2000年代後半のウェブ小説書籍化(中編)|飯田一史
第二次ケータイ小説ブームとは何だったのか
魔法のiらんど上に書かれ、05年10月にスターツ出版から刊行されたChaco『天使がくれたもの』を起点とする第二次ケータイ小説ブームという現象、あるいは第二次ケータイ小説ブームをめぐる「語り」は、2010年代に起こる「なろう」書籍化ブームとそれに対する語りと多くの部分で似ている。
言いかえれば「なろう」書籍化ブームはある意味では第二次ケータイ小説ブームの反復だった。
2021年現在からウェブ小説書籍化の歴史を回顧するにあたって重要なのは、この第二次ケータイ小説ブームを時代の徒花として「点」で捉えることではなく、ブームの発生から拡散までの変化を「流れ」として捉え、前後と比較したときに見えてくるもののほうだ。
まず画期だったのは、ウェブ発の小説が出版市場において初めて「ジャンル」としてブーム化した点である。
2000年から2005年にかけての第一次ケータイ小説ブームのときは「ブーム」と言っても目立っていたのはほぼYoshiだけ(しかもプロ作家の手による『いじわるペニス』や『クローズド・ノート』はYoshiとは「別枠」)だった。
ところが、第二次ブームではオンライン小説が複数の書き手(未デビューの素人)による「ジャンル」としてブーム化し、メディアで注目されたおそらく初の事例となった。
文芸社から刊行された中園直樹『オルゴール』(02年2月刊)は『リアル鬼ごっこ』などと並べて「自費出版」ブームとしてくくられ、著者サイトとメルマガで連載された市川拓司『いま、会いにゆきます。』(03年5月、小学館刊)は片山恭一の『世界の中心で、愛をさけぶ』などと並べて「泣ける純愛小説」ブームでくくられ、米澤穂信は「ライトノベルから一般文芸への『越境』作家」とみなされ、奈須きのこ『空の境界』は「同人発」が押し出されたために、いずれも「ウェブ発」という情報は後景に退いていた。
しかしケータイ小説はケータイ(フィーチャーフォン)で書かれ、読まれたこと自体に注目が集まり、ひとりふたりではなく「こういうものを書こう」という作家が群となって作品が生み出されてジャンルの運動が形成され、次々に書籍化されることになった初の事例である。
それまでもウェブで完結した「先行するウェブ小説を読んだ作家が、ウェブ小説を書く」というジャンルの運動はあった。しかし、出版市場に書籍というかたちで展開されながら作家・作品が大挙し、かつ、それがひとまとまりのものとしてジャンル内外の人びとに認識されたのは、第二次ケータイ小説ブームが最初だった。
2010年代にはさまざまなプラットフォームからのウェブ小説の書籍化が当たり前になっていくが、第二次ケータイ小説ブームでは、10年代に起こるもろもろの多くが先行して起こっていた。
米光一成は「ケータイ小説の新しさと古くささ」(『国文学』08年4月号)でリアル系ケータイ小説の過激な特徴のほとんどは60年代の少女向け「ジュニア小説」にもあって当時も問題視されたものだと指摘し、速水は80年代に雑誌『ティーンズロード』がヤンキーの「実話」投稿で盛り上がっていたことがモバイル通信の台頭でやりとりがスピードアップしただけで新しいものではない、と書いていた(『ケータイ小説的。』96p)。
だがそれを言うなら、大正期には性や犯罪などについての「実話」を元にした「告白」だらけの読者投稿欄と、ゴシップ・覗き見的な関心を満たすような特定の人物をリアリズムに基づいて描いたと称する「モデル小説」を受容する雑誌コミュニティはすでに成立していたのである(日比嘉高『プライヴァシーの誕生』新曜社、2020年、128-134p)。
日文研大衆文化研究プロジェクト『日本大衆文化史』(KADOKAWA、2020年)のなかで大塚英志は、明治30年代以降の投稿雑誌ブームが「書く読者」を生み、彼ら/彼女たちが近代文学を読み手兼書き手として支えたが、その構造は雑誌からプラットフォームに移って今も存在している、つまり「なろう」などの投稿小説の隆盛は歴史的に見れば反復だと指摘したが、筆者も同意見である。2010年代のウェブ小説書籍化をめぐって起こったことは2000年代のケータイ小説書籍化の時点ですでに起こっており、さらに遡れば似た現象はいくらでも見つけられる。
