あなたの「諦めない気持ち」を湧きあがらせてくれる本|週刊少年ジャンプ編集部『描きたい!! を信じる少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』|monokaki編集部
こんにちは、「monokaki」編集部の碇本です。
「小説の書き方本を読む」の第四回です。前回の村上春樹著『職業としての小説家』の記事も多くの方に読んでもらえてよかったです。
この連載は取り上げた書籍の一部を紹介する形になっています。そこでなにか引っかかる部分や、自分に響いたという箇所があれば、ぜひ記事を読むだけではなく、書籍を手に取ってもらえればと考えています。
第四回はある意味では【番外編】と言えるかもしれません。今回は週刊少年ジャンプ編集部『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』についてです。「小説の書き方本を読む」という連載ですが、少年漫画の王者であり、王道を爆走し続ける「少年ジャンプ編集部」による「漫画の描き方本」を取り上げます。
小説と漫画とジャンルは違いますが、「少年ジャンプ」の創作論や創作ハウツーは一体どんなものなのか興味が湧きました。ジャンルは違うとしても、創作という意味では共通するものや使えるものがたくさんあるのではないでしょうか。
『描きたい!! を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』はストーリー仕立てで構成されています。
アシスタントを何人も抱えながら、「少年ジャンプ」で漫画を連載している「まんが家コーセイ」にアシスタントの一人が「面白いまんがの描き方って何ですか?」と聞きます。コーセイ自身も以前にそんな質問をしたことがあると、10年前のはじめて持ち込みをした学生時代を思い出すことになります。学生のコーセイが編集者のサイトウに持ち込みをしにいくと、サイトウが作品を見ながら彼にアドバイスをして漫画の描き方を教えていくという流れになっています。
第5章「デジタル作画のコツーーミウラタダヒロ先生に訊く!」と第6章「アナログ作画のための道具選びーー四谷啓太郎&田代弓也両先生が語る!」は実際に漫画を描こうと思っている方には非常に参考になると思います。ただ、デジタルとアナログの漫画を描くための道具や装置の紹介になっているので、今回は省かせてもらいます。作画の道具について気になる方はぜひ本書を手に取って読んでみてください。
「少年ジャンプ」編集部と人気漫画家さんたちの創作へ対する熱意や想いを知ることでより自分の創作欲と向き合ってもらえる記事になればほんとうにうれしいです。
「描きたいもの」を育てるために、好きなものを掘り下げる
この本に出てくる登場人物はプロローグに出てくるアシスタントたちを除くと三人しかいません。
コーセイ:本編の主人公。漫画を描きたいと思っているけど、まだ1作も描いたことのない高校一年生(15歳)。
サイトウ:コーセイの持ち込みを受けた漫画編集者。
アサダ:サイトウの上司の漫画編集者。漫画への愛と知識が圧倒的な人。
コーセイは緊張しながらもサイトウに向かって、漫画を描くにはやることが多すぎて何から手をつけていいのかわかりませんと正直に伝えます。
「漫画の描き方にもきっと正解がありますよね?」「ジャンプ編集部には実は秘伝の漫画の教科書があって、それを見せてもらったら誰にでもすぐ描けるようになるんじゃないか」と思って持ち込んだと話をしています。
サイトウ なるほど、たしかに最初はとまどうよね。たまに聞かれるけど、ジャンプの教科書みたいなものはないんだよ。『正解』を教えられるわけではないというか、漫画の描き方には唯一絶対の『正解』はないと思った方がいいいかな。
サイトウ そうだね。『おもしろさ』は、作家さんひとりひとりがいま取り組んでいる作品に合わせてひねり出すしかない。そして『おもしろさ』は個々人が『これが好き』『これがやりたい』を掘り下げる中で生まれてきます。だからそっちを固める方が先。
この正解のなさというのはなにかと考えると、創作するすべての人それぞれに「これが好き」「これがやりたい」という自分の中の核が違っているため、ひとつの正解と言えない部分があると思います。
「日本ファンタジーノベル大賞」でのインタビューで編集者の高橋さんもこんなことを言われていました。
ちゃんと自分自身と向き合いながら、時代が求めているものではなく、自分の中での社会や世界の見方だったり、「わたしはこう思う」というものを書き続けていくうちに自分自身が進化して、作品にも反映されていくのではないかなと思います。
「創作」をすることにおいては自分自分と向き合うこと、自分が何が「好き」で「嫌い」について考えておくことも大事になりそうです。
コーセイ じゃあ、なるべく効率良く練習して、最短ルートで漫画家になるには……。
サイトウ 好きなものを描く。描けることを描く。結局それが早い。細かい技術はステップが進んだあとの方が役立つ。でもどの段階の作家さんでも『好きを突き詰める』ことから始めるのがいいと思う。
コーセイ というと結局、何をしたらいいでしょうか?
