてまいりました。
購入者の皆さん、ものを書いて収入を得る作家さん(この二者に関してはあくまで当社の考えであります)、そして当社が出版にあたって労を営む編集・営業、および電子書籍を含む今後のネットビジネスの将来を考えて、書籍化された作品の「全てを」無料で読めることは、これまで同様、選択肢としてないものとして、運用してまいりました。
また現在でもこうした考えにゆらぎはございません。

 ここには「有料の書籍版」こそが“主”の売り方であり、「無料のウェブ版」は“従”にすぎないとする考えが明確に打ち出されている。

 ヒナプロジェクトの梅崎のスタンスとは対照的だ。
 出版業界で初めて異世界転生ものの書籍化をレジーナブックスから手がけるなど、なろうからの書籍化を先駆的に行ってきたアルファポリスだが、ここに来てヒナプロジェクトとの思想・思惑の不一致が決定的になった
 アルファポリスは2017年10月以降、なろうから新規に書籍化することをやめ、自社投稿サイト発からのみの書籍化にほぼ完全にシフトする。これは2000年代後半における魔法のiらんどとスターツ出版との蜜月の終わりに並ぶ、ウェブ小説書籍化の歴史に記憶されるべき出来事である。

 なお、アルファポリス同様に、書籍化にともないウェブ版を削除するほうが出版社の対応として主流になったかといえば、決してそうではない。
 ウェブ上で連載が続き、作品が残っていたほうが書籍を売るためのプロモーションとして効果的だと考えるほうがむしろ一般的だろう(たとえば、奇しくもアルファポリス発のヒット作『居酒屋ぼったくり』は、著者の秋川滝美が、デビュー作が書籍化されるにあたって「何かウェブに連載しているものがあったほうが販促になるだろう」と考えたことから生まれた作品だった)。
 無料のウェブ版があることで有料の書籍版の売れ行きが阻害されるとは多くの版元・編集者、あるいは作家は考えていなかったし、現にそうしたカニバリが立証されたとは言いがたい
 アルファポリスはウェブ小説書籍化事業に関しては先駆的な存在だったが、「同じタイトルの作品であれば、ウェブと書籍とで提供価格の差があるべきではない」と考える点においては、後続の書籍化レーベルよりも保守的な立場だったと言える。

 2017年1月にはお笑いコンビ・キングコングの西野亮廣が「お金の奴隷解放宣言。」とLINEブログ上でぶちあげ(2017年1月19日投稿「お金の奴隷解放宣言。」)、絵本『えんとつ町のプペル』をウェブ上で全ページ無料公開し、Amazon絵本ランキングで1位になってさらに部数を伸ばすという出来事があったが、これも「ウェブでの無料公開は有料の書籍の販売を阻害しない」ことの傍証のひとつだろう。
 ただし「『ウェブで無料で読める』と『本は有料』が同居してはいけない」という考えは、「ウェブ小説書籍化はメディアミックスのひとつ」同様、客観的な事実に属するものではなく「思想」である。

 ダイジェスト版禁止に限らず、書き手も読み手も完全無料であることにこだわるヒナプロジェクトのスタンスも、「思想」と捉えなければ理解は難しい。
 たとえば当初は無料からサービスを始めたイラスト投稿サイトのpixivは有料会員制を導入し、のちにはCtoCサービスのBOOTHという販売サイトを始めているし、動画投稿サービスのニコニコ動画はユーザー投稿動画以外にアニメを配信するなど商用利用を積極的に推し進めた。
 2013年開始のSHOWROOMやYouTubeLiveで2017年2月に始まった「スーパーチャット」など、ライブストリーミングサービスでは課金アイテムを通じて配信者に金銭を送る「投げ銭」も登場した

 対して、ヒナプロジェクトは外部環境が変化しようが競合サービスや隣接領域でどんな動きがあろうが、企業としては広告以外から収益を得ることに対して、また、作家と読者のあいだで金銭のやりとりを発生させることに対して断固として禁欲的だ
 利潤を最大化することを目的としている事業体なのであれば試みるであろうさまざまな施策に一貫して手を出さず、商用利用を不可とし続けているヒナプロジェクトの態度を、「そういう思想なのだ」という表現以外で理解することは難しい(この背景には、ヒナプロジェクトはおそらく外部から資本を入れておらず、2014年10月に上場したアルファポリスなどとは異なり、企業価値の最大化を経営者に求める投資家の圧力がない、といったこともあるだろう)。
 したがってこの事件はどちらが正しいかという話ではなく、ヒナプロジェクトとアルファポリスの思想が決定的にすれ違いを見せた出来事として理解されたい。


