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思わず自己嫌悪になってしまう日にやっていること|Aug. 2018|monokaki編集部

当欄は、編集長の有田が一か月の記事を振り返って綴る、monokakiの編集後記です。

今月は、何といっても月初に掲載した特集「Web時代の作家たち」、末満健一さんインタビューへの反響が大きかったです。 もともとは少女漫画家をめざしていたという来歴への驚き、原作モノをやるときには原作を第一に順守するという姿勢への賞賛、「舞台 刀剣乱舞」に関する解釈など、たくさんのご感想をいただきました。
折しも昨日、TRUMPシリーズ最新作『マリーゴールド』を観劇し、「人生を解釈する上での光みたいなものを演劇を通して見出せたら」という末満さんの創作の根底にある想いについて、改めて深く、深ーーーーーく考えさせられました。(ご覧になった方なら、きっとこの意味がおわかりになると思います。)
TRUMPシリーズは来年で10周年。10年間第一線で創作を続けるのはもちろん容易なことではないですが、逆に言えば10年間でも書き続けられるモチーフやテーマを見つけるのは、物書き志望にとっても大事なことだと言えます。

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特集に次いで、「プロットを作りはじめる前の4つの質問」もまたよく読まれた記事でした。「作品世界の成り立ち、時代背景、社会情勢などを教えてください」「作品全体で何を解決するストーリーですか?」「読者・視聴者が、この作品に感情移入や共感できるポイントは?」「この作品の推しポイントは?ほかの作品と最も異なる点は?」というのが「4つの質問」なのですが、自作に当てはめて、特に4つ目の質問が難しい!とのお声が多かったです。
ほかの作品との差別化。ひいては「ほかの作家との差別化」につながる、プロをめざすのなら押さえておきたいこの鬼門のヒントは、実は3つめの質問の中にあります。

「このことについてなら、普段から思うことがいっぱいあるし、無限に書けるな」と自分で思えたら、それは「没入感」の第一歩です。

自分の「得意なこと」や「個性」について考えるとき、人はどうしても「苦労して手に入れたもの」や「時間をかけて身につけた技術」のことを思い浮かべがちです。しかし、あなたが時間をかけて身につけた技術というのは、実は他の誰かも時間をかければ身につけられるものです。
本当の「特技」や「個性」というのは、「今日は一日何もしなかったわ……」と思わず自己嫌悪になってしまう日にやっていることだったり(例:1日12時間Twitter見るとか)、「えっこれって皆は知らないの?」と思うようなことだったり(例:犬の種類を20個くらいすらすら言えるとか)、するのです。

「そんなこと、考えたこともなかった~」と人に言われたことありませんか? 振られるとどうしても熱くなってしまう話題、自分ではもう消したいと思っているコンプレックスなど、一見ネガティブなものかもしれません。 頭の中に染みのように残って、振り払っても振り払っても拭えない強迫観念のように、「このことについてならこの10年くらい考えてるかも……」というものがあれば、それがあなたの個性です
『マリーゴールド』は、希望と絶望をめぐる物語でした。「他人とコミュニケーションを取るのがとても苦手」で、「死生観を投影すると僕の場合はどうしても悲観的な色合いが濃くなってしまう」とおっしゃった、末満さんにしか書けない希望と絶望が、そこにはありました。

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あるいは、考え方の癖やモチーフに限らず、これまで触れてきた文化や、インプットしてきた作品の組み合わせの妙も立派な「個性」と言えます。バディ小説大賞の第1回受賞者平田駒さんに「影響を受けた作家は?」と聞くと、「西尾維新と隆慶一郎」と返ってきたので、座談会の場にいた編集者、一同がわぁ!とわきました。初めて耳にする組み合わせだったからです
同年代の小説好きで、ファウスト系の著者の名前を2人並べる人は1万人くらいいそうですが、そこに歴史小説家の名前が並置されるのはめずらしい。平田さんはきっと、奇をてらったり「ちょっと変わったものを読んでみよう」としたのではなく、ただ「自分にとっておもしろいもの」を突き詰めていった結果、この2作家にたどり着いたのだと思います。

自分が好きなもの、逆に苦手なもの、おもしろいと思うもの、どうしてもおもしろいと思えないものに、敏感になってください。
「4つ目の質問への答え」は、きっとその先に隠れています。


*本記事は、2018年07月26日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。