ただ、せいぜい四半世紀スパンで歴史を振り返る本連載では、その後の「なろう」「アルファ」「エブリスタ」「カクヨム」といったウェブ小説(そしてそれ以前の市川拓司『いま、会いにゆきます。』)とも共通する特徴や現象についても、2008年頃にはすでに言及され、確認されていたことを5点指摘するにとどめておく。
2000年代ケータイ小説が10年代ウェブ小説書籍化に先行していた点1
2000年代のケータイ小説が10年代のウェブ小説書籍化に先行していた1つめの点は「ウェブ上に書かれた人気小説を書籍化すると売れる理由のひとつは『本を出す前に無料で作品のことを周知できる』ことにある」という気づきだ。
本田透は『なぜケータイ小説は売れるのか』(ソフトバンク新書、08年)で「ケータイ小説市場とは、「出版する前に無料で大々的にプロモーション活動を行える」というまったく新しい小説市場なのだ」「「ケータイにおける人気競走で勝ち残った作品を出版し、ファンに買ってもらう」というケータイ小説市場」は「従来の「出してみなければ売れるかどうか分からない」という出版常識から根本的にまったくかけ離れたジャンル」だとまとめている(30p、50p)。07年までは、魔法のiらんど上の読者数の1割の部数、つまり魔法で100万ユーザーが読んだ本は10万部、本が売れたという(同67p)。
もっとも2000年代初頭から『Separation』などのヒットを生み出してきたアルファポリスの存在を思えば、ケータイ小説のビジネスモデルに対する本田の「まったく新しい」という形容は誤りである。余談ながら、このアルファポリスに関する言及のなさから、オタクを自認する本田透にすら、主人公最強ものの異世界ファンタジー小説である吉野匠『レイン』の書籍版(2005年刊行開始)のヒットはまるで視野に入っていなかった――本連載で触れてきたように、2000年代にはウェブ小説はたとえファンタジーであっても「ライトノベル」とは関係ないものとみなされていた――ということが推察される。
話を戻すが、2010年代になろう系が台頭すると、第二次ケータイ小説ブームのことは忘れ去られて再び「出版する前に無料で大々的にプロモーション活動を行える」「従来の「出してみなければ売れるかどうか分からない」という出版常識から根本的にまったくかけ離れたジャンル」といった理屈が「新しいもの」として語られ直すことになる(かくいう筆者もそうしたことを書いた記憶がある)。
2000年代ケータイ小説が10年代ウェブ小説書籍化に先行していた点2
2000年代のケータイ小説が10年代のウェブ小説書籍化に先行していた2つめの点は「ウェブ小説執筆および書籍化の過程における、読者と作家のコミュニケーション」だ。
「ケータイ小説は通常の小説と違い、書いたものに対して読者からレスポンスがあり、その反応によってストーリーを変化させながら書いていくのが一般的だという」「読み手の側も作り手の役割を担うことがある」(速水健朗『ケータイ小説的。』原書房、08年、94-95p)。
杉浦由美子『ケータイ小説のリアル』(中公新書ラクレ、08年)でも、プロの世界では書き手と読み手の間に距離が遠いが、ケータイ小説では読者が感想を書き込めることが書き手の強いモチベーションとなり成功をもたらした一因とされている(39-41p)。
2010年代中盤以降に急速に普及したスマホ向けのマンガアプリの台頭以降、商業マンガの世界でもアプリ内のコメント欄やSNS上での送り手と受け手、受け手と受け手のコミュニケーションは当たり前になっているが、2000年代の出版業界ではそれが「画期的」で「プロの世界とは違う」ものとして受け取られていた――本連載の読者には自明なように、このような連載スタイルによる作品づくりは市川拓司が『いま、会いにゆきます』などを連載していた2000年代初頭時点で第二次ケータイ小説ブームにさらに先行していたものではある。