なろう攻略の教則本が刊行されるようになる

 なろうとアルファポリスの決裂など意に介するところがないかのように、同時期(2016年から18年にかけて)には引き続き、なろう系、およびエブリスタ発作品を刊行するライト文芸レーベルの創刊が相次いだ

 全年齢向けでは、なろう系では2016年には新紀元社のモーニングスターブックス、SBクリエイティブのGAノベル、マッグガーデン・ノベルズ、リンダパブリッシャーズのレッドライジングブックス(2018年に会社が破産)、2017年には一迅社ノベルス、主婦の友社のプライムノベルス、三交社のUGnovels、SBクリエイティブの子会社ツギクルのツギクルブックス(ただし会社名と同じ投稿サイトを運営し、そこからの作品も書籍化)、小学館のガガガブックス、講談社のKラノベブックス、2018年には一二三書房のブレイブ文庫、講談社のレジェンドノベルス、光文社ライトブックス、ぶんか社のBKブックス、KADOKAWAのL-エンタメ小説などが参入した(このうちL-エンタメ小説は出版のためのクラウドファンディングを行ったが、ウェブ小説書籍化の歴史を考えると、初期アルファポリスのドリームブッククラブへの回帰のような出来事だった)。
 また、主にエブリスタからのウェブ小説書籍化を含むライト文芸レーベルとしては、2016年には三交社のSKYHIGH文庫、マイナビ出版のファン文庫(ライト文芸系だが「なろう」上で「お仕事コン」を開催し受賞作品を刊行)、2018年には一迅社のメゾン文庫、などの創刊があった。

 この時期には、なろうのランキング入りのノウハウを指南する本も刊行されている。
 たとえば2016年3月になろうで連載開始、9月から星海社より書籍化された津田彷徨のなろう攻略ノウハウ小説『ネット小説家になろうクロニクル』。
 また、2016年12月にサービスを開始した、作家の至道流星が経営する会社「未来創造」によるキャラクター会話特化型の小説投稿サイト「トークメーカー」上で行われた座談会をもとにした電子書籍である新木伸、三木なずな、なろう作家K、至道流星『WEB作家でプロになる!①書籍化の方程式』(2017年3月配信開始)。
 そして2017年7月刊の新紀元社編集部『〈小説家になろう〉で書こう』(モーニングスターブックス)だ。
 津田や新木らにおいては「なろうでランカー(ランキング上位者)になって書籍化されるためには、攻略法を踏まえなければ難しい」という認識が前提となっている
 2010年代初頭に『魔法科高校の劣等生』が電撃文庫から書籍化されたのを見てなろうを知って投稿しようと考えた作家志望者たちにとっては「ラノベ新人賞は厳しいから、こっちで(趣味で)書いてみるか」という場所がなろうだったが、もはやそうした気楽さ、牧歌的な雰囲気はない2010年代半ばをすぎると、なろうで書籍化を狙うのも(場合によってはなろうのほうがラノベの新人賞よりも)ノウハウが必要な狭き門、ハードな競争環境であり、ある意味では「不自由な場所」だという印象に変わったのだ。
 同様の変化は、ウェブ小説以外のユーザー投稿型ウェブサービスでも起こっている。

 まぐまぐや食べログ、クックパッド、mixiなど多数のユーザー投稿型ウェブサービスのビジネスモデルの変遷を追った佐々木裕一『ソーシャルメディア四半世紀:情報資本主義に飲み込まれる時間とコンテンツ』 (日本経済新聞出版)は、2008年頃までは「無償でのコンテンツ投稿」が投稿者の基本動作であったが、2010年ごろにはサイトに投稿することで経済的な見返りを得ようという気運が強まり、2010年代半ば以降には経済的対価をもらうことを前提とした「労働」(と呼べる投稿)がオンライン世界の中心になった、とユーザー投稿サービスの流れを整理している