サイトウ 自分が好きな漫画・嫌いな漫画があったら、それについて人と語り合うのが一番いいと思うよ。友達でも家族でも編集者でも。それを繰り返すと、分析力や自分の気持ちを言葉にする能力も伸びていくから。あとお勧めなのは、最初は好きな漫画をまるごと模写。キャラだけではなく、好きなシーンを数ページ、できたら1話分。キャラだけでなく、コマ割りも背景もフキダシも描こう。
サイトウ キャラデザや、他人の著作物である写真や絵からコピーして来たら当然アウト。でもどんな作家さんの作品も、実は好きなものの闇鍋で構成されています。
「好きな漫画をまるごと模写」してみるというのは、以前に小説家の海猫沢めろんさんの連載『生き延びるためのめろんそーだん』にも「写経」のオススメがありったのを思い出しました。
騙されたと思ってなにも考えず、好きな作家の小説を10ページくらいまるまる書き写してみてください。その文章のリズムや感覚が体に残ります。これを続けると文章力が自然に上がる禁断の技です。
問題は文章が似てしまうことですが、そこは内容でなんとかしましょう!
どちらもしばらくやってみてください。必ずうまくなります。
サイトウの言う「好きな漫画をまるごと模写」とめろんさんのいう「好きな作家の小説を10ページくらいまるまる書き写してみてください」というのは基本的には同じ練習です。そして、めろんさんも言われていますが、「問題は文章が似てしまう」とありますが、ひとりの作家だけをやらずに何人か好きな作家をやってみるのがいいではないかと思います。「好きなものの闇鍋」にするためには自分の好きなものをたくさん集めたほうがいいはずです。
「自分が好きな漫画・嫌いな漫画があったら、それについて人と語り合うのが一番いいと思うよ。友達でも家族でも編集者でも。それを繰り返すと、分析力や自分の気持ちを言葉にする能力も伸びていく」という部分は、批評と客観性ということについてだと考えることができます。
小説家・王谷晶さん連載「おもしろいって何ですか?」の「「客観性」って何ですか?」を読むと「客観性」がわかりやすいので参考にしてみてください。
世の中に合わせるよりも自分がやりたいものを描く
サイトウ 流行りなんか気にしなくていいよ。
コーセイ え?
サイトウ 全然大丈夫。もし自分が流行っている作品を本当に好きだったり、心から『おもしろい!』思っているならそれをお手本にしていい。でも何も魅力を感じていないのに『流行っているみたいだからこのネタで描きました』的な低い解像度で表面だけをなぞってもおもしろくならないし、長続きしない。描いていてしんどくなるだけです。
コーセイ 売れたいなら世の中に合わせなきゃって思ってました……。
サイトウ 個人的な観測範囲では、『流行っているから描きました!』みたいな作家さんよりも『俺がやりたいのはコレです!』ってハッキリしている作家さんの方が大ヒットを生み出している印象があります。
(中略)
サイトウ 自分の内側に描きたいものがないのに、データや流行ありきでおもしろい漫画が描ける人なんていないよ。『これが好き!』『これが描きたい!』に勝る武器ではないです。
コーセイ うーん、キレイごとに聞こえますが……。
サイトウ そう思うかもしれないけど、ウソ偽りなく、経験的に言ってそうなんだよね。
コーセイ じゃあ、ボクが好きなものってジャンプの漫画以外だとマイナーなものが多いんですけど、それを突き詰めていってもホントに大丈夫なんでしょうか?