2010年代を席巻した「なろう」「エブリスタ」などのウェブ小説サイトでも、ケータイ小説同様にコメント欄や作者の活動報告での読者とのやりとりが果たす役割は大きい。
一方で文芸に強い出版社がサイトに小説を掲載する場合にはコメント欄が用意されておらず、SNS上のコミュニケーションを促すしくみもないことが多かった(し、2020年代初頭時点の現在でも多い)。それがために、読み手の参加を促し、読者に「自分も作品に参加している」「この作品を応援している」という主体性を抱かせるに至らない。ゆえに、ケータイ小説や小説投稿サイトのようにコミュニティ形成が起こらず、ヒットも生まれにくい状態が続いた。
2000年代ケータイ小説が10年代ウェブ小説書籍化に先行していた点3
2000年代のケータイ小説が10年代のウェブ小説書籍化に先行していた3つめの点は、「ケータイで読んでいる読者だけが書籍の購買者ではない」という点だ。
2000年代には地方在住の公立中学生の多くは携帯電話を所有しておらず、こうした「ケータイで読んでいないがクチコミや書店店頭で興味を持った女子」も「すでにケータイで読んでおり、『思い出』として持っておきたかったり、応援のために買う層」と双璧をなして書籍を買い求めていた(『ケータイ小説のリアル』51-53p)。
このあと2010年代にウェブ小説書籍化が流行し始めた当初も、オンラインで読める小説を書籍化することに対して「なぜウェブなら無料で読めるのに本を買うのか」と問われることが多かった。今ではもはやこの種の疑問を唱える人は少数派である。実際に書籍化したものが売れることが当たり前になり、「コンテンツの展開される場所が違えば体験が違い、ユーザー層が違うから」という感覚が広まったからだろう。
映画館で映画を観るのと家のTVで映画を観るのでは、かかる料金が違うことと同じだ。ウィンドウごとに費用も体験も、それを進んで受容するユーザー層も変わる。同様に、ウェブでブラウザで読む体験と、パッケージ化された本を読む体験は異なる。
こうした考えは2010年代以降、徐々に「常識」的なこととして受け入れられていくようになるが、2000年代には「ケータイ小説の特殊事情」として理解されていた。
2000年代ケータイ小説が10年代ウェブ小説書籍化に先行していた点4
2000年代のケータイ小説が10年代のウェブ小説書籍化に先行していた4つめの点は、「ブーム最初期の作品がもっとも売れ、その後、刊行点数や参入する出版社が増えるとサイトのアクセス数と書籍の売れ行きの相関は薄れ、まったく売れない作品も登場して『ブーム』は終わるが『ジャンル』や『プラットフォーム』は定着していく」ということだ。
05年のChaco『天使がくれたもの』から始まった第二次ブームは、07年12月時点で魔法からは書籍化タイトルは40で累計発行部数1000万超、つまり1作平均50万部と驚異的な売上となるも、08年には早くも「魅力のある作品が出版され尽くした」と語る出版関係者が現れている(『ケータイ小説のリアル』68p)。
なろう書籍化も2010年代初頭にはおおよそどの本もよく売れたが、半ばごろにはすでにケータイ小説と同じく1作あたりの売上は大きく低下し、当たり外れが激しくなっていた。
しかし逆に言えばそうなるころにはすでに書籍化は当たり前のものになり、「ブーム」ではなく固定ファンのいる「ジャンル」として落ち着いていく。
2000年代ケータイ小説が10年代ウェブ小説書籍化に先行していた点5
2000年代のケータイ小説が10年代のウェブ小説書籍化に先行していた5つめの点は、「流行りは移り変わるが、外側の人間が一度抱いたイメージはなかなか変わらない」ということだ。
第二次ブームを語る際、「援助交際」「レイプ」「恋人との死別」「妊娠」「DV」「ドラッグ」などが描かれる「実話を元にした」の恋愛ストーリー(本田透はこうした特徴を持つ作品を「リアル系ケータイ小説」と命名した)であり、書き手の多くは自分の経験をもとに書いているうちに書籍化の声がかかっただけで「プロ作家志望ではなかった」といったことが並べられた。