 ウェブ小説の世界はこれと完全に重なるわけではなく、2005年に第二次ケータイ小説ブームが始まり、2008年にはすでに書籍化をめざして投稿する存在が多数いた。ただし、当時の投稿者が書籍化を「経済的な見返り」と捉えていたかといえばおそらく違うだろう。もっとも求めていたのは「本を出せた」という「ステイタス」、あるいは人気を得ることで承認欲求が満たされることや、書きたいものが書けたという達成感だったはずだ。
 しかし、書籍化が当たり前のものとなった2010年代半ばには、たしかに少なくない投稿者が、書籍化を「経済的対価を得る手段」と捉えていたことは否定できない(それが「最大の動機」かどうかはさておき)。津田らによる「攻略情報」の登場は、書籍化をめざす書き手が、商売としての成功率を高める「ビジネス書」を求めるようになったという時代の変化を象徴している


成人向けに広がるweb小説

 2015年2月創刊のキルタイムコミュニケーションのビギニングノベルズ以降、なろう系のなかでも、18禁サイトであるミッドナイトノベルズ、ノクターンノベルズ、ムーンライトノベルズからの書籍化レーベルも増えてくる。

 たとえば男性向け(エロライトノベル、いわゆる「ジュブナイルポルノ」のウェブ発作品)では、2015年12月に創刊された株式会社パラダイムのキングノベルス、2017年3月に創刊された一二三書房のオルギスノベル、2017年11月に創刊された三交社のディヴァースノベル、女性向けではハーパーコリンズ・ジャパンのアンジェリカやフロンティアワークスのノクスノベルズ(ともに2016年2月創刊)やジュリアン・パブリッシングのフェアリーキス(2016年3月創刊。ただし同社が18年2月に創刊したフェアリーキスピュアは18禁サイト発ではない恋愛ものを刊行し、以降、18禁サイト発の作品はフェアリーキスピンクとされる)などだ。

 新創刊レーベル以外にもフランス書院の美少女文庫などの従来からあるレーベルでもノクターンノベルス発の作品が書籍化されるようになったとされるが、ヒナプロジェクトのサイト上の「書報-出版作品紹介」ではなろう系の18禁3サイト発の書籍化作品については2018年1月以降の情報しか掲載されていない。
 また、ムーンライトノベルズやノクターンノベルズの検索で「書籍化」とキーワードを入れて更新日時がもっとも古い作品を調べると、それぞれ2013年更新の不住水まうす『執事と二人目の主人』と2015年更新の七色春日『極地恋愛』が最古のものとしてヒットするが、タグを入れていない作品もあろうし、これらをそれぞれのジャンルでの「最古の書籍化」とみなすことはできない(いつから始まり、どのように広がっていったのかをそれ以上辿ることが筆者にはできない)。

 エブリスタ発のTL(ティーンズラブ)書籍化を含むレーベルとしてはハーパーコリンズ・ジャパンのマーマレード文庫(2018年3月創刊)、メディアソフトのガブリエラノベルス(2018年12月創刊)などがある。
 2014年4月創刊されたプランタン出版のオパール文庫は、なろうとエブリスタ両方から書籍化し、双方でコンテストを実施。プランタン出版は、乙女系のアダルト作品を刊行するティアラ文庫でも2013年から数点「小説家になろう」発作品を書籍化しているほか、2015年からは自社ウェブサイト上で連載小説を掲載して書籍化している。

 ほかにも、TLレーベルである竹書房・蜜夢文庫がパブリッシングリンクとともに小説・コミック・イラスト投稿コミュニティサイト「メクる」(2020年5月閉鎖)上で2016年から開催していた、異世界転生恋愛小説を募集するムーンドロップスコンテストは、2018年開催の第3回からムーンライトノベルス上での募集となっている。
 筆者はこれらのウェブ発のアダルト小説書籍化レーベルの事情に明るくないが、それを断った上で2010年代中盤以降に増えていった事情を推察してみよう。

 全年齢向けでは2015年ころまでにレーベルが増えすぎ、新規参入組の成功の見込みが減っていったと言える(むろん、今見てきたようにそれでも新規参入は絶えなかったわけだが)。一方で、18禁サイト発であればまだ鉱脈があると考えられたのだと思われる。
 また、ウェブ小説全体への注目が高まるなかで、読み手が「○○みたいな作品のエロいやつ」といったかたちで著名なウェブ発の全年齢向け作品に似たキャラクターや設定のポルノを求めるという需要が増した。
 あるいは、官能小説やTLの書き手が執筆場所としてウェブ小説サイトを選ぶことが増え、結果として有望な作品がウェブに集まりやすくなったことも考えられる。

