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アマチュア作家にいちばん足りないもの|Dec. 2018|monokaki編集部

 当欄は、編集長の有田が一か月の記事を振り返って綴る、monokakiの編集後記です。
 先月のEditor’s Letter「創作を減点方式で考えた時点で負け」に、たくさんの反響をいただきました。なかでも、NovelJam審査員の米光一成さんが審査総評「NovelJam2018秋・審査委員は何を考えてるのか」で丁寧に取り上げてくださったのは嬉しく思いました。有料noteですが、「紋切り型を突き崩すためのトレーニング」「説明台詞を書かない方法」「プロットと物語の分量のバランス」など、創作者なら誰もが知りたいと思う内容が、具体例とともに示されています。600円の価値ありなので、気になった方はぜひ購入してみてください(回し者のようだ……)。ちなみに、「創作を減点方式で考えても、 べつに負けじゃないよ」というのが米光さんからのメッセージでした。

 ほかにTwitterで多くいただいたのは、「自分の作品のアピールポイントがどこなのかわからない」「自分ではここだけは負けない!と思っているが、それが本当に審査で通用するのかどうか自信が持てない」といったリアクションです。これはなかなか難しい問いですね。そんな人に、今すぐ実践できるおすすめの方法が一つあります。それは、とにかく一度、限界までインプットの量を増やすこと

 この一年間、何人かのプロ作家にインタビューし、プロのライターさんから原稿をいただき、それ以上にたくさんのアマチュアの方の原稿を読んできてたどり着いたひとつの結論は、プロとアマチュアの最大の違いはインプット量にある、ということです。インプット量に裏打ちされた作品というのは、知識量が豊富な作品のことではありません。語彙やリズム、キャラクターや展開のバリエーションが多い作品のことです。

 公募の選考で数百作も数千作も読み続けていると、「この人はとにかく本が好きでよく読んでるな」「この人はきっと映画をよく見る人だな」というのは、文章のリズムや演出の癖でわかることもあります。そのアンテナを錆びつかせないために、私自身は毎月の舞台、毎週の映画、毎日の読書を自分に課しています。映画でも小説でも、評論のプロとしてやっていくのに必要なインプット量は年間200作品とも300作品とも言われるなか、けして十分な量ではありませんが、自分なりにチャレンジできるぎりぎりのラインです。

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 今月掲載された記事を振り返ってみましょう。書評家の三村美衣さんとお話していると、比喩でなく5分~10分に1作品くらいのペースで古今東西の作品名がぽんぽんと飛び出すので、いつもメモを取る手が追い付きません。新しいファンタジーの教科書「物語に深みを与える、魔法の過去・現在・未来」では、乾石智子『夜の写本師』、ブランドン・サンダースン『ミストボーン』、佐藤さくら『魔導の系譜』が、おすすめの魔法ファンタジーとして挙げられています。
 現在開催中の「次に読みたいファンタジーコンテスト」では、三村さんはこれらの作品をはじめとする数々の名作魔法ファンタジーを頭の片隅に思い浮かべつつ、皆さんの作品を読まれるわけです。すべて読んでそれを消化した上で、さて自分は何を書こうか? と作品に取りかかるクリエイターと、どれも読んだことがないクリエイターでは、アウトプットにきっと差が出てくるはずです。

 仲俣暁生さんの「平成小説クロニクル」を読んでいると、毎回「あぁ、この作品読んでない……この作品もまだ読んでない……」と、自己嫌悪に陥りそうになります。今月のテーマである米澤穂信と桜庭一樹、どちらも大好き! という方も多いのではないでしょうか? 好きな作家がいる場合、とにかくその作家の作品を一つ残らず全部読破する、という読み方がおすすめです。同じ作家を続けて読むと、その作家が持つ文体や世界観に慣れてすぅっと作品に入り込みやすいですし、一人の作家が描き出す世界の広さを実感できると思います。

 王谷晶さんの文章こそ、どこを切っても「圧倒的インプット量」の血潮が噴き出すような教養に満ちた文章だと、原稿を受け取る度に思います。今週の「おもしろいって何ですか?」のテーマは「客観性」。そのために必要なものこそ、インプットにほかなりません。

 本を読もう。ニュースサイトを読もう。テレビや映画を見よう。誰かに相談しよう。いろんな人の話を聞こう。客観性筋はそれ以外の方法では鍛えられない。

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 あなたが書く作品は、あなたが読んできた本、読んできたニュース、見てきたテレビや映画、聞いてきた話からしか生まれません。インプット量を増やすことは、絵を描く前に絵の具の色を増やしたり、音楽を演奏する前に楽器の種類を増やすことに似ています。「たくさん読む」「たくさん見る」は、本来「たくさん書く」よりも取り組みやすい努力のはずです。「いきなりプロみたいに書く」というのは難しくても、「いきなりプロみたいに読む」であれば、工夫次第で取り入れられるのではないでしょうか?

 年末年始、いつもよりちょっと時間のある方も多いと思います。心機一転、2019年はインプット量の目標を決めて、執筆のかたわら挑んでみませんか?


*本記事は、2018年12月27日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。