だがそうした状況は変化していく。どころか実際にはブームの渦中にもそれ以外のジャンルも書籍化されていた。そもそも『天くれ』には輪姦や中絶、性描写がない、男女のすれ違いを描いた恋愛小説であることは「リアル系ケータイ小説」の命名者・本田透自身が指摘している(『なぜケータイ小説は売れるのか』46-47p)。
ほかにもたとえば06年12月刊の凜『もしもキミが。』(ゴマブックス)は妊娠やエイズは描かれるが完全にフィクションだと最初から謳われていたし、魔法のiらんど大賞2007ケータイ小説部門Hana*chu→賞受賞作である08年2月刊のkagen『携帯彼氏』(主婦の友社)はホラーだった。
06年に日本ケータイ小説大賞など受賞作の出版を前提とした新人賞が創設されるようになると「書き手の質が急激に上がって」「プロ志向のある人たちの投稿が多くなって」いった(『ケータイ小説家になる魔法の方法』121p)。
速水健朗『ケータイ小説的。』(原書房、08年)では07年半ば以降の動向として「ケータイ小説が生まれる場所も、『魔法のiらんど』だけでなく、携帯サイト大手の『モバゲータウン』など他の無料サイトにも拡散した。これに伴い、生まれてくる作品の傾向も「リアル系」に限らず、ホラー、コメディ、SFなど多岐に亘るようになっている」(8-9p)と記述。
『ケータイ小説がウケる理由』は07年には中学生の読者と書き手が急増し、『花より男子』のような学園ものやラブコメが人気だとし(131p)、『ケータイ小説のリアル』は親が子どもに買い与えることも影響してケータイ小説の書籍から性暴力、性風俗的なシーンは「減少傾向にある」と書き、08年2月時点での「今のトレンドは学園モノ。スターツ出版『白いジャージ』などが代表例。しかし、読者が中学生と若いので、トレンドは3か月ごとに変わる」というケータイ小説の書籍編集者の発言を引いていた(73p、183p)。
『なぜケータイ小説は売れるのか』も「実話系のケータイ小説は『恋空』がピークで、最近では女の子向けのライトノベルふうな小説が増えてきています」「“Sな彼氏”が活躍する話とか」と書いている(70-71p)。
にもかかわらず、このころ書かれた本はすべて、当時の最新動向ではなく『天くれ』に始まり『恋空』『赤い糸』で売上的なピークに達した時代の作品についての話に8、9割を割いていた。「ケータイ小説を巡る言説で必ず問題とされるキーワードに「リアル」もしくは「リアリティ」がある」(『ケータイ小説的。』72p)とまとめられていたように、そこで描かれる荒唐無稽に思える「実話」、読者が感じた「リアル」とは何かという論点に引きずられていたのである。
これは「小説家になろう」で2016、7年頃にはすでに異世界転生・転移ばかりが日刊ランキング上に入るわけでなくなり、異世界ファンタジーどころか現代日本を舞台にしたラブコメも当たり前に書籍化されるようになって以降も「なろうの人気作」=「なろう系の典型的な作品」=異世界転生・転移というイメージがまだまだ世間的には蔓延していることと同じ現象だ。
デジタルコンテンツのプラットフォームから書籍化した作品がヒットし、追随作品が現れ、ブームと化し、沈静化してジャンルとして定着していくというプロセスは、おそらく今後も何度も起こるだろう。その際には「どこが第二次ケータイ小説ブームのときと同じで、どこが違うのか?」を検証するべきだろう(ここで詳述はできないが、なろう書籍化ラッシュ時にはケータイ小説とはまた異なる現象も起こっている)。
第二次ケータイ小説ブームと「エブリスタ」「なろう」の直接的な関わり
さて、第二次ケータイ小説ブームについての話題の最後に、このブームがなければ「エブリスタ」は生まれておらず、「小説家になろう」もこれほど注目を集める機会はなかったかもしれないという、その後のウェブ小説とのつながりについて書いておこう。
2006年2月にDeNAはガラケー向けSNS&ゲームサイトとして「モバゲータウン」を開設、07月3月にはその中で小説、詩、楽曲を投稿できる「クリエイター」をオープンしている――これが小説投稿サイト「E★エブリスタ」(現・エブリスタ)の前身である。