サイトウ そういう興味関心こそ独自の武器になるから問題ない。
流行りだったり、市場のマーケティングなどはデビュー前からでも気にしてしまう人が多いのではないでしょうか。しかし、実際に大ヒットをしている漫画や小説や映画などは、その作り手が「これが作りたかったんだ!」という熱い想いがあるものがお客さんを呼んでいる事も事実です。
「流行り」と「マーケティング」については王谷晶さんが連載『おもしろいって何ですか?』の「「読者受け」って何ですか?」において、自身の体験を書かれているのでそちらも読んでみてください。
実際に読者受けを考えたものがまったく当たらず、書きたいものを書いたら重版が決まったということで下記のように読者との距離感について書かれています。
物書きは、特に商業の物書きは読者を喜ばせるために仕事をしている。しかしそれは読者に奉仕するという意味ではないのだ。汝、読者を愛せよ。しかし媚びるべからず。読者の顔色を伺いだすと、九割の書き手は迷走して話がつまらなくなっていくからだ(私含む)。話がつまらなくなればせっかくの読者も離れていく。後には迷える物書きが荒野に残るのみだ。
読者はもちろん大事です。しかし、自分が好きなものを表現しなくなると迷走してしまい、最終的には書けなくなってしまう可能性もあります。
流行りも同じです。流行っている時に始めたら、そのブームに間に合う可能性だって少ないわけです。流行りでなくても、とびっきりの熱い想いで創られている作品は多くの人にではなくても、誰かに届きます。そこからあなたの時代がやってくる可能性だってゼロではありません。
創作の可能性は無限大
お題その① 下校中の2人組(学生)。ひったくり犯を見つけて捕まえる(捕まえ方は自由)。
お題その② 会社をクビになった人(男性でも女性でもOK)が公園で落ちこんでいる。公園にいた子供が心配してくれる励ましとしてクワガタをもらい、ちょっと元気がでる。
白井カイウ先生、附田祐斗先生、筒井大志先生、空知英明先生の四名が上記のお題で描いた「2ページ漫画」が掲載されています。そして、それぞれがその漫画について書く際に意識した部分やネームについて語っています。
実はこの本を開いてすぐ『ONE PIECE』完成原稿見本コーナーがあったり、『第2章 2ページ漫画を描こう』で四名の先生による漫画が掲載されていたりと創作論としてだけでなく、漫画ファンにも楽しめるものとなってます。
サイトウ 最初に会ったときに『いきなりハウツーに飛びつかないで、まずは描きたいことを煮詰めよう』って話したけど、4人の作品を見たら『技術論よりも描きたいことを固めることが大事』だってわかるでしょ?
コーセイ でも、テクニック的にすごくないですか?
サイトウ それはそうなんだけど、どれも『描きたいことを伝えるために技術がある』と感じる作品じゃない?
プロの漫画家たちが、ネームの段階でそれぞれどのくらいキャラクターを描き込むのかもまるで違うことがわかります。また、コマの大きさもそれぞれが見せたいものに合わせて大小さまざまな大きさになっています。
また、「描きたいことを固める」というのはキャラクターであったり、物語展開であったりと作品に関わるいろんなものです。
「このシーンが書きたい」ということもあるかもしれません。「Web時代の作家たち」でお話を伺った小説家の天祢涼さんはこんなことを仰っていました。
天祢:『希望が死んだ夜に』を書いた時には自分の中にあるものをえぐってえぐって書いたような気がした。それからは「このラストシーンが書きたい!」と思えるものだけに書くものを絞るようにしています。そうすると社会派路線か、『境内』のようなラブコメ路線という風になりました。基本的にはその二路線で行きたいです。
――そちらのほうが書き手としてバランスが取りやすいんでしょうか?
