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(複雑すぎる)織物としての小説|June 2018|monokaki編集部

 当欄は、編集長の有田が一か月の記事を振り返って綴る、monokakiの編集後記です。
 今月の特集には、わたし自身も宣伝プロデューサーという立場で関わっている公募新人賞「Project ANIMA」の上町裕介プロデューサーにご登場いただきました。「新人賞の懐」はオール讀物新人賞に続き2回目の掲載ですが、(そして実は第3回の収録もすでに済んでいるのですが、)早くも新人賞受賞→プロデビューのための最重要項目が見えてきま した。それは「書きたいものを熱量を持って書く」こと、そして「人に読まれることを意識してエンタメ性を持たせる」こと。この一見相反する二つを実現した作品が、狭き門を潜り抜け読者にまで届いているのではないでしょうか。

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 「書きたいものを熱量を持って書くこと」は一見簡単なようですが、一作品完結させるまで、徹頭徹尾熱量を持って書き続けることは、 意外と難しいです。ベストセラー作家でも、書きながら、「これって本当におもしろいんだっけ……?」とどんどん不安になると、阿部智里さんが教えてくれました。
 「人に読まれることを意識してエンタメ性を持たせる」のは、さらに上級編ですね。「具体的に何をどうしたら『エンタメ性』が出るの?」と思う方も多いでしょう。
 上町プロデューサーは「作品にギャップを持たせること」と回答しています。文春の荒俣さんは「主人公を困らせること」がエンタメにつながるという大沢在昌さんの言葉を引用しています。今月の「おもしろいって何ですか?」では「『必然性』って何ですか?」と題して、設定の一つ一つを細かく吟味していくことで、物語を支える土台を作る方法を紹介しました。これも「読みやすさ」を増すためのテクニックの一つです。

 ほかにはどういった方法があるでしょう? 編集マツダが書く「Web小説の森」では、先月に引き続きTwitter小説を取り上げました。140文字で書かれる小説は簡単なようでいて、ソリッドだからこそ誰にも簡単に書けるものではないと分析しています。
 また、すぐに読者からの反応が生々しく返ってくるのもTwitterの特徴の一つです。「おもしろい」と思われたものはあっという間にRT・いいねされて世界中に拡散する一方、誰かの心に刺さらなかったツイートはそっと流れていってしまいます。このあたりにも、「エンタメ性」のヒントはたくさん隠れていそうです。

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 新人賞に関する情報を発信していると、「応募作は○○な方がいいですか?」「○○じゃない方がいいですか?」というご質問を、ときどきいただきます。たとえば、○○には王道なもの、グロすぎるもの、女性主人公のもの……などが入るのですが、正直、作品にとってそれが最善なら、何でもOKです

 新人賞において最も強いのは、「賞のテーマに沿った作品」ではなく、「書きたいことが明確で、軸がブレていない作品」です。小説は複雑な織物のようなもので、審査員は縦糸と横糸の組み合わせで浮かび上がる模様を、設定×キャラ×物語の組み合わせによる化学変化を見ています。とってつけたように「設定」「キャラ」「物語」のうちどれかを賞の傾向に寄せたり、審査員の好みに寄せても、全体に浮かび上がる模様がいびつになり、書きたいことの軸がブレるだけです。

 海猫沢めろんさんによるWeb小説定点観測では今月、タイトルずばり「カテゴライズできない小説から革命を始めよう」と謳っています。ジャンルが無ければ、そこに新しく作ればいいのです。「人に読まれることを意識してエンタメ性を持たせる」のは、けして「傾向と対策」をすることではありません。アマチュアだからこそ、自分が書きたいものの純度を上げて、研ぎ澄まされた作品で勝負してほしいと思います。


*本記事は、2018年06月28日に「monokaki」に掲載された記事の再録です。