 BLはどうか(便宜的にこの流れでBLに触れるが、もちろん成年向けではない、性描写のないBLもある)。BLでウェブ小説書籍化が始まったのは2012、13年と目されるが、2015年から勢いが増していく。
 海外では2010年頃から流行した、「男性・女性にくわえて、狼の階級呼称に由来するアルファ、ベータ、オメガという第2の性、3種類の性別がある」といった設定を共有する「オメガバース」ものが、2013年には日本でもウェブ上で流行り始めたとされる(あべゆうか「【“自己満足”BLマガジン『ss』】第3回:オメガバースの歴史」などを参照)。
 タイトルに「オメガバース」と入った最初の商業小説はおそらく、pixivノベルに投稿され、2015年12月に幻冬舎ビーボーイスラッシュノベルズから書籍化された佐倉井シオ『つがいの掟 ~オメガバース~』である(タイトルに入っていないものではいつからウェブ発のオメガバース作品が書籍化され始めたのか、筆者にはわからない)。

 また、リブレから2016年5月刊行の個人サイト発の飯田実樹『空に響くは竜の歌声 紅蓮をまとう竜王』が刊行され、一般読者と識者の投票でランキングを決めるネクストF編集部『このBLがやばい!2017年版』(ジャイブ)の小説部門で第3位に、「小説家になろう」に投稿された恵庭『5人の王 外伝 』(フロンティアワークス、2015年11月刊)も第8位となった。
 以降、同ムックの年間ランキングに書籍化されたウェブ小説が年1、2点ほどランクインすることは珍しくなくなっていく。

 たとえば2018年版ではリブレから2017年3月より刊行が開始された中華風ファンタジーであるみやしろちうこ『緑土なす』(ウェブでは2009年から2010年に「ムーンライトノベルズ」にて連載)が5位に、2019年版では異世界トリップものの茶柱一号『愛を与える獣達』(2016年から2017年にかけて「小説家になろう」にて連載され、リブレから2018年2月より刊行)が3位に、2020年版ではもふもふ子育てBLの八十庭たづ『はなれがたいけもの』(「ムーンライトのベルズ」にて2018年から2020年にかけて連載。リブレから2019年4月より刊行)が4位に入っている。
 ムーンライトノベルス発では、イーストプレスのアズ文庫、アズ・ノベルズ、Splush文庫、三交社のラルーナ文庫、角川ルビー文庫のルビーコレクション、一迅社のロワ・ノベルズ、ハーパーコリンズ・ジャパン・アンジェリカなどのレーベルから紙でも書籍化されるようになった(「紙でも」と断ったのはTLやBLでは電子書籍専業レーベルも存在するためだが、それらに関してはここでは言及していない)。

 2017年にはエブリスタ上でBL小説を発行する出版社10社合同のコンテスト「天下分け目の BL 合戦」が「夏の陣」「秋の陣」に分けて開催された
「夏の陣」に参加した編集部(出版社)は、ビーボーイ編集部(株式会社リブレ)、ルチル編集部(株式会社幻冬舎コミックス)、小説ディアプラス編集部(新書館)、プラチナ文庫編集部(フランス書院)、ダリア編集部(株式会社フロンティアワークス)の5社。
「秋の陣」に参加した出版社は、角川ルビー文庫編集部(株式会社 KADOKAWA)、シャレード編集部(株式会社二見書房)、クロスノベルス編集部(株式会社笠倉出版社)、HOLLY NOVELS 編集部(株式会社蒼竜社)、キャラ文庫編集部(徳間書店)の5社。
 アルファポリスがBLレーベル「&arche(アンダルシュ)」を創刊したのはここから遅れて2021年のことだったが、創刊を告知したIR(投資家向け広報)では「BLジャンルは、当社のWebコンテンツ大賞のエントリー数においても、「ファンタジー小説」、「恋愛小説」に次ぐ規模に拡大しており、今勢いのある急成長中のジャンルとなります」と謳われていた。

 このようにウェブ小説書籍化は男性の成人向けや女性向けのTL、BLジャンルにも広がり、当たり前のものになった。ただBLについては、オメガバースを除けばウェブの流行が商業に大きく流入したとか、潮流を塗り替えたとまでは言えないようだ。

「2016-2018年② 児童向けへの広がりとアンソロジー・ショートショート書籍化ブーム」に続く

「monokaki」は、エブリスタが運営する「物書きのためのメディア」です。