天祢:どっちか一本に絞ったほうがいいという人もいます。はっきり言えば、この社会派路線の方が評価は高いんです。しかし、「今回は子どもがネグレクトされたから、次はこれに違う虐待を加えよう」という風に、子どもを不幸な目に遭わせる展開ばかりどんどん求められるのではと危惧してるんです。
そう考えると、ラブコメのようなほんわか路線も書いていった方が自分の精神的なバランスも、書くもののバランスも取れるんじゃないかなと思ってます。
まず、自分がどんな作品を書きたいか決めていくとこぼれ落ちていくものもあると思います。すごくいいキャラクターだけど、この作品には合わないとかってありますよね。そういう場合は天祢さんのように方向性の違う作品を同時並行で書いたり、ひとつ作り終えたら違うタイプのものを書くなりをしていくことでバランスよく創作に向き合えるのかもしれません。
コーセイ はい。各先生方の2ページネーム、模写してみます……。みなさんの見せたいポイントと、そのためのメリハリのコツをつかみたいので。
サイトウ 見せたらなんだかしょんぼりしちゃったけど、君は君なりにやりたいこと、大事にしたいことを持っていればいいんだから。プロと比べて自分を卑下しないでね。同じテキストを元に描いても、描き手次第でこんなに差が生まれるのが漫画なんだってわかってくれればそれで十分です。最初に会ったときに『漫画の正解を知りたい』みたいなことを言っていたけど、同じお題から描いても、4人ともおもしろいでしょ? 可能性は無限大にあって『他の人とかぶるかもしれない』なんて心配しなくていい。そんなふうにぜひポジティブに捉えて、たくさん描いてみてください。
描き手次第でまったく違うシチュエーションやセリフ、キャラクーになった「2ページ漫画」ですが、それぞれの漫画家さんが設定を元に自分の中で描きたいものを深堀りしていった結果です。連載作品や長期で続いている作品は作者がどんどん自分の中に下りていくことで描けるものを、描きたいものを探しているのではないでしょうか。前回の村上春樹著『職業としての小説家』でも、そのことについて触れている部分を引用していました。
小説家の基本は物語を語ることです。そして物語を語るというのは、言い換えれば、意識の下部に自ら下っていくことです。心の闇の底に下降していくことです。大きな物語を語ろうとすればするほど、作家はより深いところまで降りて行かなくてはなりません。大きなビルディングを建てようとすれば、基礎の地下部分も深く掘り下げなくてはならないのと同じことです。また密な物語を語ろうとすればするほど、その地下の暗闇はますます重く分厚いものになります。
漫画家もここで書かれているように意識の下部に下りて行っているはずです。その時にきっと松明になったり、光を灯すアイテムになるのがきっと自分が影響を受けたり、好きな作品たちなのではないでしょうか。そして、たくさんの好きがあればあるほど、いろんなものを読んだり見たり聞いていたりすることで、「他人とかぶる」なんて悩みは消え去るはずです。
第一線で描き続けるプロの言葉
Q1.漫画を描き始めた頃に一番知りたかったことはなんですか?
Q2.漫画家を目指すと決めて、まず何をしましたか?(練習法や戦略など) また、効果的だった練習法はありましたか?
Q3.ネームを直す(自ボツ・編集の指摘など)ときに気を付けていることはありますか?
Q4.「連載前に準備しておくべきだった……」と思ったこと・ものはありますか?
Q5.漫画を描くときに心がけていることはありますか? ※自分なりのテーマなど
Q6.魅力あるキャラにするために気を付けていることはありますか?
Q7.魅力あるキャラにするために練習したことはありますか?
Q8.初めて投稿・持ち込みするまでに何作・何ページ描きましたか? 初投稿から雑誌掲載までに何作・何ページ描きましたか?
Q9.読みやすい漫画にするために気を付けていることはありますか?
Q10.1話(19ページ)のネームを完成させるのにどの位の時間がかかりますか?
Q11.1話(19ページ)の原稿作画を完成させるのにどれ位の時間がかかりますか?
Q12.ネーム以外で、漫画のネタだしや話作りのために何かやっていることはありますか?
Q13.読み切り漫画を描く上で、参考にしていたものはありますか?