05年以降の第二次ケータイ小説ブームの影響から、モバゲー内でも小説が書かれ、DeNAは07年には講談社と組んで新人賞「モバゲー小説大賞」を実施。12作品が書籍化された。審査委員には大沢在昌らが参加し、応募総数7500以上の中から大賞を受賞した美帆『最愛の君へ。』が08年4月に書籍化、9月にはコミックス化されたが、同作がユーザー投稿作品初の書籍化だった。
モバゲータウン発の「ケータイ小説」ジャンルの作品で最大のヒットとなったのは、2008年8月には同サイトで初めて累計閲覧数1000万を超えた咲良色『君のせい』だろう。同作はソフトバンククリエイティブ(現SBクリエイティブ)から書籍化され、翌年、同社からマンガ化および5月にはTBS系列にてTVドラマ化もされた(2夜連続放送)。TV化はモバゲータウン作品初である。
そしてここから『王様ゲーム』も生まれるのだが――その話は次回に。
ケータイ小説ブームは「小説家になろう」にも影響を与えている。この時期には雑誌のケータイ小説特集で「なろう」や「なろう」掲載作品が紹介され始め、恋愛小説が増えた。
これが07年に携帯電話向け恋愛小説専門サイトの「ラブノベ」開設につながる。
なろうの書報-出版作品紹介ページでこの時期を見ると、ぬこ『あたしのカラダ』『うりの夏休み』が魔法のiらんど文庫から書籍化されている(08年2月、6月刊)。
『あたしのカラダ』のあとがきを読むと「初めて自分が書いたお話をHPに載せてから」との記述があるため(204頁)、同作は「なろう」掲載作品ではなく「『なろう』で活動経験のある作家が自分のHP(ホームページ)上に書いた作品の書籍化」だと思われるが、いずれにしろ「なろう」にはケータイ小説的な作品・作家もこの当時無数にいたことの証左になる。
忘れてはいけないのは、なろうはPCだけでなくガラケーでも閲覧できたことだ(2019年1月まで)。これらの読者・書き手もサイトの成長に貢献していたのだろうし、それが次の成長につながる資金(売上)を生んだのだと推測される。
「なろう」は05年には18禁のノクターンノベルズ、ムーンライトノベルズを始動、07年には「小説を読もう!」が始動してランキングシステムが整備され、時を同じくして異世界ファンタジーが増え始める。
そして08年には個人運営からグループ運営体制へ移行し、09年には「なろう」に活動報告機能、ブックマーク、お気に入りユーザー機能、アクセス解析システムを導入。レイアウト変更などの大幅リニューアルに至る(ヒナプロジェクト代表梅崎祐輔インタビュー、『かつくら』2015年春号、桜雲社、30p)。
10年8月に「にじファン」(PC向け)、「NOS」(モバイル向け)に分離するまでは「なろう」本体での二次創作もさかんだった。
なろう運営のインタビューでは必ずと言っていいほど「異世界ファンタジーだけを推したいわけではない」と語られるが、それは04年に誕生した「なろう」の最初の数年の動きを見れば当然だろう。
2010年代に書籍化が当たり前になって以降のほうが「なろう」のジャンルの偏りはおそらく激しくなっている。10年代以降の書籍化ラッシュが「なろう」から人気作品の多様性を奪ったのだ。
なお版元としてのアルファポリスからの最初の「なろう」書籍化は08年からで、2月刊の高遠響『薔薇の紋章』がその嚆矢だと思われるが、本格化するのは10年以降だ。『薔薇の紋章』は1930年の東京を舞台に社交界・政界の人物が入り乱れるホテルの女主人を主人公にした「疾風浪漫小説」と銘打たれたロマンスである。
次回は、ケータイ小説以外の2000年代後半のウェブ小説書籍化についてまとめてみていこう。
『最愛の君へ。』
著者:美帆 講談社
生を好きになって、教えてもらったこと。
見た目だけで恋愛してきた18歳の高校生、立花将。
愛し愛される喜びを知らない彼が、28歳の女性教師と恋に落ちる。
大勢が涙した、モバゲー小説大賞受賞作。
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