平成を象徴する小説家|May 2018|monokaki編集部
当欄は、monokaki編集長の有田が、月に一度編集後記のように綴っていきます。5月は、連載以外の単発の記事を多数掲載しました。フィルムアートから刊行されている『工学的ストーリー創作入門』を紹介した「売れる物語を書くために必要な6つの要素」、エブリスタの編集マツダと文藝春秋社の編集さんたちによる「『筆力を伸ばす書き方』とは? バディ小説座談会」、現役の校正者でもある逢坂千紘さんにご寄稿いただいた「物書きのための校正教室」 。
どの記事も好評で、やはり創作ハウツーに関する記事は、Web作家の皆さまからの潜在ニーズがとても高いのだと、改めて実感できました。シリーズ化に向けて動き出しているものもありますので、来月以降の掲載も楽しみにしていてください。
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具体的なハウツー記事を充実させるかたわら、個人的にどうしても始めたかった連載が仲俣暁生さんによる「平成小説クロニクル」です。
この記事を思いついたのは、2月にスポンサー審査員として参加したNovelJamがきっかけでした。大賞候補に残った2作品が、どちらも審査員の目には「過去作の縮小再生産」に見えてしまい、結果的に大賞受賞作はなし、優秀作2作品が選出されるという結果になりました。15年前、わたしが中学生の頃に「文藝」で愛読していたような暴力と性をモチーフとしたノイジーな小説を、20代前半の著者が書いていたことにある種の衝撃を受けて、そのときNovelJamの創作テーマであった「平成」の文化・社会が、「平成生まれ」の目にはどう映っているのかに興味を持ちました。
若い作家に対して、「先行作をもっと勉強しろ」としかつめらしく説くのは簡単ですが、カルチャー誌や紙の文芸情報誌が絶滅しつつあるいま、「先行作とはこれのことですよ」という提示自体が、そもそもされていないのではないか。そんな問題意識から、平成という時代の流れに沿ったブックガイドを、特に若い作家志望者に向けて提供する目的で始めました。初回は「宮部みゆきと恩田陸」。現在の執筆者は仲俣さんお一人ですが、ライトノベルに造詣が深いライターさんの寄稿もすでに決まっており、純文学やエンタメ小説だけではなく、ラノベ、ケータイ小説なども取り上げていきたいと考えています。
「この作品にはもちろん触れるよね?」「この作家が入っていないのはおかしい!」というご意見もお待ちしています。Twitter上では#平成を象徴する小説家というハッシュタグもまとめていますので、独断と偏見で構いません。皆さんからも作家さんをご提案いただけると嬉しく思います。
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くしくも、今月の特集「時間は連続しているのか、世界はほんとうにあるのか」で取り上げた早瀬耕さんのデビュー作は1992年、平成4年に刊行された『グリフォンズ・ガーデン』です。それから22年の時を経て、第二作『未必のマクベス』は2014年に刊行されました。「初単行本」や「プロデビュー」について考えるとき、わたしたちはつい先入観からそれを継続的な一本の道のスタート地点だと考えてしまいがちですが、道がまっすぐ一本ではないことももちろんあるのです。
デビューから毎年本が出るような状態というのは作家にとってはひとつの理想かもしれませんが、読者は何回だって、どのタイミングからだって作家に突然出会うことができる。「最近書いてない」 のは「もう書けない」理由にはならないし、「22年ぶりの新作」がびっくりするほどの傑作だったりするのだから、小説はおもしろいです。
monokakiはその性質上、書き手に書いてよ!書いてよ!と迫るメディアではありますが、「最近書いてない方」や「今まだ書いてない」方にも、「時が来たらこんなのが書きたいな」という種を蒔くことができれば幸いです。
*本記事は、2018年05月31日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。