上記がジャンプ作家さんへのアンケートの質問内容となります。16人の先生がアンケートに答えられていますが、私が気になったものを下記に引用しました。
芥見下々先生(『呪術廻戦』)
「Q5」の質問に対して、
自分と同世代にセンスいいと思われようとしないこと。
あんなの何年も前に流行ったやつだよ、とか古臭いとか思われたらイヤだな、と思ってしまうことってあると思うのですが、それを気にしないことも大切かもしれません。
「Q12」の質問に対して、
短編小説を読むのがオススメです。長い話にした時自分ならどう膨らませるか考えているとそこからアイディアが出ることがあります。
「短編小説」を読むのがオススメとのことですが、物書きの皆さんにはぜひ「短編小説」をたくさん書いてみてほしいです。「「表現力」って何ですか?」にこんな表現力アップ方法が書かれています。
表現力を鍛えたい! と思ったら、まずは短い話をたくさん書くのを、私としてはおすすめしたい。
一本の話をオチまで作るという作業は、文章力や表現力を上げるために絶対に必要な経験だ。これをやればやるほど小説の筋トレになると思ってくれてもいい。
吾峠呼世晴先生(『鬼滅の刃』)
「Q6」の質問に対して、
家族や友人、知り合いなど実在の人を参考にします。映画などの創作物も参考にしますが、存在している人の存在感が当然ですが一番強いです。
空想だけでキャラクターを作らない方がいいと思います。
なぜその人のことが好きなのか、嫌だなと感じるのか、尊敬できるのかなど、その理由をよく考えて分析します。
身近な人が実際にどんなことをしているのか、わかっているようでわかっていないですよね。そういう現実の人の行動やなぜそんなことをしたのかを考えることで、自作のキャラクターによりリアリティを増すようです。人間観察をしっかりしていきましょう。
篠原健太先生(『SKET DANCE』『彼方のアストラ』『ウィッチウォッチ』)
「Q13」の質問に対して、
藤子・F・不二雄先生のSF短篇集はバイブルのような存在です。ネームの巧みさ、アイディアの活かし方などが詰まってます。昔のレジェンドの作品は驚くほど短いページ数で傑作を描き上げているので勉強になります。
ちなみに僕が以前本誌に描いた読み切り「永久不滅デビルポイント」はSF短篇集の「メフィスト惨歌」、短期連載作「彼方のアストラ」は「宇宙船製造法」がアイディアの発端です。
小説家・二宮敦人さんに影響を受けたものを伺った際にも藤子・F・不二雄先生の名前が出ていました。
二宮:藤子・F・不二雄先生ですね。『ドラえもん』全巻持ってるんですけど、「大長編ドラえもん」では、大冒険したあとの大団円シーンのページが2ページぐらいだったりするんですよ。これはかなり驚異的だと思っています。藤子・F・不二雄先生の、要点をちゃんと掴んで端折っているように見えない技術を身につけたいな、自分も取り入れたいなと、年を取るごとに思います。
読んでいる時には短さを感じさせないんですよね。最後の2ページで大団円を十分感じさせてくれる。エンタメとして必要な要素をちゃんと抑えていて、読者が読みたい部分を削ってないから無駄がない。影響を受けていると自覚するほどなのは藤子・F・不二雄先生ぐらいでしょうか。いつも盗みたいなと思ってます。
温故知新と言いますが、今おもしろいものももちろんですが、過去のレジェンドたちの作品に触れてみるのも大事なインプットになりますね。
空知英秋先生(『銀魂』)
「Q7」の質問に対して、
人を好きになった時の、自分の心の流れを分析するようにしています。
最初から大好きな人より、最初は嫌いだった人を許せるようになった経緯なんかが使えます。たとえばいけ好かないイケメン俳優がバラエティ番組なんかに出てて、ふとした事で許せる瞬間が稀にあったりするじゃないですか。それはなんでか、その瞬間を分析して突き詰める。嫌いだった理由を許せた理由も。キャラづくりではこの「嫌い」と「好き」の行き来を自分で自在に作れるようになる事が大切だと思います。
自分の心の流れを分析するというと、例えば日記やエッセイのようなもので日ごとに感じたことや起きた出来事について書いておくのもいいかもしれません。
筒井大志先生(『ぼくたちは勉強ができない』)
「Q3」の質問に対して、
これはまず締め切りを自分で作ることが大切だと思います。
面白くする余地があるのなら時間制限内で徹底的に直すべきだと思いますが、最悪なのは完成させないことです。
作品が完成しない以上、その作品は絶対にどこへも繋がっていきません。編集さんと一緒に作っているのならその限りではないかもしれませんが、そうでないならまず自分でネームや修正にどのくらい時間がかかるのかを把握し、1日に何ページこなすのか、何日までに提出するかを決め、徹底的にそれを守る意識をするといいかもしれません。
〆切は大事です。わかっていても間に合わなかったり、完成させることができなかったり、という悔しい経験をしたことがある人も多いと思います。
王谷さんの書いた「「締切」って何ですか?」からの文章も紹介しておきます。
暴論を言うと、締切というのは「うまく諦める」ためにあるものだ。小説に限らず何か創作をする人は、どうしたって自分の理想の完璧な作品を作ろうとしてしまう。もちろんそれは尊い志なのだが、完璧なものは作れない。完璧を目指すと、永遠に作品は出来上がらない。そこを「ま、このへんで切り上げて」といなしてくれるのが締切だ。締切がある限り人は完璧な芸術を作れない。しかし締切がなければ、芸術は永遠に完成しない。世の中完成したもんが全てである。締切を作ろう。そして作品を完成させよう。
松井優征先生(『魔人探偵脳噛ネウロ』『暗殺教室』『逃げ上手の若君』)
「Q5」の質問に対して、
「お金を払ってまで読む価値があるもの」を常に目指し、念頭に置いています。
友達に読んでもらったり、立ち読みや違法ダウンロードで読まれるのが「ただの読者」、お金を出して買って下さるのが「読者」であり「お客様」です。
ここには歴然とした差があり、「お客様」を喜ばせたいと本気で思えば独りよがりの作品は絶対に描けません。
アンケートに答えた漫画家さんの中で松井先生だけが、「お金を払ってもらう」ことについて言及をしていました。確かに今は無料で作品が読めるサイトがたくさんあります。ただ、どうしてもその中から商品化したり、メディアミックスをすることでお金を払ってもらうものにしたいと企業は思っています。同時にたくさん読まれる場所では広告を企業が出しやすいので、それで投稿サイトが成り立っているという事実があります。
プロになるということは嫌でも「お金」の問題が出てきます。自分が新作が出ればお金を払って買いに行く作家さんがひとりはいるのではないでしょうか? その時の自分の気持ちと「お金を払ってまで読む価値」について考えてみるのもとても大事なことだと思います。
読んでいる量が増えれば「好き」「嫌い」がはっきりする
ここからサイトウの上司でもある編集者のアサダが登場。編集者のふたりはコーセイをやさしく見守りながら、彼の漫画家になりたい気持ちを後押ししてくれます。なんていい編集者なんでしょうか。編集者も人ですから、合う合わないという問題は発生します。
例えば、デビューしたところの編集者と合わなくて、自分の作品が認められないことでプロへの道や続けていくことを辞めてしまう人もゼロではありません。そういう場合は、人づてやネットなども使って他の出版社の編集者さんと合って作品を見てもらうことも大事なことです。
アサダ 作家さんたちによく言うんだけど、セルフボツをしてもいいことはないんだよね。たくさん描けばその分伸びる。同じ100ページを描くのでも、長編1本描くより25ページを4本描いたほうが伸びる。根拠は僕の経験でしかないけど、物語のピリオドを打てば打つほど漫画はうまくなるんだ。
サイトウ 僕が短い漫画でいいからたくさん描こう、と言っていたのはそれもあります。
サイトウ 納得いくものを描いて編集者からフィードバックをもらうのが一番いいよ。でも『心の残りがあるものを見せても……』と思っていると、得てして完成しなくなる。自分のなかでハードルが上がっちゃうから。そうなるよりは、たとえば自分の日々の生活、その日のご飯や観た映画の冒頭や遊んだゲームとかを漫画にするでもいい。短くてもいい。とにかく毎日描き続けるといいと思う。
さきほどの「「表現力」って何ですか?」の引用にも出てきましたが、長いものが書けない時は短いものを書いていきましょう。そして、大事なことはその短編を最後まで書いて物語を終わらすことです。
また、無理に物語を作らなくても、日々の中の出来事や他の創作からのインスピレーションで書いてみるものもよい練習になりそうです。
アサダ 編集者に会うのは負荷が大きいからSNSにアップする方がいいという人もいる。その気持ちもわかる。ただ注意すべきはリツイートやいいねの全ては『繰り返し味わいたい』=『コミックスを買いたい』の表明ではないこと。それと、漫画家もSNSで告知したり作品を発表する時代になったという声は大きいけど、人気の作家さんでもやってない人はたくさんいるから、合わなければもちろんやらなくていい。
SNSについては、『君の膵臓をたべたい』の担当編集者だった荒田さんも同じようなことを言われていました。
荒田:やるべきじゃないとは思わないのですが、向いている人と向いていない人がいるとは思っています。SNSを使うかどうか、迷うぐらいであれば、使うべきじゃないかもしれません。ツイッターで読者が獲得できることは事実ですが、読者と直接向き合うことは必ずしもいいことばかりではありません。
一番のデメリットは心が折れることです。特にエゴサーチ(特定のワードを検索すること)は避けたほうがいいです。あの行動は編集でもショックを受けますので。著者の方が直接されてしまうと……。
(中略)
もちろん読者と向き合うことも大切なんですが、読者からの指摘が常に正しいとも限りませんし、正しくても物語性を損なうものであっては受ける必要はありません。SNSは情報が常に更新されるので、そこにあまりのめりこみすぎず、作品作りに集中するメリットも大きいと思います。
例えば、編集者からやってくださいと言われても、自分には合わないと思ったらやるべきではないです。また、自分は問題ないと思っても、ふとした発言によって炎上してしまうこともあります。時代の変化と共に価値観なども常に変わっていっています。そのこともしっかりインプットしておきましょう。
コーセイ サイトウさんが最初に言っていたことに戻るんですね。ディスられてへこむ前までは趣味の合う友達と漫画の話をたくさんしてます。ただ、それ自体は楽しかったですけど、描きたいものがハッキリしたかと言うと、まだまだぼんやりしています。
アサダ もしかしたら読んでいる量が少ないのかもしれないね。もっとたくさんの、今まで手を出さなかったジャンルの漫画を読んで、自分の『好きな作品』『嫌いな作品』を感じてみたら? もちろん漫画以外の、本や音楽や映画、YouTubeでもなんでもいい。自分の心だけに向き合うより、外部の作品を読んで『感じて言語化する』方が気づきやすいよ。強烈に嫌いな作品が出てきたら、ラッキーだ。その裏返しが、自分がこうあって欲しい!というものだから。それこそ担当編集者のオススメの漫画を片っ端から読んでみるのも一手。自分の好き、嫌いがハッキリしてくれば、描きたいものも自然に出てくると思う。
また、インプットの話かよ、と思った人もいるかもしれませんが、「小説の書き方本を読む」だけではなく、「monokaki」ではずっとインプットについて書いてきました。まず母数を増やさないことには自分が本当に好きなものや嫌いなものがハッキリしません。
一番いいのは、誰かにオススメされたものはまず試してみるというのを実践していくことになるかと思います。本来なら手に取ることのなかったものを手に取るというのは大変なことです。しかし、オススメされたものをそうやって試していくと食わず嫌いしていたものがわかったり、自分の知らなかった世界が広がることで、よりあなたの創作意欲が湧いてくるはずです。
アサダ 作家さんは『やりたいこと』だけを優先したくなる。はじめはそれでいいよ。でも求められている部分は受け入れると、ぐんと伸びることがよくある。
コーセイ ううーん、混乱してきました。どうしたらいいんでしょう?
サイトウ 最初は『好きに描く』。そこから『人に向けて描く』へと切り替えるタイミングが来る。そのとき試行錯誤しながら適性を引き出して『やりたいこと』と『求められること』の折り合いを付ける。自分の好き嫌いを固めないうちにははじめから『人に向けて』だけを意識すると迷子になりやすい。だから『やりたいこと』から始めて土台を作る。その基礎を元に、『求められること』にステップアップする。そのふたつは両立しないというより、順番かな。
まずは自分に向けて作る。そして他者に向けて作るという風に段階をつけていくことで、少しずつステップアップできるはずです。すべての創作の土台は結局のところは自分の好きなものになるので、まずなにが好きなのかを考えてみるのがすべてのスタートになります。また、作ることに疑問や行き詰まりを感じたら、そこに立ち返ることで次の段階に行けるきっかけになるのではないでしょうか?
この『描きたい!! を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』でも度々書かれてきましたが、創作者にはどうしてもインプットが必要になります。そのインプットは食事だと思ってください。食べたものがあなたの身体を構成する材料になっていくように。「monokaki」はただ愚っ直に同じことを言い続けていこうと思っています。みなさん小説(漫画)を読んで書いて(描いて)いきましょう。
『描きたい!! を信じる少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』
著:週刊少年ジャンプ編集部 集英社
漫画を描くときに必ず出てくる疑問から練習法、描けない時の壁の超え方などから、ジャンプの大ヒット漫画家たちの描きおろしネームやアンケートを大ボリュームで収録!!
<収録内容>
第1章 技術論の前に「描きたいもの」を育てる
第2章 2ページ漫画を描こう
第3章 ジャンプ作家アンケート
第4章 悩んだら「やれるところから、好きなように」に戻ろう
第5章 デジタル作画のコツーーミウラタダヒロ先生に訊く!
第6章 アナログ作画のための道具選びーー四谷啓太郎&田代弓也両先生が語る!
「monokaki」は、エブリスタが運営する「物書きのためのメディア」です。